NATOは大きな成果を得られ、ウクライナは期待外れの結果となった「NATO首脳会議」

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元ベルギー防衛駐在官でアジア太平洋安全保障研究センターの長島純氏が7月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7月12日に閉幕したNATO首脳会議について解説した。

NATOは大きな成果を得られ、ウクライナは期待外れの結果となった「NATO首脳会議」

2022年6月29日、NATO+AP4首脳写真セッション~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202206/29nato.html)

NATO首脳会議閉幕、インド太平洋との連携強調

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は7月12日、2日目の討議を行い閉幕した。ストルテンベルグ事務総長は終了後、日本を含むインド太平洋諸国との連携に関し、ウクライナに侵攻するロシアと覇権的動きを強める中国を念頭に「我々はルールに基づく国際秩序に立ち向かうため、一層緊密に協力していく」と述べた。

NATOは大きな成果が得られた ~ウクライナは少し期待外れ

飯田)NATO首脳会議について、長島さん自身はどうご覧になりましたか?

長島)「安全保障は地域的なものではなく、グローバル的なものになった」というストルテンベルグ事務総長の言葉がすべてを表していると思います。今回の成果を一言で言うと、NATOからすれば成果が大きかった。しかし、ウクライナからすると少し期待外れです。日本、あるいはロシアからすると成果があったのか、なかったのか。……というように、立場によって成果の度合いは違うと思います。

飯田)NATOにとって成果が大きいというのは、どういうことでしょうか?

長島)今回、トルコがスウェーデンの加盟容認に転じたことで、去年(2022年)の首脳会合で合意した北欧2ヵ国であるフィンランドとスウェーデンが加盟することになりました。その点で言うと、周りの安全保障環境において、加盟国は国防費を増やさなければならないという合意を新たに確認し、ウクライナへの協力の方向性が一致した。さらにはインド太平洋との連携で加盟国が一致したのも成果があったと思います。

フランスがNATO東京事務所の設立に反対 ~米欧同盟としてインド太平洋に関わるのではなく、フランスが主体となって日本との安全保障を強化したい

飯田)インド太平洋と言うと、フランスがNATO東京事務所の開設に反対しています。足並みが乱れているようにも思えるのですが、いかがですか?

長島)フランスは欧州のなかでも「戦略的自律」を掲げており、「NATOは脳死している」と批判するなど、独自の外交政策を取っています。

飯田)戦略的自律。

長島)フランスからすれば、NATOが米欧同盟としてインド太平洋に関わって東京事務所をつくるより、フランスが主体となって日本との安全保障を強化したいという思惑があるのです。この問題に関しては、フランスの外交姿勢をよく見極めた上で考えた方がいいと思います。

「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」で今後、協力が進んでいく3つの分野

二松学舎大学准教授・合六強)今回、AP4の4ヵ国と関係を強化するため、協力文書を新たに採用しました。日本とNATOの間でも、新たに「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」を発表して協力の優先順位を定めています。長島さんの目から見て今後、具体的に発展の余地があり、協力しがいのある分野はどこだと思われますか?

長島)パートナーシップ計画は、いままで9項目だったものが16項目に増え、協力のレベルが一段階上がりました。

飯田)9項目から16項目へ。

長島)ポイントは3つあると思います。短期的に見ると、ウクライナ支援で国際的な団結を強めるというところ。中期的に言うと、中国とロシアの連携に対する牽制。そして、インド太平洋と欧州の関係を強化するということです。

飯田)その3つ。

長島)長期的な点で言うと、さらに気候変動やエネルギー、海洋環境などの国際公共財をどう守っていくかという課題があります。短期・中期・長期的な協力の絵姿が今回、基本的なものとして示されたのではないでしょうか。

気候変動に対して日本が行っている対策をもっとアピールするべき

合六)私自身もヨーロッパの研究者と話していると、気候変動が安全保障に与える影響を高く見ていると感じます。他方、日本ではこのような議論の前に、中国や北朝鮮、あるいはロシアなどの差し迫った脅威があり、後回しになりがちだと思うのですが、この辺りをどう見ていますか?

長島)日本でも防衛省が気候変動への対処戦略を2022年につくりました。航空自衛隊の方でも、新しいバイオ燃料を使って戦闘機を飛ばす実験をしています。努力はしていると思うのですが、合六さんが言うように、環境が厳しいとこういう問題は取り上げられないので、もう少しアピールしてもいいのではないかと思います。

気候変動が安全保障に与える影響 ~気候変動に軍隊が適応しなければ、ミッションを遂行できない

飯田)気候変動が安全保障に与える影響に関して、具体的には何が想定されるのでしょうか?

長島)気候変動は現在、人為的な要因で起きています。これをいかに緩和させるか。二酸化炭素を減らし、気候変動の影響をどう止めるか。これに軍隊としてどう貢献できるかという他に、もう1つあるのは「適合」の問題です。

飯田)適合。

長島)気候変動により、兵士や装備品にも影響があります。通常は30度の気温で対応するところを、40~50度で行わなければいけない。そういう環境の変化に対し、軍隊として適応していかないと、自分のミッションが遂行できません。「緩和と適合」という点で、気候変動は軍隊にとっても重要な問題だと思います。

飯田)気候変動によって、オペレーションそのものが遂行しづらくなるという論点があるのですね。

長島)そうですね。

気候変動によって温度が上昇することに軍として適応できるのか

飯田)合六さんはいかがですか?

合六)昨年(2022年)、フランス政府主催のインド太平洋に関する研修に招待されました。そこでは日本以外にも、フランスが考えるインド太平洋諸国の代表が集まっていろいろな議論をしたのですが、気候変動は一大テーマなのです。やはり島国からすると、海面上昇は国家の生存に関わる問題です。

飯田)海面上昇の問題は。

合六)シンガポール軍の方は、「気候変動で暑くなると演習のときに耐えられず、オペレーションにも大きな支障が出ている」と言って、その部分を懸念していました。軍として何ができるのか、「適応できるのか」というところが論点になっているのだと思います。

飯田)皮肉にも、これだけ気候変動で暑くなり、オペレーションが遂行できないのであれば、「かえって平和になるのではないか」と素人としては思うのですが、そういうわけではないのですか?

長島)軍隊が環境の変化に適応していくことは、いつの時代も課題です。気候変動で暑いなか、任務を遂行できない、もしくは装備品が動かないとなれば、逆に言うと対応可能な国が優位に立つことになります。自国の国民の平和と安全を守るためには、環境に適合し続けなければいけない仕組みが、軍隊にはあるのだと思います。

飯田)なるほど。それがNATOなどでも論点になってきている。日本も、否が応でも対応しなければいけないのですね。

長島)環境・気候変動の影響への対処に関して、この点でも日本はリードする力があると思いますし、NATO側もそこに期待して関係強化を示しています。そこはしっかりとアピールしていくべきだと思います。

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