日銀新総裁に起用される植田氏の「見どころ」と「危惧」するところ

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ジャーナリストの佐々木俊尚、岩田明子が2月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。新総裁に植田和男氏が起用されることが明らかになった日銀総裁人事について解説した。

日銀新総裁に起用される植田氏の「見どころ」と「危惧」するところ

【第1回「構造変化と日本経済」専門調査会】冒頭で挨拶する植田和男会長=2008年2月26日午後6時30分、東京・霞ヶ関 写真提供:産経新聞社

政府、日銀新総裁に植田和男氏の起用案を国会に提示

日本銀行の新たな総裁人事で、政府は2月14日、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する案を国会に提示した。植田氏は71歳。マクロ経済学や金融論を専門とする経済学者で、1998年から日銀の審議委員を7年間務め、ゼロ金利政策や量的緩和政策の導入を理論面で支えた。

日銀総裁を選ぶ2つの基準 ~アベノミクスを維持するスタンスを持っているか、海外の中央銀行の人と交流できるか

飯田)2人の副総裁については、前金融庁長官の氷見野良三氏と、日銀理事の内田真一氏を充てる案を提示したということです。学者出身の総裁は戦後初めてとなります。

佐々木)いままでは大体、財務省か日銀かという感じだったわけです。

飯田)これまでは。

佐々木)選ぶ基準としては、アベノミクスを一応は「維持する」というスタンスを持っている人かどうか。もう1つは、海外の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など、中央銀行の人たちときちんと交流できるかどうかということです。

飯田)海外の中央銀行の人たちと。

佐々木)「インナーサークル」という言い方をしますけれど、インナーサークルの人かどうかという意味で言えば、かつてアメリカの財務長官だったローレンス・サマーズさんは、植田さんを「日本のベン・バーナンキだ」と言っています。

飯田)ベン・バーナンキ。

佐々木)バーナンキさんと言えば元FRB議長で、ノーベル賞も獲っています。アベノミクスを「正しい」と評価している、いわゆるリフレ派の学者です。

飯田)そうですね。

佐々木)そこを見ると、いまの異次元の金融緩和を維持する人材なのかなという気がするのですが、一方で、本当に大丈夫かという意見もいくつか出ています。

「ゼロ金利政策に賛成ではない」発言もある植田氏

佐々木)日銀の審議委員だった片岡剛士さんが勤めていらっしゃる「PwCコンサルティング」のレポートに、興味深いことが書かれています。

飯田)レポートに。

佐々木)同じ日銀の審議委員だった原田泰さんの『デフレと闘う』という回顧録がありますが、その本のなかに2016年のパーティーで、植田さんが「長期金利0%のままペッグしていると、ハイパーインフレになるかも知れない」というようなことを話していたと書かれています。

飯田)回顧録に。

佐々木)そう考えると、必ずしも「いまの金融緩和、ゼロ金利政策に積極的に賛成でないことは明らかであろう」と片岡剛士さんは指摘しています。

金融緩和をやめさせたい財務省との綱引きがどうなるかが見どころ ~植田氏がどういう判断をするのか

佐々木)財務省寄りの日経新聞も、いまの異次元緩和には反対ですから、さっそくこのような記事を掲載しています。

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『植田日銀、10年緩和の出口担う 市場のゆがみ限界に』

『発行済み国債の半分を日銀が買い占めるという異常事態を招き、市場のゆがみも限界に近づいてきた』

~『日本経済新聞』2023年2月15日配信記事 より

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佐々木)日経新聞としては、植田さんにいずれは(金融緩和を)やめさせて欲しいという強い意思が働いていて、背後に少し「Z(財務省)」を感じますけれどね。その辺りの綱引きがどう働いて、「植田さんがどういう判断を下すのか」が見ものですね。

事前にこれほど派手に日銀新総裁として名前が新聞に出たことはなかった ~日経新聞が「雨宮氏に就任打診」として報道

飯田)人事の意思決定の部分で、別の名前が日本経済新聞などで書かれていました。

岩田)雨宮さんの名前もね。

飯田)そうですよね。相場も振れるような状況がありました。

岩田)日銀総裁が誰になるかは最大の関心事でしたから、各社の取材合戦も激しかったのですけれど、日銀総裁人事について、事前にこれほど派手に紙面に名前が出てしまったことは、これまでの私の記憶ではありません。2008年に白川さんの就任が決まったときも、当時、私は平河クラブにいたのですが……。

飯田)自民党クラブですね。

岩田)議院運営委員会が始まるころに内部から情報を聞き取って、「やっと報道」というようなタイミングでした。

飯田)正式に人事が提示される議院運営委員会が始まるまでは、まったく情報が漏れなかったということですね。

日銀新総裁に起用される植田氏の「見どころ」と「危惧」するところ

※画像はイメージです

新総裁となる植田氏の名前が事前に出ることも異例

岩田)第2次安倍内閣で黒田さんに決まるというときも、事前に情報が出ることはありませんでした。これほど早く、数日前に雨宮さんの話が出た上で、新総裁となる植田さんの名前が事前に、しかも副総裁の名前も出るのは異例だと思います。

