外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ政府が加入の意向を示すTPPについて解説した。
ウクライナがTPP加入の意向
ウクライナ政府が近く「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への加盟申請を行う意向であることが4月21日にわかった。実現すれば3月に加盟が認められたイギリスに続き、欧州で2ヵ国目となる。
飯田)ウクライナのタラス・カチカ経済副大臣兼通商代表が、ウクライナメディアに語ったということです。
宮家)結構なことですよね。
ロシアとの停戦後、国をどう再建していくのか ~協力してくれる国を拡大したい
宮家)TPPがインド太平洋地域だけではなく、欧州まで広がっていく。それにはいろいろな理由があるのでしょう。イギリスが入ったこともあるのでしょうが、ウクライナからすれば、いずれ戦争は何らかの形で停戦せざるを得ないと思っているはずです。
飯田)ウクライナからすれば。
宮家)国をどう再建していくか考えたときに、いままでのようなやり方ではダメなのだろうと。もう少し協力してくれる国を広げたいという気持ちもあって、カナダと自由貿易協定を結んだ。カナダは既にTPPに入っていますので、そういう形で自然に広がっていくのはいい動きだと思います。もっとも、アメリカが入ってこないと不安ですが。
飯田)本当はそうですよね。
宮家)ウクライナ加盟は歓迎すべきだと思います。
TPPに加入するのであれば条件をクリアしなければならない
宮家)ただ、TPPに入るには条件があります。自由化など、いろいろなハードルを越えなくてはなりません。
飯田)特に非関税障壁と呼ばれるような公共調達などは、国内を改革しないと入れないですよね。
宮家)TPPに中国を入れるのであれば、「いままでのやり方ではダメですよ。国内の国有企業の改革も含めて、経済のいろいろなルールも直さないと入れませんよ」というようになっています。ウクライナも問題がないわけではありません。しかし、今回の動きは「ウクライナがそういう国に変わっていく」という意思表示でもあるのだと思います。
飯田)なるほど。
宮家)その点、中国はそうではないかも知れません。
飯田)手は挙げていますが。
WTOにおいて世界第2位の経済国になったいまでも優遇措置を受ける中国 ~しかも自由化せず
飯田)世界貿易機関(WTO)に入るか入らないかのときにも、本当は約束していたのですよね?
宮家)そうです。1990年代のなかごろですが、私はジュネーブのWTOで行われたサービス貿易の交渉官をしていました。ですからWTOが動かなくなる状況、それを横で見ていたつもりです。いまだから言いますが、私は当時から中国が入ることには反対でした。ただ、日本の皆さんは中国を入れるのだと言っていたのです。しかし、1回交渉すればわかります。現場で中国の代表団と交渉したのですが・・・。
飯田)中国の代表団と。
宮家)難しいですよね。中国も、ある程度、体裁は整えたのかも知れませんが、基本的に自由化する気があるのか、ルールを変える気があるのか……そう言われると、「この人たちは違うのではないか」と思いました。つまりWTOには入るけれど、中国がいま持っている既得権は変えない。とにかく入り利益を得るが、「自国のルールを変える」気はないのではないかという印象がとても強かったので、私は非常に懸念を持っていました。
飯田)なるほど。
宮家)しかし、結局WTOに入れてしまったのです。入れた結果、中国は「途上国でハンディキャップがある」からと、実施すべき自由化をしない「上げ底」のまま入っているわけです。優遇措置があるわけでしょう。その優遇措置も、本来ならば世界第2位の経済国になったのだから、もうやめなければならないのに、やめていないではないですか。
中国がTPPに参加するのであれば、条件を満たして自由貿易を行わなければならない
宮家)それでいて自由化しているかと言うと、むしろ逆行しています。TPPをそのような状態してはいけないと思います。「入れたい」という声がまた出てくるかも知れませんが、日本は慎重な立場だと報じられています。入ってくるのは結構です。でも、きちんとルールを守り、ハードルを越えて条件を満たし、「本当に自由貿易をしてください」ということだと思います。
飯田)自由貿易で利益を享受するのであれば、それ相応の責任を持ち、改革などをしなくてはいけません。しかし、WTOでいま中国が行っている振る舞いを見ると、いわゆる「タダ乗り」であり、いいとこ取りですよね。
宮家)いいとこ取りです。それでは入れる意味がないのです。こちらは変えようとしているのに、向こうは変えたくないと言って入ってくるのですからね。
飯田)そうですね。
宮家)最初から難しいのはわかっていますが、そういうことをTPPで行うのだけは勘弁していただきたい。ウクライナは歓迎しますがね。
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