原発処理水 漁業関係者が反対するのは「放出」自体ではなく「風評被害」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が7月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。IAEAが国際的な安全基準に合致すると公表した福島第一原発の処理水について解説した。

原発処理水 漁業関係者が反対するのは「放出」自体ではなく「風評被害」

2023年7月4日、表敬を受ける岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202307/04hyokei02.html)

IAEA報告書、処理水の海洋放出は「国際的な安全基準に合致する」と発表

国際原子力機関(IAEA)は7月4日、東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する日本の計画について「IAEAの安全基準に合致している」とする安全審査の結果を公表した。来日中のグロッシ事務局長は総理官邸で4日、岸田総理大臣と会い、審査結果をまとめた最終報告書を提出した。

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グロッシ事務局長)この結果は我々の尽力のたまものであり、そして科学的かつ中立的なものでございます。日本が次のステージに進むにあたって、決断を下すのに必要な要素、これらがすべて含まれていると考えております。

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飯田)IAEAの報告書をきっかけとしつつ、夏ごろの放出開始についても具体的に進められる方針です。

佐々木)IAEAの報告がようやく発表され、内容は全面的に東電の措置を肯定するものでした。すべてのハードルはなくなったので、あとは放出するだけです。

漁業関係者が反対しているのは処理水放出そのものではなく、それによって起こる風評被害に反対している

佐々木)読売新聞では、このような見出しになっています。

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『処理水対策を高評価…IAEA報告、近隣国影響「無視できる」』

~『読売新聞オンライン』2023年7月5日配信記事 より

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佐々木)リード文でも「専門家から報告書の内容を評価する声が聞かれた」とされています。一方で東京新聞は、

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『政府は国際機関の「お墨付き」を放出計画の後ろ盾にしたい考えだが、漁業関係者のほか、中国や韓国など周辺国からの反対の声は根強い』

~『東京新聞』2023年7月4日配信記事 より

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佐々木)……と書いていて、相変わらずここを何とか引っ張ろうとしているのが見え見えなわけです。

飯田)なるほど。

佐々木)ただ、漁業関係者は何に反対しているのか、地元の声などをいろいろ聞いてみると、処理水放出そのものに反対しているわけではありません。「それによって起きる風評被害に反対している」という話なのです。もう10年以上も経っているのに、なぜ風評被害が起きるのか。

飯田)12年ですね。

科学的に問題がないにも関わらず「危険だ」と言う声にメディアが加担 ~「風評被害が起きている」と書くメディア

佐々木)最近は「風評加害」という言葉も使われていますが、風評を流す人がいるから風評被害が起きるわけです。原子力発電所の事故において、事故そのもので亡くなった人は最初の津波で2人亡くなっただけであって、のちに放射線被害で亡くなった人はまずいないと。健康被害も現実にはほぼ出ていません。

飯田)現実的には。

佐々木)ALPS処理水についても、どのような構図でどうやって水を集め、どう処理しているのかがすべて明らかにされていて、これも科学的に問題はない。今回のIAEAの報告書に書いてある通りなのです。

飯田)科学的に問題はない。

佐々木)しかし、「危険だ、危険だ」と言い続ける人がいる。しかも、それに新聞やテレビが加担して、風評被害になってしまっているわけです。

問題は「自分たちが風評被害を流している」という視点がメディアから抜け落ちていること

佐々木)メディアそのものが風評加害をし続けており、結果として12年経った現在も「風評被害が起きている」と新聞が書くのは、マッチポンプ以外の何ものでもありません。自分たちが風評を流し続けておいて。

飯田)悪いイメージを流して。

佐々木)悪いイメージを与えておいて、12年経ったいまも風評被害が続いているようなことを書いていますが、「あなたたちがやってきたことではないか」と思います。その視点が完全にメディアから抜け落ちていることが問題なのではないでしょうか。

我々がするべきことは福島の魚を買って食べて応援すること

飯田)福島第一原発の事故によって、放射性物質が風に乗って運ばれたことは確かに事実です。しかし、その後の放射性物質の動きや、農産物・漁業などに対してどんな影響があるのかということは、専門家の皆さんが詳しくトレースし、あと追いしています。

佐々木)そうですね。

飯田)現在流通しているものに関しては、モニタリング調査などで安全が担保されています。しかも、数値はリアルタイムに近い形で出ている。現場の方々は血の滲むような努力を続けていらっしゃるのです。

佐々木)12年経って半減期もあり、放射線の影響が落ち着いてきているわけです。反対している人たちは、最初のころは「1年後~2年後に影響が出る」などと言っていたのに、1年経って何も起きないと「3年後~5年後だ」と言っていました。最近だと、今度は「孫子の代まで」などと言い出している。

飯田)影響が出ていないのに。

佐々木)この話は広島・長崎の原爆で「原爆被害は遺伝する」と言っていた、あの風評被害と同じことを繰り返しているわけです。このようなことは本当にこれで終わりにしなければいけないと思います。

飯田)そうですね。

佐々木)我々、日本社会がやるべき重要なことは、メディアの風評加害に負けず、漁業や農業、特に漁業を支えていくことだと思います。福島の魚を我々が買い、食べて応援していくことに尽きるのではないでしょうか。

福島の海で獲れた魚でも宮城で水揚げされれば「宮城産」となる矛盾こそメディアが報道するべき

佐々木)福島の魚は「常磐もの」という言葉があります。対馬海流の寒流と黒潮がぶつかるところでは餌が豊富なのです。しかも10年間ぐらい漁業をしていなかったので、幸か不幸か魚が大きくなり、豊かな海産物が育ってきています。

飯田)豊かな海産物が育っているだけに、他県の漁港からも船が出てきている。ここにも問題があって、水揚げした場所によって「○○産」という産地が決まるのです。例えば、宮城で揚げると「宮城産」として普通に流通する。しかし、同じ魚が福島で揚がって「福島産だ」ということになると、いろいろ言われてしまう。こんなバカげた話はありません。

佐々木)そういう事情こそ、メディアが報じるべきだと思います。

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