外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。韓国・ソウルで行われた日韓首脳会談について解説した。
日韓首脳会談、シャトル外交が12年振りに再開
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岸田総理大臣は5月7日、韓国・ソウルで尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談。3月の尹大統領の来日に続き、首脳同士の相互訪問「シャトル外交」が再開された。
朝日新聞が岸田総理の訪韓を評価
飯田)日韓における「シャトル外交」の再開は12年振りです。
宮家)全体としてはうまくいっていると思います。既に社説がいくつか出ていますね。
飯田)各新聞の。
宮家)6紙ぐらいありますが、今のところは朝日新聞と産経新聞しか出ていません。
飯田)日韓に関しては。
宮家)面白いのが、朝日は通常、政府に厳しいではないですか。しかし、今回は「本来あるべき軌道に乗った。賢明な判断だった」と書いています。そして首相が「心が痛む」とおっしゃった件については、
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『首相自らの言葉で思いを伝えたことは評価できる』
『これで落着とせず、過去を直視する姿勢を示し続けてほしい』
~『朝日新聞デジタル』2023年5月8日配信記事 より
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宮家)……と書いてあるのです
飯田)べた褒めではないですか。
宮家)そうなのです。ところが産経新聞を読むと、首相の「心が痛む」発言については……。
飯田)いわゆる徴用工問題については。
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『主客転倒の誤った発言で、極めて残念である』
~『産経新聞』2023年5月8日配信記事 より
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宮家)……と書いています。まるで逆です。
飯田)普段のスタンスともまるで逆ですね。
宮家)普段であれば、産経新聞はもう少し政府に優しいのだけれど、朝日新聞と産経新聞の扱いの違いには驚きました。それなりにインパクトのある訪問だったことは事実ですよね。こういうものが出るということは、それなりに今回の結果がバランスは取れている、ということなのでしょう。
飯田)賛否両方が出てくる。
アメリカが中国に対峙するためには日米韓で向かう必要がある ~日韓関係を改善しなければならない
宮家)今回の訪韓については、簡単に言うと3点あります。大きな流れとしては、ある新聞に載っていたのだけれど、ある韓国の専門家が「中曽根康弘元総理の訪韓に似ている」と言っているそうです。
飯田)1980年代のことですね。
宮家)これは岸田さんが中曽根さんに似ているという意味ではないと思います。当時はアメリカのレーガン元大統領がソ連に対して厳しく出ていて、日米韓でしっかり対応しなければならず、日韓関係も改善しなければならないというドライブが働いていたのです。しかし、いまはソ連の脅威が中国に代わっている。
飯田)そうですね。
宮家)その意味では、状況が1980年代と似ています。全体の流れとして安保を優先し、「他の問題はもう少し時間を掛ける」というやり方は決して悪くないと思います。
政権が代わればまた「ゴールポストが動かされる」ことは覚悟しなければならない
宮家)他方、これで日韓関係が大丈夫かと言うと、そうではないと思います。
飯田)これだけでは。
宮家)日韓関係の90%は国内問題・国内政治です。やはり国内にはいろいろな意見を持つ人がいる。日本にもいるし、もちろん韓国にもいます。特に日本と韓国の大きな違いとして、韓国には「386世代」という、極端に言えば反米で親共産党系で反日の進歩的な人たちがいるわけです。日本にも似たような人たちがいましたよね?
飯田)反米で容共で。
宮家)そして韓国が嫌いな人たち。
飯田)かつて大きなボリュームである世代がいました。
宮家)私の1つ上の世代ですね。学生運動を行っていた人たちです。それはそれでいいのですよ。日本が民主化を深める過程でそういう運動が出てくるのは。韓国でも同じようにそういう世代がいて、それが386世代と呼ばれる人たちです。彼らは残念ながら、まだ50代なのです。50代ということは、あと20年ほどは元気だということです。
飯田)現役で社会を動かしていく。
宮家)韓国で民主化主義が進む限り、政権交代はあります。そうすると彼ら「386世代」が政権に帰ってくる可能性があって、帰ってくると当然のことながらゴールポストがまた動くわけです。
飯田)そちらに政権が代わると。
宮家)それは覚悟しなければいけないと思っています。
永久にゴールポストが動き続けることはない ~対日感情が悪くない韓国の若い世代
宮家)ただ、永久にゴールポストが動き続けるのかと言うと、そうでもないと思います。最近の韓国の世論調査を見ていても、若い人たちの日本に対する考え方が少しずつですが変わってきているのではないでしょうか。希望的観測かも知れませんけれどね。
飯田)若い世代の。
宮家)もし変わってきているのであれば、単に共産主義との闘いというような世界ではなく、現実的に韓国経済を見る。彼らは夢も希望もなく、生活も大変難しくなっているという話を聞きますから、やはり保守化するというか、現実的な考え方になってくるでしょう。そして日本との関係も含めて、これまでとは違う意見も増えてくると思います。
飯田)強硬一辺倒ではない。
宮家)「そういう人たちがもしいるとすれば」と期待したいです。だとすれば、いまのように日韓関係が現実的なリーダーたちによって、常識的に動かされて進んでいく状況を、若い人たちに具体的に見せる必要がある。
飯田)今回のように。
宮家)そして、こういうことが現実的な日韓関係の将来のためなのだという布石を打たなければならない。そういう意味では、今回の訪韓には大きな意味があったと思います。仮にまたゴールポストが若干動いても、そのインパクトは小さくなっていくと期待しています。ゴールポストが動く可能性はあるし、まだまだ時間は掛かりますが、期待がないわけではないと思います。
飯田)「ゴールポストが動くから」と言って、まったく謝絶してしまうのは悪手だと。
宮家)そうだと思います。
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