習近平氏がほくそ笑むような、米・民主党と共和党のつばぜり合い 「米債務上限問題」駆け引き続く

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ジャーナリストの佐々木俊尚が5月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米債務上限問題について解説した。

習近平氏がほくそ笑むような、米・民主党と共和党のつばぜり合い 「米債務上限問題」駆け引き続く

インドネシアのバリ島で、握手する中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領 2022年11月14日 (ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

アメリカ債務上限問題、バイデン大統領と野党側の協議まとまらず

アメリカ政府の債務上限をめぐり、5月16日午後(日本時間17日午前4時)からホワイトハウスでバイデン大統領と野党・共和党側が約1時間ほど協議を行った。しかし、協議がまとまらず、話し合いを続けることとなった。

飯田)政府の支出を債券発行によって担保するということですが、アメリカの仕組みでは法律によって上限が決まっています。

クリントン元大統領の90年代、オバマ元大統領の2010年代にも起きた債務上限問題

佐々木)日本であれば、政治的な裁量でどのぐらい国債を発行できるか決められるのですが、アメリカの場合は議会の了承を得なければならず、共和党と民主党の間で必ず対立します。過去にもクリントン元大統領の90年代、またオバマ元大統領の2010年代、両方とも民主党政権ですけれど、そのときに債務上限をめぐって揉めました。

飯田)そうでした。

佐々木)民主党は歴史的に大きな政府路線ですから、予算を拡大しようとする。保守側である共和党は、どちらかと言うと小さな政府路線なので、「野放図に予算を拡大するな」と必ず対立があり、過去3回、危機的な状況に陥っています。

飯田)一部政府閉鎖などもありました。

佐々木)前回のオバマ元大統領のときは、アメリカ国債の格付けが落とされて大騒ぎになったことがあります。また同じことが起こるのではないかと危惧されています。

飯田)オバマ政権のときのように。

佐々木)シリコンバレー銀行の破綻から始まり、銀行不安がアメリカで広がって、それが他の国にも波及するのではないかと言われている。そんな状況のなかでこういうことがあると、アメリカ国内の政治のつばぜり合いで世界全体が大迷惑をこうむるという。

飯田)振り回されてしまう。

過去の例からも、やりすぎると共和党の支持率が低下する ~どこかに落としどころを見出すのでは

佐々木)どういう可能性があるかと言うと、国債が発行できなくなれば、資金調達も当然できないですよね。でも、すべてが使えなくなるわけではなく、増やそうとしている分が増やせなくなることを考えると、何かを減らさなければいけない。

飯田)何かを減らさなければならない。

佐々木)でも国債利回りをやめてしまうと、国債に対する不安に火がついて、国債が暴落してしまいます。国債が暴落すると、その他の金利にも影響するので、それはやりたくない。政権としては、利払いは行う代わりに、政府の給料遅配などが起きてしまう可能性があります。

飯田)職員への。

佐々木)それでまた失業率が上がれば、世論に対する影響力も大きい。ただ、過去を見ると90年代のクリントン氏のときも、2010年代のオバマ氏のときも、野党・共和党がやりすぎて支持率を落としたのです。

飯田)そこまで大混乱させてしまうと。

佐々木)民主党を虐めたいという共和党の目論見があっても、やりすぎて民意に離反され、支持率が落ちてしまったら、次の大統領選で戦えません。その微妙なバランスのなかで共和党は駆け引きをしているのだと思います。

飯田)「このくらいで勘弁したるわ」と、どこでなるのか。

佐々木)決定的に破壊的なことにはならないと思います。もしそれをやってしまったら、来年(2024年)の大統領選で勝てないですから。どこかに落としどころがあるのではないかと期待していますが。

G7のあとに予定されていたパプアニューギニア訪問と、オーストラリアでの「クアッド」首脳会合への出席を中止

飯田)外交にもいろいろな影響が出ています。G7には一応、バイデン大統領は出るということですが、そのあとに予定されていたパプアニューギニア訪問と、オーストラリアでの「クアッド」首脳会合への出席を中止しました。