飯田)日銀総裁人事では、かつて「事前に報道で名前が挙がった人は相応しくない」と言われ、2008年の白川総裁誕生の前には、武藤さんの名前が挙がったこともありました。

岩田)挙がりましたね。

飯田)そして潰れてしまいましたが、そのくらい事前の報道はセンシティブでしたよね。

岩田)非常にセンシティブで、国会軽視だということにもなりますし、人事についてはどの内閣も情報管理をしっかり行ってきたのですけれど、今回は数日前に報道されてしまいました。しかもご本人も各社のインタビューに答えているというのは、かなり珍しいケースだと思いますね。

「事前報道は国会軽視」と憤る立憲民主党議員 ~「相談がなかった」と言う与党幹部も

岩田)実際に立憲民主党の議員のなかには、「厳重に抗議したい」と。本当はオフレコの場だったのですけれど、「もうオンで報道してもらっても構わない。事前報道は国会軽視である」と語っている議員もいました。

飯田)国会軽視だと。

岩田)与党のなかにも、「自分のところには連絡がなかった。私は反主流派ということでしょうかね」と自虐的におっしゃる幹部もいるくらい、相談がなかったという話で、まさにサプライズ人事だったと思います。

かつては起用に反対する側がメディアに事前にリークして潰すことも ~ガバナンスの面では課題が残る

佐々木)起用に反対する側が事前にメディアにリークして潰す、という方法はよくありますよね。

岩田)そうですね。

佐々木)経済部などが取材している会社の社長人事などではよくあります。新聞などに「社長内定」というような記事が出ると、「事前に漏れた」ということで、その人事が潰れる場合がありますが、実は社内の反対派が情報を流していたというのはよくあるケースです。メディアを巻き込んだ陰謀合戦ですよね。

飯田)昭和の時代や平成初期にはあったけれども、ここ10年くらいは「そういうところで足を引っ張り合うのはやめよう。政策で、国会で議論しよう」という流れになっていましたよね。

岩田)これまでも役所の事務次官人事が事前に出てしまい、その話が立ち消えになって、結局は本流とされていた人が次官になれないという例もありました。しかし、この辺りは情報管理ができてきたはずなのですけれども、今回はかなり異例の形でした。

飯田)今回は。

岩田)話が飛びますけれど、総務大臣など3閣僚の辞任が相次いだときも、根回しが終わる前に報道に出てしまって、官邸がぎくしゃくする場面もありました。ガバナンスの面では課題が残ったのではないでしょうか。

学識経験者の起用は大きな変化になる可能性も

岩田)ただ、植田さんの名前を初めて耳にしたときは、ずいぶん昔の人という印象でしたけれども、現状はリフレ派でも反リフレ派でもない人で、国際社会のなかで名前も知られていて交渉力もある。「こういう人をよく見つけてきたな」という印象はあります。

佐々木)ブルームバーグが「植田 who?」というような記事を出していました。

飯田)「誰だ?」ということですね。

佐々木)そのなかで面白い指摘をしていました。学識経験者の起用は、日本にとって大きな変化なのではないかと。財務省と日銀が対立していた状況を、第三者となる学識経験者が出ることで超越できるのではないかと書かれています。

飯田)学識経験者である植田氏によって。

佐々木)ブルームバーグがそう指摘していて、それはそうかも知れないと思いました。

現場経験のない学者出身の植田氏 ~日銀総裁に必要な組織運営や割り切り、大胆さが未知数

飯田)安倍さんの回顧録のなかでも、「財務省は政権を潰しにかかることもあるのだ」という話が出てきますが、人事についてもそういう部分があるのですか?

岩田)財務省の希望はかなり強くあったと思います。それを汲みながら、その上で清和会への配慮があり、あとは何よりもマーケットです。経済を崩さないために、とりあえず現状を維持するしかない状況のなかで、「最適解を選ぼうとした」とは受け止めましたけれども、植田氏自身が「現時点で」という言い方もしていましたので、どこかで出口を目指していることが匂ってしまうのです。

飯田)どこかで出口を。

岩田)学者ならではの論理力はあると思うのですけれど、マーケットに対しては、より明確なメッセージを出していく必要があるのではないかと思います。曖昧な表現をしていると、マーケットに混乱を生む危険性があるのではないかと危惧しています。

飯田)なるほど。

岩田)それから、やはり学者ですので、現場経験がありません。組織運営や割り切り、大胆さなどは未知数です。

飯田)そうですね。

岩田)こういったところは、副総裁の内田氏と氷見野氏が支えていくのでしょう。そうなると、内田氏と氷見野氏の存在感の方が増していくことにもなりかねないと思います。

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