安保関連3文書に掲げられた「野心的目標」を本当に達成できるのか
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安全保障アナリストで慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮が3月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。6兆8219億円を計上した防衛費について解説した。
令和5年度予算が成立、過去最大114兆円 ~防衛費は6兆8219億円を計上
一般会計総額が114兆3812億円の令和5年度予算案は3月28日の参議院本会議で、与党などの賛成多数で可決・成立した。当初予算として110兆円を超えるのは初めて。厳しさを増す安全保障環境に対応するための防衛力の抜本強化などに充てる。
飯田)防衛費は6兆8219億円が計上されました。日本の安全保障予算をどうご覧になりますか?
部谷)単純計算すると、国民1人あたり5万円を投入するということです。皆さん使い道をチェックした方がいいのではないでしょうか。
安全保障関連3文書に掲げた目標は本当に達成できるのか
部谷)安全保障関連の3文書には、かなり野心的な目標を掲げています。いいとは思うのですが、「本当にできるのか」という疑問はアメリカからも日本国内からも出ています。
飯田)可能なのかと。
部谷)使い道が正しいのか、そして「執行できるのか」をしっかりと見なければなりません。
飯田)去年(2022年)の年末に安全保障関連の3文書、国家安全保障戦略などが改定され、一部は新しくつくられました。そこに書かれたことに対し、今回の予算はある意味、お金の方の裏付けになるわけですね。
部谷)1年目の裏付けですね。
民生技術に関して積極的でなかった防衛省・自衛隊 ~デジタル化に遅れ
飯田)3文章に書かれている野心的な部分ですが、どんなことが挙げられますか?
部谷)初めて無人アセットの防衛能力を強化すると書かれており、優先項目が7項目あるのですが、アメリカの研究者が「これは優先順位とは言わない。多すぎだろう」と言っていました。
飯田)優先と言うのだから、1つ~2つに絞るべきだと。
部谷)そうなのですよ。ミサイル防衛もやるし、敵基地攻撃能力に関してもやるし、無人アセットもやると。
飯田)宇宙もサイバーも電子戦も。
部谷)15年遅れていたのを、無理やり5年間で10年分進めるということなので仕方ないですね。しかし、5年後には(他国と比べれば)まだ遅れていることになるので、もっと急がなければいけないと思いますが。
飯田)5年間で10年分進めるということは。
部谷)弾薬を積み増すこともそうですが、宇宙・サイバーの対応もあります。防衛省・自衛隊は民生技術を軽視はしないけれど、あまり進めてこなかったのです。
日本企業の技術力が落ち、デジタル化に遅れを取ってしまった ~ここで世界に追い付けるのか
部谷)民生技術は民間企業が取り組むから、自動的に進むだろうと思っていたようです。しかし、日本企業の技術力が落ちて、デジタル化が遅れてしまった。
飯田)おまかせで育つと思っていたら。
部谷)通信や宇宙、サイバーなどの研究開発は、民間企業が勝手にやるだろうと思っていたけれど、できなかったのです。だからこんなに遅れてしまった。ドローンに関しても、「結局はおもちゃだろう。民生技術だ」というように、重く受け止めていなかったところがある。
飯田)それを取り込むというよりは、ある程度技術が育ってきたところで。
部谷)日本企業には軍需専門企業はありません。企業の一部門が防衛産業をやっているという感じです。80年代まで、民生技術はあまり大きくなかったし、日本企業が強かったので充分キャッチアップできたのでしょうけれど。
飯田)80年代までは。
部谷)今回、「それに追いつけるか」を納税者としてチェックしなければいけないと思います。「5万円を払っているのですよ」ということは強調したいですね。
AIは使い方を間違えなければ危険ではない
飯田)技術基盤になるところだと思いますが、かつては大学もそうですけれど、民間企業は防衛に関するものが予算に入ることを忌避する傾向があります。防衛省側としても手出ししにくいところがありました。
部谷)お互いがお見合いしてしまった。特にAIはそうですね。日本では一時期、「AIは危険だ」というような話がありました。
飯田)ありましたね。
