ジャーナリストの佐々木俊尚が7月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田政権の少子化対策の矛盾について解説した。
こども家庭庁、「国民運動」を22日にスタート
こども家庭庁は7月18日、子どもや育児中の家庭を応援する「国民運動」を22日から本格的に開始すると発表した。小倉將信こども政策担当大臣やタレントらが出席するイベントを皮切りに、優れた取り組みの表彰などを行い、社会全体で子育てを支える機運を高める狙い。
飯田)岸田政権が掲げる「次元の異なる少子化対策」の一環だそうです。
どこかの広告代理店が考えたようなキャンペーンばかりの「次元の異なる少子化対策」
佐々木)とてもキャンペーン的なのですよね。目玉にしている「家族留学」は、若者が子育て中の家庭を訪問し、育児の経験談を聞くというような内容です。
飯田)育児の体験談を聞く。
佐々木)やってもいいけれど、「これが少子化対策です」と言われても、「何だろうな」と思ってしまいます。
飯田)そうですよね。
佐々木)いままでやったものは「こどもファスト・トラック」と言って、美術館や博物館などに子どもを連れていくと、優先的に別の入り口から入場できるというものです。
飯田)子連れ優先で。
佐々木)別にいいのだけれど、それを「少子化対策です」と言われても、「微妙にずれているな」と感じます。他にはJリーグとコラボして、子どもたちを試合に招待するという話など。
飯田)「こどもファスト・トラック」であれば、飛行機会社は既にみんなやっているではないかと。
佐々木)そうですよね。優先搭乗がありますから。
飯田)「子どもファーストな会社だな」と思うか? という話ですよね。
佐々木)「予算が5兆円もある割には、たいしたことを行っていないな」と思います。どこかの広告代理店が考えたかのような、キャンペーン的なアイデアで啓発するということでしょうが、「啓発でいいのか」という感じがするのです。
議論は2つ ~経済的困難から結婚できず、子どもも産めない人の経済的支援をどうするのか
佐々木)少子化が進み、子どもが減っていることに対する危機感は、日本人のほぼ全員が持っているわけです。
飯田)ほとんどが持っています。
佐々木)そこで、どうやって子どもを増やすのか。議論としては2つあって、1つは、そもそも結婚できない人が増えているということです。
飯田)結婚できない人が。
佐々木)非正規雇用などで年収200万円に満たないような、経済的に困難な人たちがいる。その人たちは当然、結婚できないし子どもも産めません。その「経済的な支援をどうするのか」という議論が1つ。
保育園がない、近くに親がいなくて子育てに自信がない夫婦を地域や自治体がどう支援するか
佐々木)もう1つは、結婚しているけれど、保育園に入れないから子どもを持つのが難しい。あるいは、近くに親がいないから子育てに自信がない。そういう人々に対して、「地域や自治体がどう支援していくか」という2本立てなのです。
結婚できない人たちへの支援が抜けている
佐々木)もちろん両方やらなければいけませんが、いまの岸田内閣が掲げる異次元の少子化対策を見ていると、後者の「結婚している夫婦に対してどう子どもをつくらせるか」という方向に偏っている感じがするのです。
飯田)後者に。
佐々木)それはもちろん大事ですし、やらなければいけないけれど、前者の結婚できない人たちの支援という観点が抜け落ち過ぎている、という懸念がまず1つあると思います。
少子化は世界的な傾向 ~アメリカの出生率が高いのは移民の影響
佐々木)もう1つのポイントとして、そうは言っても、そもそも世界的に少子化が進んでいます。近代化や工業化、都市化が進んだ国では、女性がみんな自立して生きるようになる。
飯田)都市化が進んだ国では。
佐々木)日本でもそうだけれど、例えば30代で働いており、「ここで子どもをつくったら自分のキャリアが壊れてしまう」と考えている女性がたくさんいる。なおかつ、結婚しなくても1人で生きていけると考えたときに、「子どもを持つ」というモチベーションがどの国でも下がっている傾向は、間違いなくあるわけです。
飯田)「先進国の出生率は北欧を見習え」などと言いますが、その北欧でも出生率が1.5と減少傾向になっています。
佐々木)フィンランドでも日本より低いという状況になってきているわけです。結局、ヨーロッパの出生率が高いと考えられていたのは、「移民が影響していた」と言われている。
飯田)移民が入っていたから。
佐々木)アメリカは相変わらず高いのですが、メキシコや南米から相当な移民が流入しているからだと。しかし、移民を流入すればいいかと言うと、それはまた別の議論になります。
飯田)そうですね。
佐々木)ヨーロッパのような混乱した状況になるのはどうなのか、という議論も出てくる。
少子化対策をしながら、同時に少子化を受け入れる体制を整える
佐々木)ある程度の少子化は仕方がないと、甘んじて受け入れる一面もどこかで必要なのではないでしょうか。「少子化対策をしながら、同時に少子化を受け入れる体制を整える」という2つの作戦で進めた方がいいと思います。
飯田)社会の構造変化の部分。自動化などですか?
佐々木)「AIやロボットが出てきたら仕事を奪われる」などと言うではないですか。でも「仕事を奪われる」と言う一方で、脈絡なく「働く人が減っていくのが問題だ」と言っているわけです。仕事を奪われる人がいて、働く人が減っていくのなら、「ちょうど辻褄が合うではないか」という考え方もできます。
飯田)確かに。
佐々木)ただ、問題はいわゆる高度な仕事だけが残っていくことです。となると現状、高度ではない仕事をしている人たちがリスキリングし、そちらに移らなければいけない。そうなると、うまくマッチングできるかどうかという問題が解決しないので、「人が減っていく」ということと、「仕事が奪われる」ことの両方とも問題になってしまうのです。
「人の減少」と「仕事が奪われる」ということをどう埋めるか ~そこを設計していけば人口が減少しても経済規模を維持できる
佐々木)そこをどうやって埋めるのか、きちんと設計していけば、少子化でもそれほど問題ないと思います。健康年齢は年々、高くなっていますから。
飯田)そうですね。
佐々木)70年代くらいまでは55歳定年制という時代もありましたが、いまは70歳になっても働けます。高齢者も働くことを考えるようにすれば、ある程度は人口減の世界、日本の人口が8000万~9000万人になったとしても、経済規模を維持できる可能性があります。
「子どもを育てましょう」と言いながら増税して経済が苦しくなる ~その矛盾に気付かないのだろうか
飯田)流動性を高めることで、ある程度の収入が確保されれば、今度は「結婚する、しない」という選択のときも、「経済面では大丈夫だ」ということになる。
佐々木)そういうグランドデザインを考えて欲しいですね。これからの日本における人口減の社会で、少子化対策を行いながら、「そうではない観点からも国民的議論を活性化させるようなこと」を、こども家庭庁にはやっていただきたい。子どものいる家庭に若者が話を聞きにいくというような、よくわからない方法ではなく、「もっと根本的な議論をして欲しい」と思います。
飯田)結婚しているカップルの出生率や、子どもを持つ、持たないという選択の確率は、それほど変わっていないと言われます。「経済的な理由で結婚できない」と考えてしまっているところを、「どう変えるのか」が大事ですね。
佐々木)そうですね。
飯田)子育てに関する政策についても「社会保険料を上げます」というような方向で、「かえって苦しくなるのか」という。しかも現役世代だけが苦しくなるのかと。
佐々木)こども家庭庁が「子どもを育てましょう」と発信する一方で、増税により経済が苦しくなっている。岸田さんには「それが矛盾していることだと頭のなかで気付かないのですか?」と言いたいですね。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。