日本の財務大臣に米イエレン財務長官が適任である「理由」
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前日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が12月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米FRBが決定した0.5%の利上げについて解説した。
米FRBが0.5%の利上げを発表 ~パウエル議長は「継続的な利上げが適切」と発言
アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、12月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げを決めた。3月にゼロ金利政策を解除し利上げを開始して以降、上げ幅の縮小は初めてとなる。また2023年末の政策金利見通しは、9月時点の4.6%から5.1%に引き上げられた。
利上げ幅が0.5%へ縮小した一方で物価見通しが上がっている ~強いアメリカ経済
飯田)パウエル議長はFOMC終了後に、「この1年、力強い行動を取ってきた。急速な引き締めの効果が完全に現れるのはこれからだ。継続的な利上げが適切だ」と発言しています。今回の発言も含めて、どういうところに注目されますか?
片岡)今回は同じタイミングで政策委員の皆さんの物価見通し、金利見通しが出ていますけれども、利上げ幅は0.75%から0.5%へと縮小した一方で、物価見通しが全体的に上がっています。
飯田)物価見通しが上がっている。
片岡)足元の経済動向を見ても、GDPの成長率自体も政策委員の平均見通しが上がっています。2022年は特にそうです。2023年以降は少し下がる形なのですけれども、やはり足元のアメリカ経済が非常に強い。そのなかで、どういう舵取りをしていくのかという問題にパウエルさんは直面しているわけです。
飯田)アメリカ経済が強いなかで。
当初、物価が下がらないので利上げを積極的に行う発言をしたパウエルFRB議長 ~利上げ幅は縮小したが先はまだ長い
片岡)ジャクソンホール会議以降の流れという意味においては、パウエルさんは当初、物価がなかなか下がらないので「利上げを積極的に行います」という話をしていました。
飯田)そうですね。
片岡)そのなかで足元の物価上昇率が下がってきているため、0.75%ではなく0.5%という話になっていますが、まだ先は遠いという印象です。
飯田)ジャクソンホール会議は、夏に行われる各国の中央銀行の幹部や経済学者などが集まる会議です。そこでは「利上げしてインフレを抑えないと仕方ない」という話をしていたのですが、トーンが落ち着いたという感じでもないですからね。
2023年も3回は利上げする ~2025年まで続くのではないか
片岡)そうですね。まだまだ先は長いなと。今回、政策委員の方の物価見通しを見ても、個人消費者支出(PCE)デフレーター、コアないしはヘッドラインのPCEを見ても、2025年で2.1%というのが中央値ですから。2025年、これから3年後ですね。平均として見ると2%をやや上回る。近傍という言い方もできますが、とはいえ2025年くらいまではかかるということです。
飯田)2025年、あと3年間はブレーキを踏んでいって、ようやくある意味でFRBの政策目標に到達するという、長い話になってきますね。
片岡)来年(2023年)も、ブレーキを踏んでも「平均的に3%超の物価です」という状況なので、長丁場になることをマーケットも含めてよく認識しておく必要があると思います。0.75%から0.5%、あとは金利見通しからすると、来年も3回くらいは行われるのではないでしょうか。
飯田)利上げが。
片岡)そこで止めるのではないかという話になっていますが、これまでの流れからすると物価見通しが上がるなかで、政策金利の見通し自体も上がっていますので、もう少し利上げが続く期間が長くなると見ておいた方がよいかなと思います。
需要超過で労働市場も強い ~労働市場が軟調にならなければ物価は安定しない
飯田)今回の利上げでアメリカの短期金利、FF金利の誘導目標がだいたい4.25%~4.5%くらいになってきました。政策委員、FOMC参加者の概ねの見通し金利は、2023年末で5.1%です。そのギャップを考えると、あと2~3回は0.25%の利上げだとしても行われるということですか?
