ジャーナリストの須田慎一郎が2月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2月18日に発射された北朝鮮の大陸間弾道ミサイル「火星15」について解説した。
北朝鮮のミサイル発射を受け、日米韓の外務大臣が緊急会談
北朝鮮が2月18日に大陸間弾道ミサイル「火星15」を発射したことを受け、日本・アメリカ・韓国の3ヵ国は訪問先のドイツで外相会談を行った。会談では「国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦だ」との認識を共有。抑止力の向上など、日米韓の連携を強化していくことで一致した。
飯田)防衛省によると、2月18日夕方5時21分ごろ、北朝鮮が弾道ミサイルを発射しました。着弾時刻は午後6時27分ごろだと報道されており、火球のようなものが函館から見えたということです。また撃ってきましたね。
高度なミサイル発射技術を持つ北朝鮮 ~有力な外貨獲得手段になる
須田)核兵器という1つの括りで考えるとするならば、核爆弾だけでは使用できません。運搬手段であるミサイルがあってこその核兵器なのです。北朝鮮のこれまでの核爆弾そのものの技術は、世界基準から見ると遅れており、自国で開発することが難しかったのです。
飯田)北朝鮮が独自で開発するのは。
須田)ところが、諸外国から(技術などを)入れることによって、何とか兵器として使える状況まで持ってきた。一方、運搬手段であるミサイルについては、いまやトップレベルの技術を持ってきています。今後、北朝鮮の技術も含め、ミサイルは有力な外貨獲得手段になっていくでしょう。
飯田)外貨獲得手段に。
須田)大陸間弾道ミサイル(ICBM)が実用可能な状況で運用できるようになると、その技術面がいろいろな形で外貨の獲得手段になっていくのだと思います。北朝鮮を越えて運搬手段・技術を手に入れたいと考えている国々のニーズに沿うことになってしまうので、「何とか止めなくてはならない」という意味合いもあります。
事実上、アメリカ本土まで届く能力のある北朝鮮のICBM
飯田)ICBMは今回も高く撃ち上げられ、最高高度は約5700キロだと言われています。普通に撃つと1万4000キロを超えるとされており、かなり長い距離を飛ぶことになりますね。
須田)高高度のロフテッド軌道と言われているものですが、射角を付けることによってアメリカ本土まで届く、太平洋を越えるということを事実上、示すことができるのです。もう「実験段階では届く」ということです。
中国の影響力を排除してミサイル運用ができる北朝鮮 ~ロシアとの結びつきが強くなっている
飯田)北朝鮮側は発射訓練を実施し、「成功した」と言っています。今回はミサイル総局という新しい組織が指揮したと言われていますが、既に実験と言うよりは実戦を踏まえて、組織も変えたということでしょうか?
須田)これまでの流れでは、北朝鮮の暴走を止めることができる中国の存在がありました。少し前までは6ヵ国協議という枠組みによって、中国に影響力を行使してもらう。中国が一定の責任を負わなければならないような立場に持っていくということが行われていましたが、いまの北朝鮮は中国の影響力を排除して、ミサイルが運用できるような状況になってきたのかなと思います。
飯田)どこも歯止めがかけられない状況ということでしょうか?
須田)そのような新しいステージに入ってしまったのだと思います。中国と北朝鮮は信頼関係で結ばれており、その上で北朝鮮は中国に対して指示に従うという意味ではなく、経済的に足を向けられない存在だから、中国の顔色を伺っていたのです。
飯田)経済的な理由から。
須田)一方、ロシアが国際社会で孤立していくなかで、今度は北朝鮮とロシアの結び付きが強くなっています。北朝鮮からロシアに対して武器・弾薬の類が輸出されていることも確認されており、ロシアと北朝鮮は水面下での結び付きがあるのです。ロシアは必ずしも経済制裁を受けて経済的に孤立しているわけではなく、西側とはエネルギーの輸出などで窓口が開いている状況があるのだと思います。
日本とロシアの間にも存在する「制裁の抜け道」
飯田)北朝鮮にとって、居心地のいい環境になってしまっているところがあるのでしょうか?
