アベノミクスはなぜ10年間続けても達成できなかったのか

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元内閣官房参与で元駐スイス大使の本田悦朗と前日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が4月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アベノミクスについて解説した。

アベノミクスはなぜ10年間続けても達成できなかったのか

会見に臨む安倍晋三首相。辞任する意向を表明した=2020年8月28日午後5時20分、首相官邸 写真提供:産経新聞社

アベノミクスを再考する

飯田)本田さんと片岡さんは、アベノミクスを支えたお二人です。川崎市宮前区の“高田ファール“さん、54歳会社員の方からメールをいただきました。「道半ばのアベノミクス。悔やまれるのはやはり2014年4月の消費税増税だと思うのですが、お二人は前年の8月に行われた内閣府主催の集中点検会合に参加されています。そのときの雰囲気を教えていただきたいです」とのことです。よく調べていますね。

本田・片岡)よく調べていますね。

飯田)2014年と言うと、9年も前の話になるのですね。

集中点検会合では7割~8割が「予定通り消費税を増税するべき」 ~最後に安倍元総理が決断

本田)法律上、消費税増税法の附則に「点検会合を行え」と書いてあったのです。規定に従って行い、60人くらい招待しました。1回12~13人でしょうか。そして、7割~8割の方に「予定通り増税しなさい」と言われました。

飯田)7割~8割の人は。

本田)もちろん片岡さんは延期した方がいいという意見でした。私は1%ずつ刻んだらどうかと、「3%では耐えられない」と言ったのですけれど、最後の最後に安倍さんが決断された。

飯田)安倍元総理が。

増税をやめることに意固地になって反対する人がいる

本田)「増税法で立法されてしまっている以上、難しいな」ということをおっしゃって、周りの方も「もしかしたら倒閣運動が起こるのではないか」と。不穏な動きがあると聞いたので、「内閣総理大臣でもそんなことを言われるのか」と驚きました。そうしたら(安倍さんの)回顧録に生々しく書いておられる。

飯田)そうですよね。

本田)やはり総理大臣ですから、彼は国民の民意を代弁しているはずなので、8%の増税が無理だと判断したら、みんなそう動かないといけない。でも、意固地になって反対する人がいるのです。

消費増税にアベノミクスが耐えられなかった ~増税しなくても日本の国際的信認が崩れることはなかった

飯田)考えてみたら、四面楚歌のような雰囲気だったのですか?

片岡)そうですね。私自身、「点検会合が8月にあるので出てください」と言われ、急いで準備してお話をしたのですけれど、当時は論点が2つありました。

飯田)論点が2つ。

片岡)1つは「消費税増税にアベノミクスが耐えられるか」という話です。アベノミクス反対の人はおしなべて「耐えられる」と言ったのです。当時、非常に景気がよく、物価上昇率も1%台半ばでしたから大丈夫だと。

飯田)アベノミクス反対の人は耐えられると。

片岡)それから「増税しないと国際的に日本の財政の信認が崩れるので、リスクがあるから増税した方がいい」ということを言っていたのですが、そのどちらも間違えていたというのがポイントだと思います。

飯田)どちらも間違っていた。

片岡)国際的信認が崩れるのかどうかは確立の問題で、「100%それはない」とは言えなかったわけです。私も「100%そんなことが起こらないと断言はできません」と、「ただ、可能性は非常に低いですよ」と言ったのです。

物価2%を達成する途中の段階で、増税等の横やりを入れてはダメだった ~財政上の信認が崩れることは結果的に起こらなかった

片岡)現に、安倍さんは2014年4月の増税はやらざるを得なかったのですが、その後、10%への増税は2回延期しています。延期しても日本の財政は破綻しなかったわけですよ。

飯田)そうですよね。

片岡)今後の教訓という意味で言えば、物価2%を達成する途中の段階で、増税等の横やりを入れてはダメだった。それから、財政上の信認というような話は、結果的に起こらなかった。「そういう話は嘘だ」というのが、今後の政策を考える際の教訓になると思います。

道半ばであったアベノミクス

飯田)黒田日銀総裁が退任されたこともあって、最近いろいろなメディアで「10年間を振り返る」というような企画が行われていますが、「失敗だった」くらいのイメージで語られることが多いですよね。

本田)私は決して失敗ではなかったと思います。ただ、完成はしていません。「道半ば」と申し上げています。

飯田)道半ばであった。

本田)消費増税を2回延期したのですが、延期するときは何かと一緒に抱き合わせで行わないと、政治家が動かない。抱き合わせとは何かと言うと、解散総選挙なのです。それを2回行った。2回目は伊勢志摩サミットを使って、中国を中心にグローバル経済が変調を起こしていると。そのときは金融だけでなく財政も一緒に使おうと、安倍さんがリーダーシップを発揮されて声明を出したのです。それを使って参議院選挙を行い、やっと延期できた。そうしないとならなかった。「政治家は財務省の強い影響下に置かれているのだな」と驚きました。

飯田)やはり選挙を経ないとならない。

本田)そうなのです。

アベノミクスはなぜ10年間続けても達成できなかったのか

2019年9月24日、一般討論演説~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201909/24usa.html)

