少子化対策の財源 「負担増ありき」には慎重な議論が必要

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第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣が6月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。少子化対策に対する、今後3年間の重点施策の予算額について解説した。

少子化対策の財源 「負担増ありき」には慎重な議論が必要

2023年4月3日、挨拶をする岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202304/03hossokusiki.html)

政府、少子化対策の予算上積みで3.5兆円規模へ

松野官房長官は、政府の少子化対策に対する今後3年間の重点施策の予算額について、次のように述べた。

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松野官房長官)現時点では概ね3兆円程度となりますが、高等教育費のさらなる支援拡充策、「こども大綱」のなかで具体化する、貧困・虐待防止、障害児・医療的ケア児に関する支援策について、今後、令和6年度予算編成過程において施策の拡充を検討し、全体として3兆円半ばの充実を図るとの指示が出されました。

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飯田)3兆円半ばということで、増額と報じているメディアも多いですが、どう見たらいいのでしょうか?

最大の少子化対策は「マクロ環境を改善する」こと ~別のところで財源の負担を強いるのは避けるべき

永濱)まず、「少子化対策」という言葉が納得いきません。メニューを見ると、既に子どもを持っている世帯に対し、「より子育て支援を行う」ということです。

飯田)そうですね。

永濱)なぜ日本で少子化が進んでいるかと言うと、(将来不安などから)生涯未婚率が上がっており、そもそも結婚しない。結婚しても、低所得の家庭は子どもを産まない傾向にあるので、最大の少子化対策は、やはりマクロ環境を改善することだと思うのです。

飯田)最大の少子化対策は。

永濱)そういった意味から考えると、3.5兆円規模で進めるのはいいと思います。ただ、まだ日本経済はデフレギャップが約7兆円もあるような状況です。負担増どころか、逆に積極的に財政を出して経済を引っ張り上げなくてはいけないのに、別のところで財源の負担を強いるような拙速な動きは、是非とも避けて欲しいと思いますね。

「負担増ありき」については慎重な議論が必要

飯田)総理は「消費税の増税は行わない」などと会議では言いますが、これについてはいかがですか?

永濱)増税しなくても、社会保険料の上乗せなどを行えば、負担増に変わりないわけですよね。

飯田)天引きされてしまいますものね。

永濱)もちろん、経済がいまの欧米のように過熱するような状況になれば、負担増になってもいいと思います。しかし、いまの段階から「負担増ありき」で話が進んでしまうと、さらに将来不安を高めて、生涯未婚率の上昇などにも結びつきかねません。やはり、もう少し慎重な議論が必要ではないかと思います。

経済が正常化するまでは、消費増税で借金返済に回っている5兆円以上の部分を財源に使うべき ~上振れした税収を有効活用することもできる

飯田)「子育ての不安を取り除く」、あるいは「老後の不安を取り除く」など、「何とかの不安を取り除く」と言いながら、「お金を出すけれど、お金を取ります」というような政策をしますよね。

永濱)例えば、これはある意味、社会保障ですよね。

飯田)そうですね。

永濱)社会保障を考えると、消費税率を5%から段階的に10%まで上げたことによって、13兆円強の財源が確保されたのですが、それが全額、社会保障に結びついているかと言うと、そうではないのです。

飯田)消費増税で確保された約13兆円が。

永濱)結びついているのは8兆円くらいであって、5兆円以上の部分は社会保障に結びつかず、実は借金の返済に回っています。

飯田)5兆円以上が。

永濱)そういう部分から見れば、私は経済が正常化するまで、既に借金返済に回っている5兆円以上の部分があるのですから、そういったところを使えばいいと思います。さらに言うと、昨年度(2022年)の税収の結果はまだ確定していないのですが、これまでの段階で計算すると、当初予算は約65兆円だったけれど、インフレタックスのような感じで、税収が7兆円くらい上振れそうなのです。税収の上振れもあるわけですから、そういうところを有効に使って欲しいと思いますね。

飯田)それだけ上振れするというのは、当初の見込みがどれだけ渋かったのだと思いますね。

永濱)毎年そんな感じです。特に昨年度はインフレが高くなったので、すごく税収が増えました。

少子化対策の財源 「負担増ありき」には慎重な議論が必要

2023年4月3日、記念撮影をする岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202304/03hossokusiki.html)

