神戸大学大学院教授の木村幹氏が4月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ワシントンで行われた米韓首脳会談について解説した。
米韓首脳会談、核の拡大抑止の共同文書で合意
アメリカのバイデン大統領と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が4月26日(現地時間)、ワシントンで会談した。北朝鮮の活発な軍事活動を踏まえ、核兵器と通常戦力で同盟国を守る拡大抑止の強化を盛り込んだ共同文書「ワシントン宣言」を発表。弾道ミサイルを搭載可能な戦略原子力潜水艦の韓国への派遣や、米韓の核戦略計画に関する協議体の新設も盛り込んだ。
核の拡大抑止に関して「はっきりとした言葉が取れた」ことは大成功だった
飯田)今回の米韓首脳会談をどうご覧になりましたか?
木村)尹錫悦大統領からすると3月の訪日があって、5月には広島での先進7ヵ国首脳会議にも招かれています。外交日程のハイライトという感じで、彼にとっては晴れ舞台だったのだと思います。
飯田)米韓首脳会談が。
木村)核の拡大抑止に関しても、韓国政府、尹錫悦大統領が欲しいものが取れた。「はっきりとした言葉が取れた」という意味では、大成功と見ていいのではないでしょうか。
米大統領から「核」という言葉が出たことは尹錫悦大統領のアピールになり、韓国の安全保障にも大きく影響
飯田)韓国国内でも核武装や「核共有(ニュークリア・シェアリング)」など、かなり危機感を持った議論が行われているようですね。
木村)そうですね。北朝鮮のミサイル発射がしきりに行われていますし、韓国国内の問題もあります。大統領自身がこの問題に対して強い意欲を持っており、拡大抑止のみならず核共有も強く主張していました。「核」という言葉が実際にアメリカの首脳から出たことは、尹錫悦大統領としては自分のアピールにもなりますし、韓国の安全保障にも大きく影響すると思います。
米韓の核戦略計画に関する協議体を新設 ~北朝鮮への拡大抑止だけではなく、アメリカの核に対しても発言していく
飯田)今回のワシントン宣言のなかには協議体の設置が盛り込まれていますが、どういう議論や意味がありますか?
木村)まだ具体的な内容は固まっていないと思いますが、拡大抑止の実現だけではなく、韓国には「核の管理にも関わりたい」という意思が強くあります。
飯田)核の管理に関わる。
木村)北朝鮮に対する単なる拡大抑止ではなく、韓国が主体的にアメリカの核に対しても発言していく形がつくれたという意味では、韓国自身にとってもう1つの意味を持っているのでしょうね。
飯田)協議体を通じてアメリカがどう動こうとするかの情報も取れるし、影響も与えられる枠組みをつくったということですか?
木村)そうですね。枠組みをつくって、自分たちもしっかりと発言していく。「アメリカの言いなりではない」と国民にもアピールできるということです。
米韓の協議体に対して「日米韓」で日本が入り、どのようなポジションが取れるのか ~これまでタブーとされてきた核や朝鮮半島の危機の問題を考えなければならない時期に来た
ジャーナリスト・鈴木哲夫)これはあくまでも米韓の関係ではなく、安全保障上では日米韓として、日本も必ず関わることになりますよね。核について踏み込み、1つ進んだと言ってもいいのかも知れない。今後、日本は核に対してどう対応していくのか、当事国として考えなければならない状況だと思うのですが、その辺りはいかがですか?
木村)その通りです。韓国ではもともと核に対する忌避感があまりないので、このような問題も積極的に進めていくのですが、日本はどんな対応が取れるのか。
飯田)日本が。
木村)安倍政権のときにも、日本で核シェアリングの話が少し出た時期がありました。核シェアリングまでいかなくても、米韓の協議体に対して日本も日米韓としてどう入っていくのか。その場合、問題はどういったポジションを日本が取れるのかということです。
飯田)どんなポジションを取れるのか。
木村)例えば、韓国と北朝鮮で戦争が起こった場合、日本も巻き込まれてしまう可能性が当然出てくる。日本にとって、いままでタブーであった核や朝鮮半島の危機などの問題について、考えなければならない時期に来ているのではないでしょうか。
戦略原潜の韓国への寄港 ~日本への寄港の難しさ
飯田)宣言のなかで戦略原潜の韓国への寄港も出ていましたが、日本で考えると非核三原則に引っかかる可能性がありますよね?