片岡)そういう感じですね。金利が5.1%で止まる保証は、いまのところまったくありません。なおかつ、やりすぎてしまうと当然、景気は悪化しますし、失業率も悪化してしまいます。
飯田)やりすぎてしまうと。
片岡)いまのアメリカの物価を見る限りにおいては、やはりアメリカの労働市場が強いのです。賃金の状況もそうですし、労働市場自体も需要超過で引き締まっている状況です。
飯田)労働市場が強い。
片岡)ですから、こうした話を利上げで抑え込んでいくことになれば、結果的に労働市場がかなり軟調にならないと、物価そのものは安定してこないのではないかと思います。
需要超過の労働市場
飯田)アメリカの失業率は、いま3.7%くらいです。「5%を切れば完全雇用なのだ」と言われていたくらいですから、相当引き締まっています。これは働く人が足りないということですか?
片岡)両面あるのではないでしょうか。コロナ禍もあって、労働市場でミスマッチが起こっている。供給側の要因と、働かなくても大丈夫だという人もいます。
飯田)失業保険もひところはかなり出ていました。
片岡)経済対比、利上げ対比でアメリカ経済が非常に強いという意味での需要もあるし、従来と比べると労働供給が絞られているところもあって、両面で需要超過が起こっているのだと思います。
日本の財務大臣にはイエレンさんになってもらうのがいい ~景気がよく、物価が上昇していても増税しないバイデン政権
飯田)いま金融政策で、中央銀行にあたるFRBが一生懸命やっています。一方、財政政策の部分では、これだけ景気がよくて物価が上がっているのであれば、それこそ増税しても十分耐えられるのではないかと思うのですけれども。
片岡)そうですね。
飯田)バイデン政権的には、そうはならないのですか?
片岡)そうですね。ですから、バイデンさんと岸田さんが交代すると、ちょうどよいかなという気がします。
飯田)なるほど。確かにバイデン政権は、トランプ政権もそうでしたけれど、コロナ対策という意味では積極的に財政出動しましたものね。
片岡)取りも直さず、ある意味では「日本の財務大臣にはイエレンさんになってもらうのがいい」という話とイコールになるのです。
飯田)なるほど。
「増税が与える国民の痛みにどれだけ想像力を持って対応できるか」を考える財務大臣になって欲しい
片岡)「統計で見える経済のうしろにある人たちの生活を考えなさい」とイエレンさんはおっしゃっています。最近テレビ番組でもそういうことをドキュメンタリーで話しているのですけれど、増税するとなったときに、「そのうしろにいる国民の皆さんの痛みに、どれだけ想像力を持って対応できるか」と考える財務大臣になって欲しいですよね。そうであれば、いま増税はしないと思います。増税にコミットメントすることは多分ないと思うのです。
飯田)イエレンさんはFRB議長のときも、少しインフレが上がってきたけれど、雇用がまだまだ回復できるから続けるのだということを、信念を持って言っていた人ですものね。
片岡)いま日本にとって必要なのは、そういうことに配慮できる方です。高圧経済でやるのだと。日本は2%の物価安定まで、まだ途中の段階にあるわけです。早すぎる増税や引き締めなどは、絶対にやらないようにしないといけません。
飯田)早すぎる増税や引き締めはやらないようにしなければならない。
片岡)そういうことに理解がある方でなければダメだと思うのです。ですから日米逆転していただくと、ちょうどよいのではないかと思います。
飯田)なかなかうまくいかないものですね。
片岡)そうですね。
このタイミングでの安易な増税のアナウンスはやめるべき
飯田)日本にとっての外需であるアメリカ経済が好調だということで、製造業などがいまかなり好調です。しかし、いまこのタイミングで内需も対策しておかないと、来年、海外経済が少し失速したとき、一緒に日本も沈むことになりかねませんよね。
片岡)いつもの景気後退のパターンです。海外経済が腰折れし始めると、内需のサポートがないので、もともと弱い消費に加えて設備投資が落ちていく形になりがちです。
飯田)いつもの景気後退のパターン。
片岡)そのためには補正も含めて、もっと下支えする必要があると思いますし、繰り返しになりますが、このタイミングで安易な増税のアナウンスは絶対にやめるべきです。
飯田)景気の気は気分の気だと言いますけれど、年末に向けて気分が削がれますからね。
片岡)円安の効果や企業利益の拡大もあって、ただでさえ税収が増えているのです。デフレから完全に脱却して賃上げ、企業利益の拡大というサイクルが回り始めれば、もっと税収が上がると思います。そこを財源として、いろいろやるべきことをやっていく必要があると思うのです。いまのタイミングで増税してはダメです。
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