“縦割り”日本 世界の情報戦において「足りないもの」「必要なもの」

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東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が2月27日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。政府が内閣官房に創設する「情報戦に備えるための専門組織」について解説した。

“縦割り”日本 世界の情報戦において「足りないもの」「必要なもの」

※画像はイメージです

情報戦に備え、政府が内閣官房に専門組織を創設へ

日本政府は2024年度にも、外国勢力による偽情報の発信など「情報戦」に備えるため、内閣官房に専門組織を立ち上げる見通し。これまでは専門機関がなく、各省庁で個別に対応してきたが、組織で対処することで偽情報だと判断する基準など、運用の統一化を図る。

これまでは内容によって各省庁縦割りで担当が分かれていた情報戦

新行)日本は情報戦に対応する専門組織がなく、いままでは個別に対応してきましたが、弊害はいろいろあるのですよね?

井形)個別で対処するというのも、わからなくはないのです。国内でどういう偽情報がまん延しているかに関しては、総務省が担当していますし、外交関係について海外からどんな偽情報が来ているのかに関しては、外務省の担当になります。さらには、そのなかで軍事に関する内容や同盟関係の信頼性に関することは防衛省が対応するなど、縦割りで担当が分かれていたのです。

各省に関する偽情報に共通するアクターがいても統括組織がなければ発見できない

井形)ただし、外務省がみているものと総務省がみているものに、実は共通のアクターが背後にいたとして、「実際に偽情報を広めているのではないか」というようなことは、統括する組織がないとみえてこないわけです。

新行)統括する組織がなければ。

井形)これから専門組織を立ち上げるそうなので、まだ準備室をつくる段階だとは思いますが、基本的には素晴らしい動きだと思います。

縦割りの弊害によって、各省庁を統括する組織をつくり、制度改革をしなければ横での情報共有は難しい

新行)各省庁での連携・情報共有において、なかなかうまくいかない部分もこれまではあったのですか?

井形)よく「縦割りの弊害」と言われますが、各省庁からしても「自分たちがどんな情報を持っていて、それをどのように官邸にあげていくか」が重要になるため、あまり他と共有したがらないのです。

新行)共有したくない。

井形)これは省庁間どころか、各省内の部署間でもそういう傾向があります。政府として「きちんと情報をあげてください」と、統括する組織をつくるような制度改革をしなければ、横での情報共有は行われないですね。

ロシアで流された、日本をネタにしたディスインフォメーション

新行)日本は言語の壁で、英語圏に比べて偽情報が広まりづらいのではないかという見方もありますが、このような話が出てきていると考えると、そうでもないのでしょうか?

井形)最近は自動翻訳のレベルが上がってきていますし、実際に悪意ある偽情報も確認されています。ロシアのテレビが「日本でウクライナ疲れが起きている」というようなニュースを流していたのです。

新行)ロシアのニュースで。

井形)そのときに日本のある寿司屋さんが、「ウクライナについて話すのはやめよう。美味しい寿司のことについて話そう」というようなCMを渋谷の電光掲示板で流した、という内容だったのです。

新行)なるほど。

井形)ロシアの人々に対し、「日本ですらウクライナ疲れが起きているのだ」というディスインフォメーションとして、ロシア側が日本をネタにしたわけです。もちろんこれは偽情報ですが、明らかに悪意を持って広げている。

新行)そうですね。

井形)「意図」と「情報が嘘である」という2つが揃って「偽情報」と定義されますが、日本をネタにしたディスインフォメーションが出ているのに加え、日本に対するディスインフォメーションも見え始めています。

各国の偽情報対策

新行)これから情報戦の専門組織について議論されていくと思いますが、各国の偽情報対策はどうなっているのでしょうか?

