「NATO首脳会議」に対するウクライナ国民の「3つの期待」
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ウクライナの国営通信社ウクルインフォルム通信の編集者・平野高志氏が7月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナのNATO加盟の条件について解説した。
NATO首脳会議への3つの期待
北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が7月11日、リトアニアの首都ビリニュスで始まり、ストルテンベルグ事務総長は冒頭、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援をさらに強化していく方針を示した。NATO首脳会議は2日間にわたって行われる。アメリカのバイデン大統領やフランスのマクロン大統領など31の加盟国の首脳に加え、10日のトルコとの会談で加盟に向け大きく前進したスウェーデンのクリステション首相も参加する。
飯田)NATO首脳会議に関して、ウクライナ国内の期待や受け止め方などを、どうご覧になりますか?
平野)1日目が終わったところで、ウクライナの期待に対し、NATOからどういう反応が得られたのかがわかってきました。NATOの結論文書も発表されました。まず、ウクライナの期待は3つあります。
ロシアとの戦争が終わったあとにNATO加盟の招待を出す ~今回は加盟招待を見送り
平野)1つは、ウクライナのいまの戦争が終わったあと、NATOに加盟するための招待が出ることを、ウクライナ側は期待していました。これに関しては既に結論が出ており、「今回は招待を出さない」と発表されています。この発表によって、ウクライナにはかなり失望感が広がっているところです。
加盟までの間、ウクライナの安全をどう保障するか
平野)もう1つは、将来NATOに加盟すること自体はもうコンセンサスがあるのですが、そのタイミングがわからない。それまでの間、ウクライナの安全をどのように保障するかについて、具体的な発表が今回あるのではないかと言われています。まだ出てはいませんが、本日(12日)判明するのだと思います。
NATOからの新たな軍事支援
平野)もう1つは軍事支援です。戦争が長引くなかで、新たな軍事支援が発表されるのかどうか、期待が集まっています。
NATO側とウクライナの立場の違いが判明 ~戦争中での改革等の条件は外し、「戦争が終わったら加盟に向けて招待を出す」という文言を入れて欲しかったウクライナ
飯田)戦後の加盟について、今回は招待が出なかった。これに関してはゼレンスキー大統領も反発しているようですね。
平野)加盟することが決まっているにも関わらず、いつ加盟できるのかわからないし、招待も出してもらえない。招待するためには条件を満たさなければいけない、というような発表があったので、それに対してゼレンスキー大統領が怒っているところです。
飯田)その発表に。
平野)しかも、ウクライナが改革しなければいけないという条件です。「私たちはいま自分の国のためだけでなく、欧州を守るために戦っている。あなたたちのために戦っているのに、その国に対して条件を出すとは何ごとだ」というような怒りが、ウクライナから聞こえています。
飯田)この辺りの条件、特に改革については、いままでも西側諸国はいろいろな形でウクライナにアプローチをしてきた。もちろんウクライナ側も努力している部分はあるわけですよね。
平野)「民主制度の改革や治安部門、経済や汚職対策などの改革を行うこと」という西側の条件に対して、ウクライナは努力してきました。ただ、まだまだ課題はたくさんあり、全面侵攻が始まる前にも「これとこれをしなければいけない」ということは言われていました。
飯田)ロシアの全面侵攻の前に。
平野)全面侵攻が始まったから改革が止まっていいのかと言うと、必ずしもそうではないというのが西側の立場です。ウクライナとしては、それどころではないから、その条件は外して、「戦争が終わったら加盟に向けて招待する」という文言を入れて欲しかったのです。それが立場の違いとして判明してしまった。
条件を満たした形で招待することがウクライナのためになるという見方のNATO
飯田)ウクライナとしては当然、戦っているさなかに自己改革までするとなると、タスクが多くなる。何とか妥協点を見出せないのでしょうか?
平野)妥協して欲しいと思い、ウクライナは頼んでいたのですが、特にアメリカが「それに関しては条件を満たさなければいけない」という立場を取ったわけです。
飯田)アメリカが。
平野)歴史を見ると、例えば1950年代にトルコとギリシャが加盟したときは、いまウクライナに求められているような難しい改革はありませんでした。
飯田)トルコとギリシャが加盟したときは。
平野)政治的、地政学的な状況を反映させる形で招待することは、前例はあるし、可能ではあったと思います。しかし今回、ウクライナに関してはそうではなく、「きちんと条件を満たした形で招待する」というメッセージを伝えることになりました。それがウクライナのためになるという見方なのだと思います。
長期的な視野での支援確保を望むウクライナ
飯田)一方で当面の安全保障や支援に関しては、まだ表に出てきていないところもあると思います。例えば支援に関しては、どんなことが期待されていますか?
平野)現在の戦いが長期戦、消耗戦になっていることから、弾薬をできるだけ長く供与できるような形をつくる。地雷除去もしなければいけませんし、先日アメリカが発表したクラスター弾の供与の話もあります。
飯田)そうですね。
平野)今後、クリミア半島についてもウクライナは戦うつもりですが、それに向けてATACMS長距離ミサイルの供与もウクライナは期待しています。F16戦闘機の訓練についても、まもなく各国で始まるという話です。長期的な視野で、ウクライナを支えるための支援確保という話になっていくと思います。
ウクライナの反転攻勢に対するウクライナ国民の反応
飯田)反転攻勢が始まったことは日本国内でも報じられていますが、難航しているのではないかという情報もあります。ウクライナ国内の方々はどうご覧になっていますか?
平野)難航しているという理解もきちんとあるのですが、他方で、まだ主力を投入していないため、悲観的な見方にはなっていません。レオパルト2やいろいろな装備品、兵力を備えた主力をいつ投入するかは、まだ決めていません。投入したときにどういう結果が出るかという期待が残っています。
戦争中であっても「戦後、招待状を出す」という形にすることで、ロシアの動機を挫くべきとするウクライナ
飯田)今回のNATOの加盟問題に関し、基本的なNATOの建前として「どこかと紛争している国の加盟は難しい」と言われる。そうすると、日本国内の識者からも、ロシアとしてはこの状況を長引かせることがインセンティブになってしまうのではないか、というような指摘が出ています。この辺りのジレンマについて、ウクライナの皆さんはどうご覧になっていますか?
平野)もっともな意見だと思います。戦争が続いている限り加盟できないと言うのであれば、ロシアは「戦争を長引かせればいいではないか」という発想になってしまう。
飯田)加盟させないために。
平野)それこそウクライナが懸念していたことです。戦争中であっても「戦後、きちんと招待状を出す」という形にすることで、ロシアの動機を挫かなければいけないというような主張もしていました。
ウクライナ自体の改革を重視した西側
平野)ただ、西側はウクライナ自体の改革を重視したわけです。また、改革が進むことによってウクライナ国内の強靭性、汚職やスパイが入る余地がなくなり、ロシアが隙を突いてくる余地をなくすこともできる。結局は長い目で見て、ロシアと戦う上で重要になってくるという理解の方が上回ったのだと思います。
飯田)ある意味、目指すゴールは一緒ですが、山の登り方が少し違ったぐらいに思っておいた方がいいのですか?
平野)そうですね。結局、「どうすればウクライナがロシアに勝てるのか」というアプローチの違いだと思います。
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