木村)当然ながら、原潜が横須賀や佐世保に寄港したとなると、たちまち問題になるわけです。今度は日本がアメリカの核戦略の足を引っ張るようなシチュエーションも出てきてしまう可能性があります。そういう意味では、日本は諸手を挙げて歓迎するとは言えないのではないでしょうか。
飯田)日本に突き付けられるものが大きくなるのですね。
木村)そうですね。韓国自身は「イケイケ」ですから。アメリカからすると「日本は何をしてくれるのだ?」という感じになるかも知れません。
飯田)G7を前に、実はこの弾が日本にも向いているわけですね。
木村)韓国としては「日米韓のなかで自分が引っ張っていくのだ」という姿勢を見せたいですからね。
戦略原潜が韓国に寄港する意味
飯田)韓国に戦略原潜が寄港するのは、軍事的な意味よりも象徴的な意味だという指摘もありますが、いかがでしょうか?
木村)双方だと思います。象徴的な意味では、アメリカ側が本当に関与するということです。拡大抑止自体に象徴的な意味もありますからね。「拡大抑止、拡大抑止」と言うことによって抑止する意味がありますから、両者の違いを議論することにはあまり意味がないですね。
飯田)なるほど。
木村)逆に言えば、象徴的な意味だからこそ見せないといけないわけです。佐世保に戦略原潜が入っているのに、「このなかに核はありません」というような話を日本ができるのかどうか。そこは難しいですよね。
台湾問題に踏み込むことで中国に対する「リスクを負っても構わない」とする尹政権
飯田)もちろん北朝鮮の核を抑止するのが本論ではあるのですが、韓国に戦略原潜が行くとなると、中国に対するメッセージも強いような気がします。この辺りはどうでしょうか?
木村)当然そうだと思います。韓国とアメリカの間には温度差があって、韓国はもちろん北朝鮮を中心に考えていますが、アメリカは中国です。
飯田)アメリカは。
木村)尹政権の1つの特徴は、近々でも台湾問題について言及し、中国政府と揉めているように、台湾問題についても積極的に発言しています。そういう意味では、「リスクは十分に負う」という判断があるのだと思います。
飯田)尹錫悦政権は台湾問題に踏み込んでいくことに対し、あまり躊躇しないということですか?
木村)そうですね。大統領の発言を見ていると、日本に関してもそうですが、タブーをどんどん破っていくような発言をしています。この問題に関しても大統領としては「リスクを負っても構わない」と考えているのではないでしょうか。
2024年の総選挙までに実績をつくって国民の支持率を上げたい尹政権
飯田)一方で韓国の国会では、野党「共に民主党」が過半数の議席を占めているなかで、「ここまで踏み込んでも大丈夫」という勝算が尹錫悦大統領にあるのでしょうか?
木村)勝算があるかどうかはわかりませんが、それは「尹政権の方針」であって、韓国が長期的にその方針で進められるかは別の問題です。韓国は来年(2024年)に総選挙があるので、尹政権としてはそれまでに実績をつくり、国民の支持を得て総選挙に勝つという戦略なのだと思います。
中国への依存度が伸びていない韓国 ~アメリカと関係を深くして世界的なマーケットを取っていく狙いも
飯田)アメリカとの関係のなかで、サプライチェーンの見直し等々もあります。まさに中国との関係性とも絡んでくる部分だと思いますが、経済界などはどういう姿勢なのでしょうか?
木村)実は韓国の経済界は、この10年間、中国への依存度が伸びていないのです。
飯田)そうなのですね。
木村)かつて中国がフロンティアだった時代は、韓国にとっては終わっています。そういう状況があって、例えば朴槿恵政権の時代とは違い、財界が中国との関係を重視して政権にストップをかけるようなことは、今回に関しては考えにくいと思います。
飯田)むしろ、アメリカが主導するサプライチェーンのなかで、利益を追求していった方がいいという判断もあるのですか?
木村)そうですね。今回は技術交流の話も出ていますし、アメリカは最先端の技術もたくさん持っているので、水素や電気自動車(EV)などに関してはアメリカと関係を持っていく。そして、さらに大きな世界的マーケットを取ろうという尹政権の考え方があるのだと思います。
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