少子化対策の3.5兆円や防衛増税の1兆円分など、税収で賄えてしまう ~上振れした法人税などで

飯田)今年(2023年)もこれだけ為替が円安になっていて、「大変だ」などと言われますが、輸出企業などは空前の利益を出していますよね。

永濱)円安は、中小企業にとってはマイナスですが、中小企業はもともと税金を払っていないところが多いので、税収だけで考えると円安はとても税収にとってプラスです。

飯田)稼いでいる大企業に関しては、稼いだ分だけ法人税を払いますし……。

永濱)中小企業のマイナスが響いてきませんので。かつ、今年度は30年ぶりの賃上げですよね。今年度は税収がさらに上振れすると思います。

飯田)賃上げする分だけ、使えば消費税も消費に回るわけですから。あとは所得税も。

永濱)少子化対策の3.5兆円や、防衛増税の1兆円分など、税収で賄えてしまうのではないかと個人的には思います。

飯田)確かにそうですが、そういった話は出てきませんね。

永濱)言いにくい人が多いのでしょうね。いろいろなところに配慮して。

増税は経済が正常化してから行うべき

飯田)やはり1度税率を上げてしまうと戻しにくい。本当は税率ももう少し機動的に、景気が悪いときは下げるなどしてもいいと思うのですが、そうはいかないのでしょうか?

永濱)イギリスなどは、消費税を機動的に動かしますよね。

飯田)コロナ禍では下げていました。

永濱)そういう形であれば、「将来的に税率が下がるかも知れない」という期待もあるのですが、日本の場合は下げるなどあり得ない感じではないですか。そうなると、ずっと負担増ばかりで、将来への不安が高まってしまいます。

飯田)そちらの方が、よほど気持ちを暗くしますよね。

永濱)私も、増税自体は反対ではないのですが、経済環境が過熱するような状況になってからでも遅くありません。拙速な負担増は、是非とも避けてもらいたいと思います。

日本の「単年度中立主義」のデメリット ~アメリカは「多年度中立主義」

飯田)日本は財源を1つずつひも付ける形ではないですか。でも、よく「お金に色はついていない」と言われます。どこかで稼ぎ、どこかで出した分を賄うようなことは、日本の財政ではできないのでしょうか?

永濱)それはまさに「単年度中立主義」だと思います。アメリカを見ると、そういった経済対策を打つときは、いわゆる多年度中立として、10年くらいの期間で収支を合わせるのです。

飯田)アメリカでは。

永濱)最初は出す方が多いわけですが、経済のプラス効果を重視し、少し長い目で考えて、自然増収なども含めて税収を中立していくのです。そうしないと経済対策の意味がありませんからね。

多年度中立の考え方に結び付く「GX経済移行債」

永濱)日本も少しずつ変わってきてはいるのですが、よりそういう方向へ進んで欲しいなと思いますね。

飯田)少しずつ変わってきているというのは、少しずつ多年度予算で行う部分が出てきたのですか?

永濱)例えば、「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」などがそうですよね。あれは多年度中立の考え方に結びついています。

飯田)GX経済移行債。

永濱)多年度中立にするメリットは何かと言うと、単年度中立では減税しにくいのです。単年度で収支を合わせなくてはいけないので、給付金や補助金の割合が多くなってしまいます。

減税しやすい多年度中立 ~減税の比率を高めていけば、同じ財政支出額でも、需要喚起効果が高くなる

永濱)多年度中立にすれば減税しやすいのです。減税の方が補助金や給付金よりも需要喚起の効果は大きいので、多年度中立にして減税などの比率を高めていけば、同じ財政支出額でも需要喚起効果が高くなると思います。むしろそちらの方が、将来の財政にはプラスになると思います。

飯田)多年度中立であれば。

永濱)そういう方向に行って欲しいですね。経済財政諮問会議の特別セッションでは、そのような話をさせていただいたのですが。

飯田)でも、報道される経済財政諮問会議のニュースは、「とにかくいまは引き締めるべきだ」など、そういう委員の方々の声ばかりが出てきて不思議だなと思います。

永濱)メンバーもそういう方が多いので、必然的にそうなるのかなと思います。

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