コロナ禍でも従業員を切らなかった飲食店が、今うまくいっている

By -  公開:  更新:

東京都立大学・法学部教授の谷口功一が5月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。コロナ禍での飲食業界と今後について解説した。

コロナ禍でも従業員を切らなかった飲食店が、今うまくいっている

※画像はイメージです

コロナ禍の飲食業界、そして今後の飲食業界

1年あまりにわたって全国の夜の街をめぐり歩いて研究している谷口功一氏に、飲食業界のコロナ禍、そして今後について訊く。

予約の取れない店と入らない店の二極化が進んでいる

飯田)飲食業については、自粛期間もそうですし、コロナ禍の影響を特に受けた商売です。谷口さんがご覧になって、未だにその影響は残っていますか?

谷口)見ている限りでは、夜の街にも人がかなり戻ってきている感じはあります。飲食全般に出ている傾向ですが、二極化している問題があります。都心などでも、人気のあるクオリティの高いお店は「予約が取れない」ということがデフォルトの状態になっているのですが、予約が入らないところはそれほどでもありません。

派遣のホステスさんを雇う店も ~深刻な人手不足から

谷口)水商売の方も、コロナ前から繁盛店だったところが耐え忍んで、いま人足が戻っています。従業員を切らなかったところが上手くいっているようです。

飯田)コロナ禍でも耐え忍んだところが。

谷口)いまは人を集めるのが大変なのです。私が知っている銀座のお店などでは、これはラウンジですが、あまりにもホステスさんが少なく、いまは派遣のホステスさんがいるそうです。

飯田)派遣があるのですか。

谷口)電話で呼んで、その日だけ入ってもらうような形のところがあります。それくらい人が足りていない。

コロナ禍でも従業員を切らなかった店が、今うまくいっている

飯田)まん延防止等重点措置が出されたときだったと思うのですが、その際も店を開けていた友人は、「自分たちは協力金をもらえるからいいけれど、働いているアルバイトの人たちに給料を払わないと可哀想だから」という話をしていました。

谷口)スタッフをたくさん抱えているところでは、本当に耐え忍んで給料を出し、維持しているお店もあったので、いまたくさん入っているのは嬉しいだろうなと思います。

コロナ禍前には約7万軒あったスナックが2022年には4万軒台に ~コロナを機に辞めた高齢のママさんも多い

飯田)そこに至るまでに閉めてしまったお店もあると思いますし、実際にコロナの影響をいろいろご覧になりましたか?

谷口)数字で言うと、コロナ禍前は全国のスナックは7万軒くらいあったのですが、2022年には4万軒台くらいに減っているのです。

飯田)約3万軒が閉めたということですか?

谷口)そのくらい閉めています。「コロナ禍で潰れた」という話だけではなく、スナックを経営しているママさんに高齢の方が多かったこともあります。

飯田)ご高齢のママさんが。

谷口)コロナに感染するのが怖いということもありますし、70歳を超えて夜中にずっと立ち仕事をするのも大変なので、本当は辞めたかったのだけれども、常連さんに「辞めないでくれ」と言われたために続けていたところもあったようです。「コロナ禍がいいタイミングになった。協力金も出たので、それを退職金代わりにして辞めた」という方も少なくなかったのではないでしょうか。

起業感覚でスナックを開く若者も

飯田)若い人たちが新規参入する傾向はあるのですか?

谷口)スナックだけでなく、飲食全体に言えることなのですが、「10年持つ店は1割」という話があります。もともと新陳代謝が激しい業界ではあるけれど、飲食店を営む場合は場所が重要になります。

飯田)場所ですね。

谷口)みんなが狙っている場所があるのですが、そこが空くと、いまでも「バッ」と次の店が入ることもあって、新規参入の意欲は旺盛だと思います。特にスナックの場合は設備投資もそれほど要りません。200万円くらいあれば開業して自分の城を持つことができます。その意味では、ある種の起業のような形で若い人たちが始めるところもあると思います。

立地条件がよければ店が流行るというわけではない

飯田)立地というのは不思議なものだと思うのが、駅前であっても入れ替わり立ち替わり店が代わるところもあれば、一見不便なのに、長く続く店もあります。違いは何なのでしょうか?

