公共政策調査会・研究センター長の板橋功氏が4月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。選挙における日本の警備体制について解説した。
岸田総理大臣が和歌山県で再び応援演説
岸田総理大臣の選挙応援演説会場で起きた爆発事件から1週間となった4月22日、岸田総理は和歌山県で再び応援演説を行った。演説会場では金属探知機や手荷物検査が導入され、警察犬も巡回するなど警備体制が大幅に強化。数百人規模の警察官が警戒にあたった。
政治側の責任が大きかった岸田総理襲撃事件
飯田)聴衆は約2500人だったということです。まずは4月15日の岸田総理襲撃事件・爆弾テロについてお伺いしますが、警備に関してはどうご覧になりましたか?
板橋)先日の警備や警護について、私は大きな問題はなかったと思っています。これ以上の警護や警備をどう行えばいいのかは、非常に難しい問題です。それでもこのような事件が起こったということは、やはり選挙における警備や警護の限界を示したと言えると思います。
飯田)選挙における警備や警護の限界。
板橋)今回の事件が起きた最大の要因は、首相の遊説に対して演説会場に集まった人たちの手荷物検査が行われていなかったことです。果たして、これは警察側の責任なのか、政治側の要請なのか。私自身としては、今回の事件は政治側の責任が大きいと思いますね。
不特定多数の有権者に近い位置で演説したり、握手やグータッチをするような選挙活動のなかで警護対象者を守るのは不可能に近い
飯田)政治側からすると「手荷物検査などの物々しいことをしたら、人が集まらなくなる」と考える。そのような流れがいままでもあったということでしょうか?
板橋)そういうことだと思います。4月22日の遊説を見ていても、「あんなに警察官がいるところに行きますか?」という話ですよね。
飯田)確かにそうなってしまいますね。
板橋)要人や警護対象者が不特定多数の有権者に近い位置で演説したり、そのなかに入って握手やグータッチをするような選挙活動が、当たり前のように行われてきた。しかし、「本当に要人を守れるのか?」というような状況で警護対象者を守るのは不可能に近いと思います。こういうところから見直す必要があると思います。
選挙の警備の基本は警備員を雇うなどして、まず、政党や主催者が中心となって考えるべき
ジャーナリスト・有本香)外国でも選挙キャンペーンの風景や、要人が人のなかに入っていく光景を見たことがありますが、当然、一定のサークルに入るには手荷物検査やボディーチェックがある。先程、数百人の警察官がいて、「そんなところに人が集まるでしょうか?」とおっしゃっていましたが、それぐらい普通かなと思うのです。「日本でもそうなっていくのではないか」と覚悟しているのですが、やはりなかなかそうもいかないのでしょうか?
板橋)選挙というものを考えていただきたいのです。例えば警護や警備であっても、民主主義の根幹である選挙に警察が介入することになるわけです。
有本)そうですね。
板橋)過度な警察の選挙への介入は、選挙の公正性や選挙の自由を侵害する可能性があります。故に警察の介入は最小限であるべきだと考えます。選挙の警備の基本は警備員を雇うなどして、政党や主催者がまず中心となって考えるべきだと思います。
日本でも現職の総理や閣僚は屋内で遊説するべき ~手荷物検査をし、クリーンエリアで行う
飯田)場合によっては警備の仕方が変わることもありますか?
板橋)そうですね。特に今回のように、警護対象者が現職の首相や閣僚の場合には変わってくると思います。
飯田)現職の首相や閣僚の場合は。
板橋)安倍さんの事件のあとにも言いましたが、やはりまずは与野党含めた政治側。それから警備側……これは警察が直接行うというより、国家公安委員会にあたると思います。
飯田)国家公安委員会が。
板橋)日本においては、政治と警察との間でワンクッションを置くために国家公安委員会という制度が設けられていますので、ここがしっかり議論し、警備のガイドラインを定める必要があると思います。「どこまで政党や主催者が責任を持ってやる」のか、「どこから警察が担当する」のかという、基本的なガイドラインを定める必要があります。私が思うのは、警護対象者が遊説を行う場合、少なくとも演説場所や方法などもルール化するべきだと思います。
飯田)ルール化するべき。
板橋)例えば屋内にする。屋外は非常に警備・警護が難しいのです。ですから屋内の会場で、入り口で手荷物検査を行う。内部をクリーンエリアにして、そこで演説を行ってもらう。アメリカの共和党大会や民主党大会はみんなそうです。
飯田)そうですね。
板橋)そういう方式にして、日本でも現職の総理や閣僚はそういう場所で遊説するのが基本だと思います。
首相自らもリスクを減らす行動が求められる
飯田)爆弾テロがあったあとも、岸田総理は街頭に同じように立っています。「テロに屈しない姿勢を見せるのだ」というような指摘もありましたが、そうは言っても警護側からすると「勘弁してくれ」という思いでしょうか?
板橋)テロや犯罪に屈しない姿勢を見せるのは、総理にとって重要なことです。ただ、内閣総理大臣は党の総裁である前に、内閣総理大臣なのです。手厚い警護がついているのは内閣総理大臣であるが故です。
有本)そうですね。
板橋)日本の首相は行政権の長であり、さらに陸海空自衛隊の最高指揮官でもあります。そのような人物に何か起これば、行政の空白や外交・安全保障上の問題が生じる可能性があるわけです。
飯田)そうですね。
板橋)首相に何かがあったときに地震が起こってしまったり、今回のスーダンのように邦人救出が必要な場合、停滞を招く恐れがあります。首相は自由民主党総裁である前に、1億2000万人以上の国民の命に対して責任があります。ですから、やはり首相自身にもリスクを減らす行動が求められると思います。
飯田)確かにおっしゃる通りですね。
有本)遊説が少し多いなという気がしますよね。
飯田)日本の選挙はね。
サミットでの警備・警護体制は通常の選挙とはまったく異なる
飯田)5月にはサミットが行われます。「サミットでの警備・警護は選挙とは違うのだ」と板橋さんは指摘されていますが、ここはメソッドが変わってきますか?
板橋)選挙の警備とは根本的に異なると思います。選挙の警備と混同して考えるのは逆に危険です。サミットの警備は蓄積された重要な国際会議のノウハウを土台に、今回のサミットについても、国際情勢などを加味した警備が粛々と行われます。
飯田)国際情勢を加味して。
板橋)決定的に違うのは、要人については極力、不特定多数から隔離される方策が取られるということです。まず一般の方々は近寄れません。例えばサミット会場や、訪問が想定される平和記念公園には、既にフェンスが建てられているという報道がありました。そのなかを常にクリーンエリアに保つわけです。
飯田)フェンスが建てられて。
板橋)そこに入るためには、IDカードや顔認証、手荷物検査などを受けて事前に登録した人物しか入れません。不特定多数が要人に近づくことはまずできない。つまり根本的に方策が違うということです。
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