UBSのクレディ・スイス買収が示す「自己資本比率規制」の不確かさ
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ジャーナリストの須田慎一郎が3月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。UBSのクレディ・スイス買収について解説した。
スイス金融大手UBSが経営悪化のクレディ・スイスを買収
スイス国立銀行は3月19日、スイスの金融大手UBSが経営危機に陥ったクレディ・スイスを買収することで合意したと発表した。買収総額は30億スイスフラン(4200億円)余りになる見通し。
飯田)この発表には大統領やスイス国立銀行の幹部が出てきて、国を挙げての事業のようになっています。
須田)スイス3大銀行と言われている一角が崩れたのですが、先般、経営破綻に至ったアメリカのシリコンバレーバンクとは規模が桁違いで、2.5倍ぐらいの資産差があります。
クレディ・スイスの問題 ~赤字額が時価発行総額とほぼ同じ
須田)なぜこんなことになったのかと言うと、危機が連鎖しているというよりも、クレディ・スイスが抱えていた問題の方が大きいと思います。
飯田)クレディ・スイスが抱えていた問題。
須田)ここにきて、銀行から預金を引き出す動きが連鎖的・加速度的に広がっています。取り付け騒ぎの意味で言うと、世界の金融機関がそのリスクにさらされていることは間違いないけれど、それを連鎖していると見るのかどうか。私はそうではなく、アフターコロナに向けて、金利上昇局面に向けて顕在化したと見るべきだと思います。
飯田)金利上昇局面に向けて顕在化したと。
須田)クレディ・スイスの問題は何だったのかと言うと、先日、決算が発表されたのですが、驚くべきことに出てきた赤字額が時価発行総額とほぼ同じだったのです。
筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加支援の可能性を拒否したとたん、顧客の預金流出が大量に起こり、預金額が半分に減少 ~政府が全面支援し、UBSが買収へ
須田)「これはまずい」ということで預金が大量に流出し、預金額が半分くらいに減ってしまい、資金ショートしたのです。
飯田)それほど一気に減ったのですか。
須田)クレディ・スイスは中東のファンドや中央銀行が投資しており、サウジ・ナショナル・バンクが筆頭株主なのですが、3月15日に追加支援の可能性を否定したのです。「もう支援しません」と言った途端に、後ろ支えがないということで一斉に預金の引き出しに動いてしまった。
飯田)追加支援の可能性を否定したとたんに。
須田)そのまま流出していくと、いずれ資金ショートを起こして経営破綻します。銀行は基本的に1円の預金引き出しに応じられなくなると、その時点でアウトなのです。銀行業務を継続できなくなり、シャッターを開け続けられません。ATMが稼働できない状況になってしまいます。
飯田)預金の引き出しに応じられなくなれば。
須田)その時点で、実質的に銀行は経営破綻と認定されてしまうのです。それが見えてきたものですから、「何か手を打たなければならない」と政府が全面支援するなかで、UBSが買収する形になったのだと思います。
「国が支えますよ」と言っただけでは収まらず、UBSの看板で信用不安を抑えようとしている状況
飯田)問題が起こった直後に、スイスの中央銀行が資金融通の話を出して、「当面は引き出しに応じられるようにしました」という報道までは先日の段階でありました。そうは言っても、その先の経営の継続を考えると、「どこかに買収してもらわなければならない」という方向になっていたのですか?
須田)中央銀行が預金を全額保護し、「資金供給もしますから安心してください」と言っただけでは、抜本的な解決にならないのです。
飯田)中央銀行だけでは。
須田)クレディ・スイスは、過去に問題企業に融資したり、大きな不良債権が発生したり、あるいは法令違反が発覚したこともある銀行です。そういったことに対する信用不安が発生していたので、「国が支えますよ」と言っただけでは収まらない。UBSが丸ごと支えることによって、UBSの看板で何とか信用不安を抑えようとしている状況だと思います。
国際業務を行う銀行の基準である「自己資本比率規制」をクリアしていたクレディ・スイス ~リーマン・ブラザーズの自己資本比率も10%を超えていた
須田)ただ1点、注目なのは、「自己資本比率規制」が銀行にはあります。リスク規制とも言われますが。
飯田)「これで健全性を見るのだ」というニュースがありました。
須田)国際業務を行う銀行に関しては、資産の8%以上の自己資本を積んでいないと、国際業務を行ってはいけないというところがあります。しかしクレディ・スイスは2桁、10%を超えているのです。
飯田)基準を軽々とクリアしていたのですね。
須田)クリアしているにも関わらず、預金の引き出しが収まらなかった。つまり、健全性を確保するための基準が役に立たなかったということです。なぜそのようなことになったのか。これもリーマンショックに遡るのです。
飯田)そうなのですか?
須田)リーマン・ブラザーズの自己資本比率も10%を超えていました。
自己資本比率は何の基準にもならない ~大きすぎて潰せない状況に
須田)大きな資金を動かしている富裕層を含めたプロの世界では、「自己資本比率は結局、何の役にも立たない」ということです。自己資本比率が10%を超えていても潰れてしまうのではないかと。
飯田)そうですね。しかも経営が悪化していたこともありますが、事の発端が最終的には「みんなが引き出しに殺到する」という。それを防ぐのは難しいですよね。
須田)かなり難しいでしょうね。アメリカの銀行の場合は、とりあえず米連邦準備制度理事会(FRB)が全面的に資金支援をします。「預金は全部保護します」と財務省が異例の声明を発表したところで、「収まるのかな」という感じはするけれども、本来ならやってはいけないことです。ベースとして、「潰すべきところは潰す」というマーケットメカニズムを働かせることが大事なのです。
飯田)本来であれば。
須田)ところが90年代の日本でもあったように、「大きすぎて潰せない(Too big to fail)」という状況が出てきてしまった。取り付け騒ぎのあとに何が起こるのかと言うと、「少々やんちゃなことをしている銀行でも、最終的には政府が支えてくれるではないか」と、資金を預ける側に緊張感がなくなってしまいます。「最終的には政府が支えるのでしょう? だったら好条件で運用した方が得だよね」と。
飯田)政府の資金が出ると言ったところで、それほど何度も続くものではないですよね。
須田)だからこそ、マーケットメカニズム・市場原理を働かせることが重要なのだけれども、それを今回、アメリカの銀行やクレディ・スイスという超大型銀行で適用した以上、「次はどうするの? 同じようなことをしないと公平性に欠けるよね?」ということになっていくのだと思います。
リスク規制や自己資本比率規制という物差しがないなかで預金しなければならない
飯田)日本でも財務省、日銀、金融庁が3月17日に臨時会合を行いました。
須田)健全性を測る尺度がない。リスク規制や自己資本比率規制がまったく役に立たないということが衝撃的なのですよ。
飯田)物差しがないなかでどうするか、ということになってしまいますね。
須田)真っ暗闇のなかでお金を預けなければならないという、日本も含めたいまの国際金融マーケットがいちばんのリスクです。
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