部谷)でも私の友人が、映画『ターミネーター2』を見ろと言うのです。「ターミネーターはAIの暴走ではないのですか?」と聞いたら、「でもシュワルツェネッガー氏が演じたT-800は、主人公のジョン・コナーに殺人をするなと言われたら、最後まで守っていたでしょう」と言っていました。
飯田)確かにそうですよね。
部谷)AIは言われたこと以外やらないのです。感情に任せて悪いことをしたり、恐怖におののいて攻撃してしまうなど、人間の方が危ないですよね。
飯田)AIは「我々を襲うのではないか」というようなイメージがありますが、結局は道具だから使う人次第であると。
部谷)そうなのです。
ロシア軍が使用するドローンに日本製部品が入っていた ~北欧の高速道路監視用カメラをロシアが大量に盗んで使用
飯田)いままでは軍事への忌避の感覚が強く、研究しなければ、触らなければいいのだという傾向が強かった。
部谷)そして、戦争はあくまで工業化時代のイメージですね。軍事技術が独立してしまって、軍事技術に触らなければいいのだと。
飯田)とにかく民生だけやっていればいいと思っていたけれど、いまは垣根がほぼないわけですよね。
部谷)垣根がないから、ロシア軍やウクライナ軍が使っているドローンに、日本製の部品が大量に使われている現実があるわけです。
飯田)そういうニュースを見ると、日本国内で「なぜ輸出したのだ」というような意見が出たりします。
部谷)しかし、わからないですよね。取材していても「知らなかった」という会社がほとんどですし、「農業用ドローンのエンジンだと思って輸出した」という会社もありました。
日本製のドローンや部品を経済安全保障の文脈で規制しようとしても規制はできない
飯田)それを経済安全保障の文脈で「規制しよう」という流れがあるけれど、規制しきれない可能性もあるのですか?
部谷)無理だと思います。経済安全保障は大事ですし、やった方がいいと思うのですが、「規制を強めればいい」という考え方は違うと思います。
飯田)規制を強めることは。
部谷)日本製のカメラがロシアのドローンに使われているわけですが、そのカメラはスウェーデンで高速道路の監視用として、スピード違反を見つけるためのカメラだったのです。それがある日、100個ぐらい盗まれてロシアのドローンに使われてしまった。「それを規制できますか?」ということですね。
飯田)こちらとしては、スピード違反の摘発用として出したものであると。
部谷)あとは自爆ドローン用のバッテリーが日本製だったのですが、もともとはパソコン用バッテリーだったのですよ。
飯田)パソコン用。
部谷)工場から流出したか、あるいは中古のパソコンを解体して組み込んだのかわかりませんが、それは規制できないですよね。日本のドローンメーカーでも、工事用の電動ドリルのバッテリーを外してドローンの補助用バッテリーに使っている例もあります。
飯田)日本のドローンメーカーでも。
部谷)いくらでも既製品を分解して使うことはできるのです。その方が専用のものを注文するより安いですし、「ほとんど規制できない」という前提で考えた方がいいですね。
備えるだけでなく、日本も尖閣周辺などに無人機を飛ばすべき
飯田)これだけ防衛費に予算をつけたので、向こうがやってくることに対して備えていくのですか?
部谷)備えるだけでなく、こちらが主導するのです。「攻める」という意味ではありません。例えば平時から中国などは、無人アセットで領空侵犯しようとするなど、嫌がらせをしてきています。
飯田)無人機が尖閣周辺を飛行したというニュースが定期的に入ります。
部谷)それをこちらもやればいいと思うのです。「あくまでも演習です」と言って。
飯田)特に尖閣は我々の領土なのだから、しっかり見守るのだと。
部谷)南シナ海にも飛ばしてみるなど、いろいろなところでやればいいのです。
飯田)航空機として考えると、公海上を飛ばすのは何の問題もない。
部谷)あちらが設定しているADIZ(防空識別圏)に入るかも知れませんが、「領空には入っていませんよ」と。
飯田)国際法上はそうですね。
部谷)向こうと同じように日本もそういう動画を公開して、「見ているぞ」と抑止するべきです。そしてデータを西側で共有する。本来、日本の強みはデータが取れるなど、そういう分野だと思うのです。
飯田)その部分の連携や哨戒技術は素晴らしいという話を聞きます。
部谷)無人なら負担がありません。沖縄の空自は、整備やパイロットの方々も本当に疲弊しているので。
飯田)スクランブルで訓練の時間が取れないという話も聞きますね。
部谷)そうなのですよ。そして機体はどんどん消耗していきます。
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