井形)アメリカでは、日本の外務省に当たる国務省が偽情報対策の専門部署をつくっています。一般の人たちに対し「偽情報を特定するためには、こういうことを知っておきましょう」という教材を、ネットゲームも含めて作成しています。

新行)アメリカでは。

井形)米国防総省では、アメリカや同盟国に対する信頼性を攻撃するような偽情報に対し、自分たちが積極的にネットで調べ、偽情報だと特定すると、すぐにその情報に対応する担当者をつくっています。

新行)米国防総省が。

井形)オーストラリアでは、外国からの干渉に対抗していく省庁横断型のシステムを数年前からつくっています。また、ヨーロッパではディスインフォメーションセンターのようなものをつくり、積極的にファクトチェックを進めています。

“縦割り”日本 世界の情報戦において「足りないもの」「必要なもの」

2023年2月21日、モスクワで連邦議会に対する年次報告演説を行うロシアのプーチン大統領(タス=共同)

ファクトチェックをする前の段階での対策が重要

新行)日本が参考にできる部分もたくさんありますね。

井形)日本でも最近「ファクトチェックはしっかりしよう」と、新たな団体もできていると思いますが、ある意味でファクトチェックは「散らかったあとをどう片付けるか」という話であり、大変なのです。

さまざまなディスインフォメーションの段階において、どう対抗するべきかという対策を考える必要がある

井形)いちばん簡単なのは、そもそも「偽情報を発信されないためにできることがあるのではないか」と着目する。あるいは、偽情報がつくられてしまったら、拡散されるのを早いうちに止めることが重要です。

新行)拡散を早い段階で止める。

井形)そもそも偽情報が生成される前、普段の一般的な状況から、国民に対して教育していく必要性があると思います。

新行)国民への教育が必要。

井形)日本政府がよりインテリジェンス能力を高めて、偽情報を流している相手が誰なのか探す。さまざまなディスインフォメーションの段階においてどう対抗するべきか、対策を考える必要があると思います。

あらかじめ「こういう偽情報が広がるかも知れない」と伝えておく「プリバンキング」

新行)偽情報が拡散される前に止めるには、偽情報が拡散される恐れがあることを予測する必要もあるのですか?

井形)「プリバンキング」と言いますが、「将来こういうことが起きたら、こういう偽情報が広がるだろうから気を付けてね」というような、若干、未来予測的なことをあらかじめ伝えておく方法があります。

新行)プリバンキング。

井形)「そんなことができるのか」と思うかも知れませんが、実際にロシアのウクライナ侵攻のときに実行されています。もしかしたらロシアがウクライナに攻め込むかも知れないと言われている期間に、アメリカなどは「ロシアがもしウクライナに攻め込んだら、きっとこういう情報が出てくるけれども、それは偽情報だ」というように、先にファクトチェックを行っていたのです。

新行)そうだったのですね。

井形)実際に戦争が始まり、事態が激しく動いているときには、情報がたくさん出てきます。

新行)事態が動いてくると。

井形)そのなかで各国メディアがそれに目を通しておき、「これは嘘だ」とあらかじめわかっていれば、偽情報は拡散されません。今後、中国が台湾に対して何かするようなことがあった場合、それに向けたディスインフォメーション対策として、日本はプリバンキングを行う必要があるのではないでしょうか。

日本の情報収集能力についてはもう少し予算をつけるべき

新行)日本の情報収集能力はいかがでしょうか?

井形)頑張っているとは思いますが、もう少し予算をつけてもいいと思います。

新行)どのようなところが難しいですか?

井形)全体的な予算額や、専門家の人数が他国と比べて少ない。また政府内ではいわゆるセキュリティ・クリアランス、「情報をしっかり保護しましょう」ということで、秘密にしている情報にアクセスできる人は限られています。

政府の人間以外に民間人からも機密情報にアクセスできる人を選ぶべき

井形)信頼できる人かどうかバックグラウンドをチェックして、その人たちだけしか情報にアクセスできないようなシステムになっています。しかしアメリカであれば、民間人でもクリアランスを持っていて、ある程度は秘密の情報にアクセスできる人がいます。アメリカの人口は3億人くらいですが、民間も含めてクリアランスを持っている人は300万人近くいるのです。

新行)そうなのですか。

井形)秘密の情報にアクセスできるのは政府の人間だけではなく、民間のなかにも人口1%くらいの一定数がいます。オープンソースや自分のビジネス相手、知り合いから取ってきた情報で「重要なのではないか」というものがあると、それを他の人たちと共有できるのです。日本もこのようなシステムにすることは重要かも知れません。

新行)まさに経済安保の「機密資格」制度の創設に向けた有識者会議の初会合が、2月22日に行われました。

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