アベノミクスが「なぜ10年間続けても達成できないのか」という理由を考えなければいけない ~財政政策、成長政策の残り2本の矢がうまく働かなかった

片岡)政策効果という意味においては、効果があったと思っています。アベノミクスは3本の矢なのです。金融政策、財政政策、成長政策。この3つを通じてデフレ下にあった日本を停滞から普通の経済に戻そうという政策なので、金融政策だけを検証しても意味がありません。「なぜ10年間続けても達成できないのか」という理由を考えなければいけないのです。

飯田)なぜ10年間続けても達成できないのか。

片岡)政策全否定ではダメだと思います。何が足りなかったのかと言うと、財政政策、成長政策の残り2本の矢がうまく働かなかったわけです。

飯田)財政政策、成長政策の残り2本の矢が働かなかった。

片岡)政治的な抵抗や、増税判断の間違いなどが影響しています。そのなかで金融緩和を続けざるを得なくなってしまった。そういう状況下にあったので、「今後はどういう政策を行うべきなのか」を考える必要があります。

飯田)どのような政策を行うべきか。

片岡)先日も、あるテレビ番組で日銀の話がありましたけれど、そもそもの番組の建て付けとして金融政策の検証になっているわけです。アベノミクス自体は安倍元総理のリーダーシップのもと、黒田前総裁も含めて日銀幹部で選ばれて政策を担っていたわけですから、そういう経緯を踏まえないと検証も何もあったものではないと思います。

金融と財政を一体運用するにはいいタイミング

飯田)金融政策が独立した形で、他に作用を生み出さないような検証のされ方でしたけれども、本来は経済政策全体として、「いままでの10年間の日本経済はどうだったのだろう」という検証をしなければならない。

本田)本来、財政・金融は車の両輪として、意欲的に結びついて運用すべきものです。いまは金融を下げていますから……。

飯田)緩和している。

本田)財政出動しても金利が上がってこない状況にあるのです。つまり財政出動すると、そのままGDPに反映されやすい状況です。そういう意味では、金融と財政を一体運用するにはいいタイミングなのですけれど、財務省や保守派の政治家たちは財政を出すのを嫌がるのです。「破綻一歩手前だ。これ以上は出せない」と勝手に論理をつくり上げてしまう。

飯田)コロナ前からそう言っていましたけれど、コロナ対策では財政をかなり出しましたよね。

本田)出しました。しかし、コロナ対策は有事なのです。コロナ対策自体を見て「ばら撒きだ」と訴えた人がいましたが、それは違います。異常事態ですから、それとアベノミクスを同一視しないで欲しいと思います。

デフレが始まる直前に戻った就業率

飯田)現役世代、あるいは当時の学生で、そこから社会に出た人たちからすると、「雇用はよかったよね。大学を出たあと就職先を選ぶことができたし、就職できた」という人も多かったのですが、その部分のメリットがあまり語られないですよね。

片岡)恩恵を受けている若い方は多いと思うのです。いまの雇用状況を見ると、デフレが始まる直前、1998年ごろの就業率は60%超でしたが、そこに戻ってきているのです。

飯田)1998年ごろの就業率に。

片岡)就業率は、15歳以上の人口のなかで働ける方、就業者の割合なのですが、人口減少により15歳以上の労働力人口は減っています。例えば1998年~2012年ごろまではずっと減り続けていたのです。

飯田)働く人が減るのだから、本当はその分の椅子が空いて仕事に就ける割合は上がるはずなのに、より経済が縮んでしまった。

片岡)その通りです。人が減っているのだから経済状況に関係なく、働ける人が増えるだろうと思われていたのに、「働ける人の割合そのものも減ってしまった」というのがデフレの怖いところです。それを10年かけて、ようやくデフレになる前の状況に戻した。これが雇用の動きなのです。

若い人の能力や資質が企業にも求められている ~景気がそれなりによくなっている

片岡)それだけ時間がかかるほど、それ以前の10年間の停滞が大きかったのです。リーマンショックもあり、80円を割るような円高もありました。いまでは想像もできませんが、1万円を切るような日経平均にもなり、「大丈夫なのか」と。雇用も含めて先が暗い状況だったわけです。

飯田)10年の停滞が。

片岡)私自身も90年代半ば、5%の失業率になる直前に就職していたのですが、酷かったです。就職できず、「大学院に行って2年くらい待とう」というような人もいました。

飯田)就職できないから。

片岡)いまはそういう状況ではなく、むしろ若い人の能力や資質などが企業にも求められているし、必要とされている時代です。少子高齢化の影響もありますが、一方で景気がそれなりによくなければ、そういう状況にはならないのです。それがアベノミクスの前後で実感されることではないかと思います。

若い人に夢を与えたアベノミクス

本田)10年前と言うとアベノミクスが始まったころで、私も大学で教えていましたけれど、就職氷河期で内定が取れず、内定率が50%~60%とかなり悲惨な状況でした。

飯田)当時は。

本田)結局、就職できない人は手に職がつかないのです。10年経っても20年経っても非正規の人が多い。その人たちはアンラッキーですよね。でもアベノミクスが始まって、また雇用が増えてきました。

飯田)アベノミクスが始まって。

本田)そのときに、1度労働市場から出て行ったけれど、職探しを諦めた人がまた戻ってきたのです。人口動態から言うと生産年齢人口は減っていますが、就業者数は増えている。なぜかと言うと、戻ってきているからです。現在はそれもかなり限界にきていると思いますが。これから経済は人手不足になっていくでしょうけれど、アベノミクスの効果は大きかった。少なくとも若い人に夢を与えたのだと思います。

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