ジャーナリストの須田慎一郎が7月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7月7日に発表された6月の米雇用統計について解説した。
6月の米雇用統計、就業者は前の月より20万9000人増加 ~底堅いアメリカ経済
米労働省は7月7日、6月の雇用統計を発表した。統計によると、農業分野以外の就業者数は前の月より20万9000人増加。市場予想を僅かに下回った。失業率は前の月から0.1ポイント改善の3.6%だった。
飯田)雇用統計の数字はかなり注目されていましたが、どう見ればいいのでしょうか?
須田)まだ相当、底堅いなと思います。これまでFRBは積極的に利上げに踏み切ってきましたが、これはインフレを抑えるためにブレーキを踏んでいるという状況でした。「少しやりすぎなのではないか」という見方もないわけではありませんでしたが、雇用統計を見ていると、まだ雇用は広がっており、アメリカ経済は底堅いなという感じがします。
購買力が高まり、また物価が上昇する傾向に ~急な物価上昇には歯止めが掛かりつつある
飯田)雇用が堅調だと、コストが高くなるなどの現象につながっていきますか?
須田)もちろん、そうですね。これが何に影響するのかと言うと、賃上げの部分にもつながっていくので、購買力が強まります。ものが売れる、サービスが消費されていくという状況なので、また物価が上昇する傾向になるのではないでしょうか。
飯田)いくらFRBがブレーキを掛けても、まだ止まらない。そうすると、利上げなどはどうなってしまうのですか?
須田)とは言っても、急ピッチな物価上昇には歯止めが掛かりつつあります。
供給よりも需要が上回るよい物価上昇の水準 ~このピッチが鈍化していくと金融引き締めよりも金融緩和に
須田)いまアメリカで起こっていることですが、この程度の物価上昇率であるならば、よい物価上昇なのです。景気をよくしていく。供給よりも需要が上回るから、物価が上がっていく。結果的に企業業績がよくなり、賃上げや設備投資にもつながる。よい物価上昇の水準だと思います。
飯田)インフレ率で見ると、だいぶ落ち着いてきた状態ですが、アメリカも中央銀行の目標としては2%と言っています。「本来はもう少し高くても大丈夫」と見られているのですか?
須田)そうですね。私などは2%というと、少し低すぎるのではないかと思ってしまいます。ただ、このピッチが鈍化していくと、もう少し景気をよくしようではないかということで、すぐにではありませんが、金融引き締めよりも金融緩和の傾向になっていきます。
飯田)金融緩和の方向に。
須田)「金融引き締めが長期化しない」という見方にもなってくるのです。少し緩やかすぎるので、「このままのペースでいくと鈍化していくから、利下げしようではないか」という動きにもなる。このような将来的な見通しが立つということは、逆に言えば「金融引き締めの長期化を回避できるのではないか」という、連想ゲームのような発想になってくるのです。
雇用統計が鈍ってくると「利下げになるのでは」という予測から株価がプラスに ~将来的に利下げの傾向が出てきたのではないかという発想
飯田)マーケットに与える影響はどうですか?
須田)株価の点で言うと雇用統計は、「雇用がいいということは景気がいい」という考え方なので、普通は雇用統計がよくなると株価は上がります。
飯田)景気がいいということですものね。
須田)ただ今回、違う現象が起こっています。雇用統計が鈍り、右肩上がりでドンといかないとなると、むしろ金融引き締めが長期化しないという予測から利下げになるのではないかという発想が働いて、株価にはプラスになるという可能性もあります。
飯田)悪い数字が出た方が。
須田)予想よりも下回ったことで、FRBは金融引き締め政策を長期化させないと考える。
飯田)もしかすると利下げもあるかも知れない。では株も買える、という発想になるのですね。
須田)その先を打つ形で、ドル売りになっているのです。
飯田)足もとは一時期145円までいった円相場が、いまは142円台で、確かに3円くらい円高の方向に振れています。
須田)この動きは、将来的に利下げの傾向が出てきたのではないかという発想なのです。
バイデン政権との連携で2024年の大統領選挙の時期に利下げされる可能性も
飯田)将来的にというのは、いつごろだと思いますか?
須田)秋にもアメリカ経済は景気後退局面に入るのではないかという見方が出てきています。2024年はアメリカ大統領選挙を迎えるではないですか。
飯田)2024年は。
須田)FRBはニュートラルではあるのですが、その辺りを意識する形で、バイデン政権との連携が見られるかも知れません。
飯田)いま行うよりも、大統領選に近いところでやった方がインパクトは大きい。
須田)景気に対するテコ入れにもなるでしょうね。ただ、いまのままでいくと、別に政治的な思惑だけではなく、秋にリセッションするという見方が根強いものですから、そのタイミングが焦点としてあるのだと思います。
市場との対話を重視するアメリカ
飯田)予想で買ったり売ったりすることを、発言1つで行うわけではないですか。FRBトップのパウエル氏にしても、「どのようにメッセージを出していくのか」が難しくなりますね。
須田)アメリカの場合は、日銀以上に市場との対話を重視しますからね。何か政策を変更したときはショック的に動き始めるのではなく、少しずつ動かしていくのです。
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