第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣が6月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3ヵ月連続で改善された消費者態度指数について解説した。
5月の消費者態度指数、3ヵ月連続で改善 ~コロナ明けで非製造業は回復するも、コロナ前の水準ではない
内閣府が5月31日に発表した5月の消費動向調査によると、向こう半年間の消費者心理を示す「消費者態度指数」は、前月比0.6ポイント上昇の36.0だった。上昇は3ヵ月連続で基調判断は「持ち直している」とし、前回から据え置いた。
飯田)1年4ヵ月ぶりの高水準です。「足元の経済」をどうご覧になりますか?
永濱)ざっくりと言うと、「製造業」と「非製造業」の二極化です。「非製造業」の方はコロナ禍から明けたことで回復しているのですが、消費者態度指数を見てもわかる通り、まだコロナ前の数字までは戻っていません。
世界的に調整局面が続いている製造業 ~市場が警戒する中国のコロナ感染再拡大
永濱)一方で「製造業」の方は、5月31日の鉱工業生産や中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)などを見てもわかりますが、2022年秋くらいから製造業は世界的に調整局面に入っていて、まだ調整が終わっておらず、二極化している状況だと思います。
飯田)仕入れる人たちは生産を見ながら仕入れを行うので、PMIなどの数字が悪いと、「先行きがあまりよくないのかな」と感じるのですね。
永濱)特に中国が、4月~5月と2ヵ月連続で悪いのです。市場で警戒されているのは、中国でまたコロナ感染が増え始めてきていることです。
飯田)そういった報道がありますね。
永濱)もともと中国は「ゼロコロナ」解除で、今年(2023年)の景気はいいのではないかと期待されていたところでした。しかし、いま思わぬ展開になっており、警戒感が強まっています。5月31日の日本株を下げたいちばんの理由は、中国経済です。
中国経済が悪くなると原油価格が下がる ~電気料金にはいい傾向も
飯田)各国際機関の先行き予想を見ると、欧米は物価上昇もあり、少しきついのではないか。ここは中国が引っ張るのではないかと言われていましたが、中国の状況が悪いと厳しいですね。
永濱)特に輸出関連の製造業にとっては厳しいです。一方で電気料金に関しては、むしろ中国経済が悪くなった方が原油価格が下がりますので、いいのです。良し悪しなのです。
飯田)なるほど。
永濱)ただ、全体的な世界経済を考えた場合には、世界第2位の経済大国の中国がある程度しっかりしていないと、かなり厳しいような気がします。
消費者態度指数の伸びは今後鈍化へ
飯田)今回は消費者態度指数という、いろいろな質問を総合しての数字となりますが、物価の先行きを聞いたところ、「先行きは上がるのではないか」という人が9割以上でした。この辺りはどう見ればいいでしょうか?
永濱)さすがに伸び率で考えると、例えば原油や為替を見ても、2022年の夏や秋からは水準を下げていますし、輸入物価も下がっています。その辺りが反映されますので、伸びは鈍化すると思います。
飯田)伸びは鈍化する。
値上げの勢いが強まる可能性も
永濱)一方で、これは若干いい意味もあるかも知れませんが、今回の40年ぶりの世界的なインフレで、日本企業はこれまで価格転嫁に臆病だったけれど、半ば強制的に価格転嫁、値上げする傾向にある。それによって、「意外にいけるな」と値上げの勢いが強まっています。
飯田)値上げしてもいけると。
永濱)そのため当初の想定よりは、インフレが下がらない可能性もあるかなと思います。それで何が起こるかと言うと、日銀の金融政策です。例えば「イールドカーブ・コントロール」の修正など。当初、植田和男総裁が就任したころは、「修正に慎重だ」ということで円安が進んだのですが、インフレが思ったほど落ちてこないとなると、意外に早めの修正の警戒もあるかと思います。
飯田)物価が上昇していくと、家計で考えれば当然、可処分所得が目減りすることになりますものね。
実際に賃金がどのくらいアップされたか ~上がっていれば物価上昇に耐えられるが
永濱)あとは、6月6日に4月分の「毎月勤労統計」が出ます。そこで30年ぶりの賃上げ率が反映された賃金のデータが出てきますので、それがどのくらいになるのか次第ですね。
飯田)賃上げがどのくらいだったのか。
永濱)賃金が上がっていれば、それなりの物価上昇には耐えられると思いますが、思ったほどではなかったとなると、なかなか実質賃金のプラスは難しいでしょうから、注目かなと思います。
飯田)いま総合で3%台です。これで賃上げもあれば「意外と好循環だな」となるかも知れませんね。
永濱)でもインフレ率が3%まで達してしまうと、さすがにそこまで名目賃金はいかないと思います。
実質賃金がプラスになるためには、インフレ率が2%を下回らなければならない ~家庭の購買力につなげるにはまだ厳しい
飯田)どのくらいの物価水準であれば賃金に見合うと考えられますか?
永濱)30年ぶりの賃上げということで、いまの集計では春闘での賃上げ率が3.7%くらいです。ただ、3.7%という数字には定期昇給分も入っています。定期昇給はだいたい1.8%と言われていますから、いわゆる名目賃金ベースだと1%台後半、だいたい2%前後くらいだと思います。
飯田)名目賃金ベースで2%くらい。
永濱)そうなると、実質賃金がプラスになるためには、インフレ率が2%を下回ってこないとプラスになりません。足元ではまだ3%を超えていますので、やはりもう少し下がってもらわないと、家計の購買力という意味では少し厳しいかなと思います。
観光業は堅調になるが、生活必需品への節約志向は変わらない
飯田)賃金の伸びが弱いと、物価上昇圧力で結局、内需は冷え込んだままになり続けるのでしょうか?
永濱)とは言っても、コロナにおける強制貯蓄などがありますので、旅行など、コロナで強制的に抑制された需要は堅調だと思います。しかし、物価上昇における相当の部分は食料品の値上げが占めています。日常生活で使うような食料や生活必需品については、引き続き節約志向のまま変わらないのではないかと思います。
正常化していない日本経済 ~景気対策が必要
飯田)コロナで抑制された部分の一時的な需要は出てくるけれど、内閣府などが試算する需給ギャップなどを見ると、まだマイナスですよね?
永濱)まだ7兆円くらいマイナスですね。
飯田)内需が本格的に立ち上がるまでには、まだ少しタイムラグがあるのでしょうか?
永濱)そうですね。やはり需給ギャップがなくなって、初めて完全雇用になり、経済の正常化が進みます。となると、日本経済はまだ正常化していないという意味では、本来ならもう少し景気対策などが必要なのですが、むしろ負担増の話ばかりが出ています。
飯田)「引き締め」や「増税」の話が出ていますね。
永濱)そのような拙速な出口(戦略)は謹んで欲しいと思いますね。
飯田)以前も、少し物価が上昇したら「もう緩和はやめろ」などと言われました。10年~20年前もそのような話が、日銀の議事録を見ると出てくるような感じがしますね。
永濱)日本経済は毎回それで失敗しています。少しよくなるとすぐに引き締めてしまい、ずっと正常化を逃しています。今回はそのような失敗はしないで欲しいと思います。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。