日本も他人事ではない「米シリコンバレーバンクの経営破綻」

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが3月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。シリコンバレー銀行に続いて起きたニューヨークのシグネチャー銀行の経営破綻について解説した。

日本も他人事ではない「米シリコンバレーバンクの経営破綻」

※画像はイメージです

米シリコンバレー銀行の破綻に続き、ニューヨークのシグネチャー銀行も破綻

アメリカのテクノロジー企業への融資で知られるシリコンバレー銀行が3月10日に経営破綻した。米財務省などは12日、すべての預金者を保護する形でシリコンバレー銀行の破綻処理を完了する措置を承認したと発表。また、ニューヨークに拠点を置くシグネチャー銀行も12日に経営破綻した。シリコンバレー銀行と同様に預金は保護される。

飯田)シリコンバレー銀行の資産規模は全米16位、シグネチャー銀行は29位だそうです。

クラフト)今回の最大のポイントは、預金者がいわゆるIT系の企業で、アメリカでは預金が3000万円までなら法的に保護されるのですが、シリコンバレー銀行の9割の預金は3000万円以上なのです。

飯田)9割が。

クラフト)ですので、預金者が守られないという状況になり、それを何とかしようと「預金全額を保護する」という異例の措置で収拾を図ったのです。ただ、政府は「守るのは預金者であり、債権者あるいは株主は守らない」と強調しているので、そこは棲み分けしています。

利上げによって国債の価値が減少し、株発行を増発 ~IT企業が預金を引き出してしまった

飯田)貸出率があまり高くない銀行だったと言われていますが、いまは融資先などがあまり見つからないのですか?

クラフト)貸出率が低かったのが、まさに今回の問題における大きなポイントの1つです。どんな背景があるのかというと、いままでアメリカはゼロ金利がずっと続き、それに慣れていましたよね。そうすると、もらった預金を国債に投資する。ところが、特に2月がそうだったのですが、アメリカが利上げに転じて国債の価値が目減りしてしまった。

飯田)利上げによって。

クラフト)そうすると資産の方で損を計上してしまい、結局は損を埋めるために株発行を増発する。それを聞きつけたIT企業に信用不安が広がり、預金を急激に引き出してしまったのです。

「金利上昇局面で投資先の資産を見直さなかった」金融機関の怠慢

飯田)このタイミングで増資するということは「経営が危ないのか?」と、みんなが連想してしまった。

クラフト)その通りです。これはアメリカだけでなく、日本も同じです。地銀なども国債に投資しているので、急激に金利が上がると、日本でも同じような破綻が起きるかも知れません。金融機関の怠慢であり、「金利上昇局面で投資先の資産を見直さなかった」ということがいちばんの問題だと思います。

今回の預金保護措置では公的資金は導入されていない ~リーマンショックの際の教訓から

飯田)銀行株全体としても下がっているということですが、この構造的な問題はシリコンバレー銀行特有のものなのですか?

クラフト)おそらく大きさは別として、いくつかの地方銀行も似たような状況だと思います。それがわからないので全般的に下がったのです。今回の預金保護措置はどのように払うのかと言うと、税金ではなく銀行からお金を徴収し、ファンドに入れてそこから払うというものです。銀行全般が負担するということもあって、銀行株が売られているのです。

飯田)FRBやアメリカの財政当局が動いているので、公的な資金が入るのかと思っていましたが、そうではないのですね。

クラフト)はい。それで救ってしまうと、またリーマンのときのように金融機関を優遇していると言われてしまいます。2024年は大統領選があるので、政府としては「税金は使わず、金融機関から徴収して払う」ということです。

飯田)なるほど。確かにリーマンショックのときは公的資金を入れましたが、それが優遇ではないかという方向になり、ウォール街を占拠せよ、というデモ行進が行われましたよね。

クラフト)その教訓から、今回は特別な措置を取ったのです。

トランプ政権時に金融規制を緩め、政府による監視をしなくなってしまったことも問題

飯田)これによって破綻の連鎖は止められそうですか?

