「いかに日本の自衛隊や日米同盟が無力か」が明らかに 台湾有事における「グレーゾーン事態」で

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慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が7月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「日本戦略研究フォーラム」が実施した台湾有事を想定した机上演習について解説した。

「いかに日本の自衛隊や日米同盟が無力か」が明らかに 台湾有事における「グレーゾーン事態」で

【第3回台湾海峡危機政策シミュレーション】台湾有事などに関する日台首脳会談のシミュレーションが行われた=2023年7月15日午後、東京都新宿区 写真提供:産経新聞社

台湾有事を想定し、国会議員らが政策を検証

民間シンクタンク「日本戦略研究フォーラム」は7月15日~16日、東京都内で台湾有事を想定した机上演習を実施し、小野寺元防衛大臣ら自民党の国会議員に加え、アメリカや台湾から専門家が出席した。

飯田)2021年8月に初開催され、今回で3回目の開催となります。想定としては、中国軍による日本・台湾へのサイバー攻撃と尖閣への漁民上陸という「ハイブリッド戦」。アメリカによる後方支援要請と邦人退避への対応。また、日本への武力攻撃事態の発生という、3つのシナリオについて行われました。具体的には、「海上保安庁の保安官が中国海警船の発砲で死傷者多数」などの状況まで想定されたということです。このようなときにどう対処するかは難しいですよね。

日本政府が台湾有事のグレーゾーンのケースを想定することは難しい ~民間シンクタンクがシミュレーションを行うのは有意義

細谷)台湾有事に関して、いままで日本、特に政府は触れてこないようにしてきました。1つは、台湾は日本政府が承認する国家ではないということ。もう1つは、今回のシミュレーションもそうだと思いますが、台湾有事のいわゆるグレーゾーンについてですね。

飯田)グレーゾーン。

細谷)計画的な武力攻撃ではない形、今回で言えば武装した漁民が上陸するようなケースの場合、日本政府の想定としては難しいのです。

飯田)想定することが難しい。

細谷)アメリカでは、ランド研究所や戦略国際問題研究所(CSIS)が関連したシミュレーションを行っていますが、おそらく日本政府のなかで、この手のシミュレーションはやりにくいと思います。そういった意味では、民間のシンクタンクが行うことには意義があると思います。

今回のシミュレーションで「グレーゾーン事態において、いかに日本の自衛隊や日米同盟が無力であるか」、「法的にグレーゾーン事態のケースに対応するのが難しいか」が明らかに

飯田)今回のシミュレーションでは、死傷者多数の状況に対して、海保を所管する国土交通大臣役の議員が「軍事的手段で解決しないという国家意思を示す」とし、海自ではなく海保での対応が可能だという考えを示したそうです。これは1つの考え方だと思いますが、どう対処するかは、国際法との照らし合わせでも難しいところでしょうか?

細谷)今回は政府の元関係者の方がたくさん入っていますが、安倍政権のときの安保法制では……私も安保法制に関する懇談会のメンバーでしたが、グレーゾーン事態への対処については、ほとんど手が付けられなかったのです。

飯田)グレーゾーンへの対処が。

細谷)特に国交省、防衛省、外務省がすべて関連してきますので、すり合わせが難しい。そういった意味でも台湾有事が起きるときには、おそらく今回のようなグレーゾーン事態でなければ、米軍はある意味、簡単に出動できるのです。つまり、中国としては「いかに米軍を出動させないか」が鍵になります。

飯田)中国側は……。

細谷)米軍を出動させないような事態をつくる。これがまさに「グレーゾーン事態」です。

飯田)なるほど。

細谷)自衛隊法の第76条によれば、「計画的・組織的な武力攻撃が行われなければ、自衛隊は防衛出動できない」とされています。そうなると、集団的自衛権によって米軍が関与することは難しい。今回のシミュレーションが明らかにしたのは、「グレーゾーン事態において、いかに日本の自衛隊や日米同盟が無力であるか」、あるいは「法的に今回のようなケースに対応するのが難しいか」ということだと思います。

今回のシミュレーションはグレーゾーン事態における日本の対応の弱さを浮き彫りにした

飯田)今回、ホットラインでの協議などもシミュレーションされました。中国側は漁民の上陸などに関しても「主権を行使しているだけだ」と言ってきたのに対して、もともと日本の領土に対して他国が主権を行使するのであれば、それをどのように防衛できるのか。今回は「武力攻撃予測事態」を認定した形ですが、自衛隊が完全に前に出る事態ではなく、準備だけになりますよね? もちろん部隊は動かせるわけですが、この辺りは本当に頭を悩ませるところです。

細谷)中国は、人民解放軍と海警が軍事委員会のもとにあり、一体的な行動がしやすいのです。日本の場合は国交省、海上保安庁と自衛隊との間、いわゆる防衛出動ですが、この間に非常に大きな距離があります。

飯田)大きな距離がある。

細谷)特に国交省、海保は可能な限り防衛出動に接続したくない、エスカレーションさせたくない。日本のなかでは、中国と比較した場合、エスカレーションに対する抵抗が非常に強いのです。エスカレーション・ラダーを上がっていくことに関する躊躇が強いと思います。

飯田)エスカレーションさせたくない。

細谷)躊躇して動けないということは、中国からすれば、日本はグレーゾーン事態に対して効果的な対応が難しいと判断できるのです。中国の海警は、もともと人民解放軍の巨大な艦船を使っていますので、今回のシミュレーションはグレーゾーン事態における日本の対応の弱さを浮き彫りにしたのではないかと思います。

グレーゾーン事態に対する日本の法的空白をどのように埋めるかは喫緊の問題

飯田)ただ、このようなシミュレーションをさまざまな角度から照らしていくことには、意義があるのでしょうか?

細谷)大変、意義のあることだと思います。政府内ではできないでしょう。特にグレーゾーン事態に対する日本の法的な空白は、深刻な問題だと思いますし、それを中国が知っていれば、そこに当然入ってきます。空白をどのように埋めるかは喫緊の問題でしょう。そういった意味でも、アウェアネスを高める効果は大きいと思います。

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