「ヘイトクライム」のない世界について考える 宮家邦彦

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が1月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「ヘイトクライム」のない世界について解説した。

「ヘイトクライム」のない世界について考える 宮家邦彦

米ニューヨーク市内で開かれた、アジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)に抗議するデモに参加する人たち=2021年3月19日 写真提供:産経新聞社

ロサンゼルスでの銃乱射事件 ~アジア系への差別が再び高まるアメリカ

人種や宗教、性に対する偏見や差別などが原因で起こる憎悪犯罪を「ヘイトクライム」と言うが、コメンテーター・宮家邦彦氏にヘイトクライムなき世界を目指すヒントとなった出来事について伺う。

飯田)産経新聞で連載しているコラム「宮家邦彦のWorld Watch」の1月26日付の紙面では、『「ヘイト」なき世界を目指し』というタイトルで書いておられます。

宮家)1月21日が春節の大晦日で、そのときにロサンゼルス近郊で銃乱射事件が起きました。アジア系を中心にかなりの人が亡くなり、非常に心配しました。アメリカが中国に厳しいせいもあるのだけれど、アジア系に対する差別が最近また高まっているではないですか。

飯田)コロナ禍でより高まったという話ですね。

宮家)でも差別は、アジア系だけではないのです。アメリカは移民の国ですから、もちろん白人が大多数だった時代はともかく、徐々に非白人の移民が増えていった。いわゆるヒスパニック系と言われるスペイン語を話す人たちや、中国も含めたアジア系。韓国もいるし、昔は日本もいました。アフリカ系はかつて奴隷制の時代に来た人たちなど、アメリカはいろいろな人種のるつぼですから、当然差別はあるのです。

「ホロコーストにガス室はなかった」という記事を掲載して出版社が自主廃刊した「マルコポーロ事件」

宮家)今回このコラムを書いた最大の理由ですが、「マルコポーロ事件」を覚えていますか?

飯田)マルコポーロ事件ですか。

宮家)1995年に起きた事件です。

飯田)「マルコポーロ」というのは雑誌の名前ですね。

「サイモン・ウィーゼンタール・センター」というユダヤ系の団体 ~「反人種差別」と「信仰の自由」を重視

宮家)長い話を短くまとめると、「ホロコーストにガス室はなかった」という記事が出て、出版社が自主廃刊した事件です。そのときに一世を風靡したというか、大変怖い人たちだと思われたのが、ロサンゼルスにある「サイモン・ウィーゼンタール・センター」というユダヤ系の団体でした。たまたま私はそこのユダヤ教のラビと友達なのです。

飯田)宗教的指導者の方と。

宮家)その人がこの間、また日本に来ました。ユダヤ教のラビは正統派ですから、安息日をしっかりと守るのです。

飯田)毎週土曜日の。

宮家)ですから、彼らは変な圧力団体ではありません。雑誌「マルコポーロ」の件だけでなく、世界中の「ホロコーストはなかった」という発信に関しては、全部厳しくやります。しかし、それだけではないのです。ユダヤ系の団体がユダヤのことばかり対応していると思ったら大間違いで、彼らは「反人種差別」と「信仰の自由」を非常に重視しています。

中国によるウイグルのムスリムに対する弾圧に抗議 ~ムスリムは敵だけれど敵ではない

宮家)その方は今回、アメリカ議会がつくった超党派の「米国際宗教自由委員会」という組織があるのですが、その副議長としても来日したのです。日本で何を話すのかと思ったら、中国によるウイグルのムスリムに対する弾圧は、「国際的な宗教の自由に対する弾圧である」と抗議しているのです。

飯田)ウイグルの。

宮家)彼はユダヤ教徒なのですよ。ユダヤ教徒が中国にいるムスリムの信仰の自由を守ろうと言っているのだから、要するに良い意味で見境がないのです。

飯田)通常のユダヤ教徒として考えると、ユダヤ教徒の方々を中心に国をつくっているのはイスラエルである。イスラエルが中東の地で最も角を突き合わせているのは、イスラムの方々です。

自分たちを守るために、他の人たちの信仰の自由も守るユダヤ教の信仰者

飯田)敵ではないのですか? どうしてですか?

宮家)中国におけるムスリムの信仰の自由がもし害されるのであれば、いずれどこかのユダヤ人の信仰の自由も侵されることになります。だから彼らは自分たちを守るために、他の人たちの信仰の自由も守るのです。それは一貫しています。ですので、私は「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が変な圧力団体だと思ったことは決してありません。

飯田)筋を通しているのですね。

宮家)そうです。事実に基づいてものを書けば、彼らは何も言いませんよ。逆にウイグル(に対する弾圧)のやり方はメチャクチャですからね。「あれはジェノサイドだ」と彼は言っていました。

アフリカ系アメリカ人による公民権運動を最も支持したのはユダヤ系アメリカ人

宮家)アメリカ国内は差別の塊なのです。常に差別があるのですが、それに対してきちんと声を上げているのはユダヤ系の団体で、いちばん関心が高い。それは自分たちの問題だからです。自分たちを守るために人種差別に反対している。アフリカ系アメリカ人たちは奴隷解放のあと、公民権運動を始めるのだけれど、それを最も支援したのはユダヤ系アメリカ人です。

飯田)そうなのですか。

宮家)決してアフリカ系とユダヤ系は仲がいいわけではないけれど、ユダヤ系の人たちは自分たちを守るためにアフリカ系を守る。あるいはムスリムを守る。それを我々は理解しなければならないと思います。たまたま私は中東が専門ですから、ユダヤのこともアラブのこともイスラムのこともある程度は知っています。彼らを恐ろしい団体だと思ったことは1度もないです。

飯田)大義のようなものがある。

宮家)筋が通っていますよね。それが理解できれば、あまり難しいことではありません。もちろん敵に回したら大変ですよ。

飯田)筋を違えてしまえば、「どういうことだ? きちんと説明してもらおうか?」と。

宮家)説明できればいいわけです。その意味では、彼は最初1995年に来日しているわけですから、それ以来日本に関する考え方をいろいろと変えているのではないかと思います。

ユダヤ教の人たちを正確に理解すれば「ユダヤの陰謀」など半分以上、信用できなくなる

飯田)今回はどうして来日したのですか?

宮家)今回はたまたま来たのでしょうね。「神社に行きたい」と言うのですよ。

飯田)神社ですか。

宮家)私の周りにあまり知っている人がいないのだけれど、産経新聞のコラム編集の方がご存知だったので、紹介してもらいました。そうしたら、何と案内してくれた神職の人が元外務省員だったので、英語がとても上手だったのです。

飯田)そうなのですね。

宮家)2人で神道のことを話していました。

飯田)ユダヤ教と言うと、かつて血で血を洗うような悲惨な歴史もあったわけですよね。そういうところとは違って、お互いにわかり合いながら、お互いの権利を守っていくという。

宮家)彼らを正確に理解したら、「ユダヤの陰謀」など半分以上、信用できなくなります。知らないからこそ陰謀論を信じてしまう人がいるのだけれど、ぜひこういう方々と仲よくなって、本当のユダヤ教の神髄を理解してもらいたいと思います。

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