クラフト)おそらく今回の措置で不安が解消されるため、取り付け騒ぎはなくなると思います。時間稼ぎはできています。とは言え、経営状況が脆弱な金融機関は残っているので、時間稼ぎをしながら精査し、1つひとつ潰していくことが重要だと思います。

飯田)なるほど。

クラフト)もう1つ、いま問題になっているのですが、どうして金融機関の経営が怠慢になってしまったのかと言うと、トランプ政権のときに金融規制を緩めたので政府による監視の力が弱まった、監視しなくなったということです。

飯田)財務状況などの点検は任せるよ、という形になった。

クラフト)リーマンショックを受けたオバマ政権で監督の権限を強化したのですが、トランプ政権で緩めてしまい、さらにゼロ金利で経営が怠慢になったということです。

日本も他人事ではない「米シリコンバレーバンクの経営破綻」

米連邦準備制度理事会(FRB)本部(アメリカ・ワシントン)=2021年1月27日 EPA=時事 写真提供:時事通信

80年代から利上げサイクルのピークの前後に必ず金融危機が起きている

飯田)インフレ対策でFRBは利上げしてきました。それによって国債の価値が下がる、利率が上がる状況が起こり、財務状況が悪化する銀行が出てきた。そう考えると、利上げの副作用なのでしょうか?

クラフト)それに尽きます。過去、80年代から利上げサイクルのピーク前後には必ず金融危機が起きています。リーマンもそうですし、ブラックマンデーもそうでした。

飯田)80年代の。

金利引き締めをやめるだろうと思われていたところでデータが強くなり、金利が急上昇

クラフト)2000年ごろにはドットコムやオレンジ郡の破綻などもありました。必ず起こりますし、当局としては一定程度その傾向があることはわかっていたため、2022年12月に0.75%から0.5%にペースをトーンダウンさせています。

飯田)なるほど。さらに2023年1月の決定会合では0.25%に落とした。

クラフト)そこまではよかったのです。「もう引き締めをやめるだろう」と思われていたところ、2月になってデータが強くなり、また金利が急上昇しました。そして今回、このような問題が起きたのです。

飯田)「データが強くなった」と言うのは、失業率が低いままであったり、インフレ率や消費者物価が高い。そうなるとFRBは利上げを続けざるを得ないだろうと連想され、「これは続くぞ」となってしまった。

クラフト)それで2月に10年金利が4.4%から5%近くに急上昇し、耐えきれなかったのだと思います。

シリコンバレー銀行(SVB)の破綻の報告を受け、「何も決まっていない」とトーンダウンしたFRBパウエル議長の議会証言

飯田)FRBのパウエル議長による議会証言もありましたが、数字を見ると強い言葉というか、タカ派的に「利上げを続けますよ」と言わざるを得なかったのですか?

クラフト)面白いのは、7日の議会証言だと「利上げのペースを加速させる用意がある」という発言があったのですが、8日になったら「何も決まっていません」とトーンダウンしたのです。その間に何があったのかと言うと、おそらくSVBの破綻報告が入ったのです。

飯田)なるほど。8日の段階でSVBは増資するというようなことを発表していましたよね。

クラフト)増資を模索していたのですが、結局ダメだったのです。

飯田)ダメになったから、これはまずいぞということになった。

クラフト)FRBが状況を把握したのは、おそらく7日夜だったのだと思います。

飯田)議会証言が終わったあとに。

クラフト)それで急遽、8日にタカ派的な発言をやめて「何も決まっていません」と方針を変えたのだと思います。

インフレ抑止のために金融市場に注意を払っていなかったFRB

飯田)一夜での変化があった。議会証言があり、即座に市場は反応して数字が増えましたよね。

クラフト)もう既にダメだったとは思いますが、それがSVBにとって最後の追い討ちになってしまったのです。

飯田)議会証言やトップの発言1つで振れるぐらい、微妙なところにきているのですね。

クラフト)本来はそのような発言1つで金融市場が揺らぐような脆弱な体制ではいけないのですが、そのような状況にしてしまった。インフレ抑止のために金融市場にあまり注意を払っていなかったことが、今回のFRBの反省点だと思います。

財政側での引き締めは政治的に難しい

飯田)インフレ抑止をするというところで、金融の話ばかりが出てきます。もちろん物価の安定が政策目標なので仕方がないとは思うのですが、財政側での引き締めは政治的に難しいのですか?

クラフト)政治的にも難しいですし、やるところはやりますが、景気をそこまで冷え込ませたくない。一定程度の財政出動は行いますが、環境問題などもいろいろあるので、なかなか政策的には引き締めに転じられません。また民主党政権は、財政規律に対して興味が薄い政権だということもあります。

飯田)アメリカは雇用もある程度安定していますし、強い数字が出ています。その分、物価も上がっているので、この傾向はこのまま続いていく感じですか?

クラフト)緩やかに減速していくと思います。しかし今回、不幸中の幸いだったのは、景気がある程度堅調ななかでの金融危機ですから、それなりに吸収できる力があることです。マイナスGDPの最中でこれが起きていたら、さらにインパクトは大きかったと思います。

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