存在意義を問われるダボス会議 「分断と協力」の答えはあるのか
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ジャーナリストの佐々木俊尚が1月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ダボス会議について解説した。
ダボス会議が始まる
飯田)1月16日からスイス東部のダボスで始まった「世界経済フォーラム(WEF)」の年次総会、通称ダボス会議についてです。企業経営者など、およそ2700人が参加しています。今年(2023年)のテーマは「分断された世界における協力の姿」だということです。
佐々木)「分断と協力」という、相矛盾するような言葉をどうやってつなげるのかという、難しい問題ですよね。
米ソ冷戦が終わり、「戦いの歴史は終わった」と言われたのだが
佐々木)振り返ってみると、冷戦が終わったのが1990年くらいで、いまから30年少し前です。そのころは東側と言われた社会主義圏がほぼ消滅して、これからは民主主義的な西側諸国中心の世界がやってくると。それは歴史の終わりだと言われていました。つまり「戦いの歴史が終了するのだ」ということを、アメリカの政治学者が言ったのです。
飯田)未来は明るいと。
佐々木)その10年後くらいに9.11アメリカ同時多発テロが起きて、「これからはテロの時代だ」と言われました。ただ、相手はイスラム過激派など非対称(の戦争)でした。国と国が激しく対立する時代ではなく、少数のテロリストが出てきて世界を混乱させるのは大変だ、という話で終わっていたのです。
ロシアのウクライナ侵略によって、再び起こった戦争 ~中露にどう向き合うか
佐々木)まさかこのように国対国、対称の戦争が起きるなど、当時はまったく予想していなかった。
飯田)ロシアとウクライナという。
佐々木)昨年(2022年)来のウクライナ侵攻で、とうとう終わりになったかと。その前から中国の台頭で「新しい冷戦だ」と言っていたのですが、ロシアがウクライナを侵攻し、中国との関係もあり、いわゆる強権国家、2つの超大国であるロシアと中国に対して、どう向き合うのかということになった。
機能しない国連
佐々木)現状、未だに国連中心のような幻想を抱いている日本人は多く、安全保障の議論でも集団的自衛権が必要だと言うと、「国連の集団安全保障体制で十分だ」と言う人がいるのだけれど、結果的に今回、ウクライナ侵攻では何も機能していないわけです。
飯田)そうですね。
佐々木)国連軍が出てくるわけでも何でもない。
それでも中露抜きでは世界をまとめることはできない ~しかし仲間に入れられるのか
佐々木)しかし、ロシアと中国を抜いた、他のいわゆる先進7ヵ国(G7)諸国などが中心となって安全保障体制をつくれるのかと言うと、「中露抜きで話し合ってどうするのか」ということになります。
飯田)中露抜きでは。
佐々木)現状、西側諸国は日本も含めて、アメリカや北大西洋条約機構(NATO)諸国でウクライナを支援しています。それはそれで進めるのですが、やはり全体的な国際社会の枠組みをみんなで考えることになったとき、中露抜きでは語れないから仲間に入れないといけない。しかし、仲間に入れるにしても、あまりにも人道に反することをやっています。
飯田)ロシアも中国も。
佐々木)先日も空対艦ミサイルを集合住宅に撃ち込むなど、ロシアは人道に反する行為をしています。そしてウイグル問題やチベット問題を抱えている中国と、どうやって共通認識、同じ立場で話し合えるのかは見通しが立っていません。ダボス会議で話し合うのはいいのですが、「答えはあるのか」という問題になるのです。
存在意義を問われるダボス会議
飯田)そうですよね。もともとこの会議は「グローバリゼーションをどう進めるのか」という観点でやってきたわけで、ある意味、存在意義を問われているのですか?
佐々木)そうですね。
中露との経済と政治の分断をどうするか
佐々木)ある時期までは中国などに関しても、グローバリゼーションで世界と経済が密接につながっていると。中国が民主化されれば、仲間に引き込んで、西側の一員になるだろうという期待があったのです。
飯田)経済が進めば。
佐々木)ロシアもそうです。プーチン大統領が出てきた2000年代初頭は、リベラルな若い指導者が出てきて、これから西側諸国やNATOと仲よくできるのではないかという雰囲気があったのです。
飯田)当時は。
佐々木)その夢がすべて崩れ去ったのが、2020年代での現実なのです。経済のグローバリゼーションは今後も進み、おそらく終わることはない。実際に中国と対立しても、iPhoneは中国で組み立てられているのです。ただ、経済と政治の分断をどうするのか。
飯田)どちらかと言うと、経済の部分でも経済安全保障などという言葉がメジャーになってきたように、どんどん政治に引っ張られる形になってきました。
現在の状況は第一次大戦、第二次大戦前のブロック経済と同じ
佐々木)だから日本も食料や素材、原材料なども含めて、グローバリゼーションなどではとにかく「引っ張れるところから引っ張ればいい」というような発想でした。
飯田)安いところから。
佐々木)しかし、シーレーンは守らなくてはいけないし、中国から入ってこない可能性がある。それならば自分たちと「協力関係にある国から輸入する」という方向に舵を切らなくてはいけなくなった。これはまさに第一次世界大戦、第二次世界大戦前のブロック経済と同じ状況になってきているわけです。
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