佐々木)どちらも大事ですよね。

飯田)セットされていたけれども、予定が飛んでしまった。これは問題ですよね。

佐々木)G7にも来てもらわなければいけないけれど、クアッドも大事です。「台湾有事がどうなるか」と言われているような大変な局面の状況で、「アメリカは何をやっているのか」と思います。

中国やロシアによるシャープパワーの脅威

飯田)中国にすれば、パプアニューギニアには行かないし、クアッドにも出ないということで、ニヤニヤしてしまいますよね。

佐々木)習近平さんは心のなかで「共和党頑張れ」と言っているのではないでしょうか。

飯田)そういうことですよね。アメリカも含めて「民主主義諸国は国内を混乱させればガタガタになるぞ」と思われかねない。

佐々木)そういう状況も見て、シャープパワー的なものがいずれ起こるのではないかと心配です。

飯田)工作活動などを用いて有利な状態をつくるという。

佐々木)「中国が野党時代の共和党に資金提供しました」というような可能性が今後、出てくるかも知れない。SNSも含めた世論の操作合戦のようなところが、いまや軍事や文化と並んでパワーの1つとして浮上してきているのです。

飯田)それはアメリカに限った話ではないですよね。

佐々木)日本でもシャープパワー、世論操作的なものに対する国外からの圧力があるのではないかと噂されていますが、現状、まだ陰謀論の域を脱していない。日本語の壁もあると思うのですが。

飯田)言語の壁。

佐々木)今後、そういうノウハウを中国やロシアが蓄積していくと、日本にもそういう魔の手がやってくる時代になるかも知れません。しかも、気付かないうちにやってくるのです。何かおかしいと思ったら、「あれ?」というようなことが起こる可能性もあります。

「何を引っ張ったら何が起きるのか」という連鎖反応を見ることが大事

飯田)そういうところまで考えると、いろいろなものがつながって見えてしまう感じですね。

佐々木)結局、国内の政治もグローバルな外交も、あるいは経済も、すべてがつながっています。どこかを引っ張ると、どこかが「ボコッ」と出てしまう。そのようなグローバリゼーションの世界に我々は生きているのです。

飯田)そうですね。

佐々木)ですから、「何を引っ張ったら何が起きるのか」という連鎖反応を、きちんと見ていくことが大事なのではないでしょうか。

飯田)クリアカットな解決策、「ここをこう切ればいい」ということではなく。

佐々木)「なぜ小学生でもわかることがわからないのか」と怒る人がいますけれど、小学生がわかることで解決できるのであれば、誰も苦労しませんよ。

グレーなものを引き受けるというのが大人 ~現状維持と改革の間を取って少しずつ変えていく

飯田)現状のバランスがどう成り立っているのかを、まず理解しなければならない。

佐々木)そのバランスを崩さないように、少しずつ変えていく。もはや段階的な改修しか、いまの21世紀の社会にはあり得ないということを認識するべきだと思います。

飯田)「スクラップ・アンド・ビルドだ!」と、「全部ぶち壊せばいいんだ!」 として、そこから新しいものが出てくるようなやり方では難しい。

佐々木)日本維新の会も頑張っていますけれど、改革1本では無理があるかなと思います。改革でうまくいかないことは、民主党政権のときにわかってしまったわけです。

飯田)古くはその前の小泉純一郎政権なのかも知れませんが。「改革」と言って飛ばされた側の人たちにとっては、たまったものではない。

佐々木)現状維持もよくないけれど、改革もよくない。その間を取って、少しずつ変えていくしかありません。

飯田)まどろっこしいし、すっきりはしないけれど、そういうモヤモヤしたものと付き合っていくしかないのでしょうか。

佐々木)基本的には、グレーなものを引き受けるのが大人ですよ。

飯田)清濁併せ呑むという感じですね。

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