須田)ロシアと日本との間の経済的な動きも、北海道などに行くと、国後・択捉などの北方領土から来たと思われる海産物が山ほど並んでいます。「一体どのように持って来たのか? どのような形でロシアサイドにお金が流れているのか?」ということです。そのような意味で言うと、抜け穴がたくさんあります。
飯田)朝日新聞が報道していますが、中古車がロシアにかなり輸出されているそうです。富山の港から積み出されているのですが、実は制裁の抜け穴というか、対象外になっているという話もあって、日本も他人事ではないのだなという感じがします。
須田)闇社会的な、マフィア的な動きが出ていますよね。
飯田)なるほど。
北朝鮮と直接交渉はしない米民主党
飯田)北朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは、日本や韓国を相手にしているのではなく、アメリカに反応させたいのだとよく指摘されますが、アメリカの反応はあまり見えませんよね?
須田)アメリカ国内サイドの事情からすると、北朝鮮に対する優先順位はさほど高くないのだと思います。伝統的に民主党は、北朝鮮と直接交渉はしないというスタンスを取っています。多国間で行うのが民主党の基本方針です。ミサイルや核兵器の問題をめぐって、トランプ前政権のように直接交渉することはないと思います。
飯田)日米韓の外相会談も行われました。北朝鮮の行動を止めるにはどうすればいいのか、あるいは東アジア全体の抑止力をどうするのかは喫緊の課題であり、多国間で進めるのであれば、日本はどうするのかということにもなりますよね?
北朝鮮をどのように使えば中国への圧力のカードとして使えるか ~アメリカのもう1つの狙い
須田)もう1つ注目しなければならないことは、そのような交渉や北朝鮮包囲網を考えるのならば、純粋な軍事的脅威と政治目的という状況、国際政治のなかでのアメリカの狙いを両面で見ていかなければいけません。
飯田)両面で見なければならない。
須田)前者の直接的・軍事的な脅威という点で、先ほどアメリカにおける優先順位がそれほど高くないと述べたのは、「それほど高くない」と踏んでいるから安全保障上の優先順位としてトップに来るものではない、ということなのです。それを今後、どう政治的に活用するのか。「政治的」と言うと下心があると捉えられてしまうかも知れませんが、そうではなく、外交と安全保障は表裏一体なのです。外交と政治に関して、北東アジアで北朝鮮をどのように使えば中国に対する「圧力のカードとして使えるかどうか」というところが、アメリカのいちばんの注目点だと思います。
飯田)弾道ミサイルの発射に対し、「反撃能力を持つべきだ」というところを日本国内で整備していくと、実はそれが中国に対する抑止力にもなる。ある意味でのロジック立てのネタにはなりますよね。
韓国国内で台頭する「核兵器保有論」 ~アメリカがこの議論に懸念
須田)もう1つ、アメリカサイドが懸念しているのは、韓国国内で核兵器保有論のようなものが大きく台頭してきていることです。そうなると、北東アジアの軍事バランスを著しく崩してしまうことになるので、どのように向き合うのかもポイントになります。
飯田)韓国の核兵器保有論に。
須田)NATO的な、あるいはドイツとの間で行われているような核共有というところまで踏み込んでいかなくてはならない。北朝鮮の動向次第では、その辺りの戦略の組み替えが少し必要になってくるでしょう。それをどのようにつくっていくのかがポイントだと思います。
北朝鮮に対する問題は中国を軸に据えて見ればわかりやすい
飯田)核の話までいかずとも、レーダーなどのミサイル防衛システム「THAAD」を韓国にきちんと置くという話になったとき、「北朝鮮相手のものだ」と言っていたけれど、中国が反応したことがありました。それ以上のハレーションを起こすかも知れない。
須田)そうですね。陸上イージスに対しても中国は強く反発します。その意味では、北朝鮮に対峙するということは、中国に対峙するためのある種のエクスキューズのような形で、「北朝鮮のリスクを活用しようとしているのではないか」という中国側の懸念もあるようです。
飯田)お互いが疑心暗鬼になってしまっている。最近は気球の話などもあって、「また米中が緊張するのか」というようなことも言われています。
須田)北朝鮮に対するこの種の問題は、むしろ中国を軸に据えて見ていけばわかりやすいのではないかと思います。
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