谷口)違いはよくわからないのですが、私がよく通っているスナックは駅から遠く、自分でも「なぜこんなに歩いて通っているのだろう」と思うときがあります。しかし、そこはいつも賑わっていて、いつ行っても満員なのです。ですので、場所だけが関係しているわけではないと思います。

コロナ禍でも従業員を切らなかった飲食店が、今うまくいっている

※画像はイメージです

コロナ禍における政府の「飲食店への対応」の評価

飯田)コロナ禍において、憲法に関しても「営業の自由」の問題があると言われていました。法律の専門家の方々は、どう総括されているのでしょうか?

谷口)全体として評価すると、「政府は支離滅裂なことを行った」とは言えないところもあります。他の国と比較した場合、死者の数も少ないですし、感染症を予防する上で何らかの対策をしなければいけなかったのは確かです。

子どもでもわかるような変な理屈でやめさせられ「馬鹿にされている気がする」 ~嘘をつくのなら上手な嘘をついてくれ

谷口)ですので、すべてを否定することはできませんが、「もう少しやり方があったのではないか」と思うところはあります。例えば「まん延防止等重点措置」が出された当時は、駅ごとに飲めたり飲めなかったりしました。また、「8時までは飲めるけれども、それ以降は飲めない」というのは、「8時までならコロナウイルスは大人しいのか?」というような話もありました。

飯田)素朴な疑問として。

谷口)この話を聞いて飲食の方々がおっしゃっていたのは、「馬鹿にされている気がする」ということでした。子どもでもわかるような変な理屈で制限されている。「どうせなら上手な嘘をついてくれ」ということです。

飯田)そう思いますよね。

谷口)「他の業界に対して、そのようなことをしたらタダで済むのか?」と。自分たちがやり返してこないので、世間から一段低く見られているのを薄々察して対応したのではないかと。

飯田)飲食業界だから。

谷口)世間からも「不要不急の外出を控える時期なのに」という声が上がるのを期待している部分もあるし、卑怯ではないかと話していました。やったことがすべて間違いとは言いませんが、やるのであれば、もう少し上手い嘘をついてきちんと行動した方がよかったのではないかと思います。

飯田)なるほど。

外国のように強制的なロックダウンを行わなかった日本

谷口)日本は外国のように、強権的にロックダウンなどはしませんでしたが、ロックダウンすれば責任を取る必要があるので、そのためにやらなかった部分は大きいと思います。

飯田)法律をつくったり、私権の制限などにも関わる。

谷口)あとで訴訟を起こされたり、刑事責任の問題に発展する可能性もありますから。しかし、政治家はみんなから歓迎されないことであっても、必要なときには身を削り、選挙を度外視してでも行動するべきです。そういう姿勢があまり見られなかったのが残念だったと思います。

要請ベースの制限で法律をつくらなかったツケが「未だにマスクが外せない」ところなどに表れている

飯田)緊急事態宣言なども要請ベースで制限が行われていて、私も最初の時期から「法律できちんと縛らないと、然るべきときにやめられなくなってしまう」と思っていました。未だにマスクの話なども残っていますよね。

谷口)ドイツはたくさん法律をつくって、実際に訴訟なども起こされているそうですが、きちんと責任を取っています。それをしなかったツケが、マスクがいまでも外せないようなところに表れているのだと思います。

飯田)明示的な責任は取らされないかも知れませんが、世の中の政治に対する不信感ばかりが残ってしまい、根本が掘り崩されてはいませんか?

谷口)その印象を強く持っています。

飯田)次に何か起こったときも、「どうせ恣意的にやるのだろう」と考えて誰も従わなくなったら、もっと大変なことになるような気がします。

次に起こる非常事態のためにもコロナ禍で行われた対応について反省するべき

谷口)今回と同じような非常事態として、いまから12年前の東日本大震災がありました。当時も「一生のうちにこのようなことがあるのか」と思いましたが、デマや風評被害なども出ていました。

飯田)2011年ですね。

谷口)その10年後くらいに今度は大規模な疫病が起こって、また同じことを繰り返している。しかも今度はもっと悪くなっていないでしょうか。また次に何かあったとき……例えば、戦争などが起こった場合は怖いなと思います。そのためにも、今回のことは真面目にじっくりと反省するべきです。

飯田)これだけ影響を受けた飲食やサービス業、宿泊業の方々へは、重点的にヒアリングしなければいけませんよね。

谷口)クラスターが発生したところを報道する際も、「これほど大規模で強度な人権侵害はない」と思うようなこともありました。報道側にも反省すべきところがあるのではないでしょうか。

番組情報

飯田浩司のOK! Cozy up!

FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

番組HP

忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。

Page top