元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が7月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。衆院議員会館で行われた岸田総理と菅前総理の会談について解説した。
岸田総理が菅氏と会談
岸田総理大臣は7月20日、自民党の菅前総理大臣と衆院議員会館の菅氏の事務所で、約40分間会談した。総理は記者団から内閣改造・党役員人事について相談したのかと問われ、「何も話していない。外交、内政、秋に向け、さまざまな政治課題で意見交換を行い、アドバイスをいただいた」と述べた。
飯田)両者が1対1で会うのは3月30日以来となります。通常国会の会期末解散がなくなり、いろいろなニュースが出てきますね。
わざわざ記者たちに見せるために衆院議員会館で会談を行った
松井)これは記者たちに見せるために、わざわざ会っているのです。
飯田)そうですよね。
松井)以前の自民党の常識では、こういう場合は料亭で食事をしていました。「首相動静」を見ると、昨日(7月20日)は赤坂の「赤坂浅田」に行っています。
飯田)「国民生活産業・消費者団体連合会の小川賢太郎会長と食事」と書かれています。
批判的な人々へのある種の目配り
松井)普通はそういうところでご飯を食べながら行うものです。しかし、料亭政治的なものを叩かれたから、「また浅田へ行くのもどうか」ということで、議員会館で実施したのかも知れません。岸田さんはこういう日程を組んで、いまは自分に対してある種、批判的な方々にもしっかり目配りしている。そのためでしょうね。
飯田)菅前総理との会談は。
松井)内閣改造・党役員人事について話をしないわけではありません。いい関係を見せようと配慮しているわけだから。政策課題ではなく、政局そのものだと思います。
飯田)そうですよね。記者団に直球で聞かれても、「そうだ」とは答えられないですし。でもニュアンスとして外交・内政と書いてあれば、それはそうだということになりますよね。
今後、20年間の道しるべになるような、中長期的な日本の課題をつくるべき
松井)菅さんは非常にプラクティカルな人ですから、上手に使った方がいいと思います。岸田さんはもう少し、ビジョナリーなことを考えるべきではないでしょうか。宏池会の派閥もやめていないのです。
飯田)派閥会長のままですものね。
松井)それもどうかと思いますが、意外と権力には執着があるわけです。
飯田)いままでの総理大臣は、派閥の会長はやめるのが通例でした。
松井)それで今回のように、菅前総理にもしっかりと会う。そういうことについては非常に熱心なのです。自分がビジョナリーなことを本当にやりたいのなら、中長期的な日本の課題……今後、20年間の道しるべになるようなものをあぶり出しておくべきです。
飯田)道しるべになるようなものを。
松井)菅さんのような人の力を借りて、うまいコンビネーションをつくっていただきたいですね。単に自民党内の権力争いのなかでということではなく。そこを岸田さんには期待したいです。
何のための選挙か ~自民党の議席を減らさないための選挙は評価できない
飯田)解散風が吹いて止み、最近は支部長を決めるという報道も出てきて、「選挙も近いのか」というような話ばかりになっていますね。
松井)なぜこうも煽るのか、よくわからないのですけれど。確かにやるとしたら、もう少し早いタイミングしかなかったので、それを逃してしまったのではないかなと思います。
飯田)解散のタイミングを。
松井)「何のための選挙か」ということです。自分たちの議席を減らさないための選挙をやられても、私は評価しません。
飯田)自民党の議席を減らさないための。
松井)安倍さんはそういうところがありました。勝てるタイミングで野党を潰してきたという。安倍さんの長い任期のなかで、本当は後半にもう少しやっていただくべきことがあったけれど、若干、戦術的な選挙によってできなかった。
大平研究会 ~未だに宝石箱のような研究会
松井)それが戦術の前で色褪せてしまったように思うのです。そういう意味では、「何のためにやっているのか」というときに、岸田さんは大平元首相的なものをもう1回仕込むことを、ミッションとして捉え直していただきたいと思います。
飯田)通称「大平研究会」と呼ばれるもの。よく言われるのは「田園都市構想」で、これを岸田さんが「デジタル田園都市国家構想」に引き、再注目されました。あの研究会が扱かったものは、それだけに留まらないですよね。
松井)全然違います。例えば「環太平洋連帯構想」は、のちの「アジア太平洋経済協力(APEC)」に関連して、日本が主導してつくった。1989年にそれが立ち上がったとき、日本は大きな役割を果たしているのです。
飯田)APEC。
松井)大来佐武郎さんなど、いろいろな論客がいらっしゃいました。官僚たちにもそういう人脈があったのです。環太平洋連帯構想は大平研究会で発足し、それがAPECにつながっているのです。
飯田)当時だと、政府開発援助(ODA)主体ではない形で何かできないかということですか?
松井)福田赳夫さんは、「福田ドクトリン」という東南アジア諸国連合(ASEAN)政策のようなものを出しましたが、あの研究会からはグローバルな枠組みがつくられているのです。
飯田)グローバルな枠組み。
松井)あの研究会では、例えば「文化の時代の経済運営をどうしていくか」というような提案もしているけれど、未だにできていません。
飯田)それはコンテンツ戦略などにもつながってくる話ですか?
松井)いまで言う家庭のあり方や多様性のようなものを、どう日本の経済社会のなかに入れ込むのか、というような話です。実は未だに宝箱のような研究会なのです。
9つの分科会でレポートを作成
飯田)原石のようなものがたくさんある。
松井)200人のオピニオンリーダーを集め、9つの分科会でレポートをつくっています。細かい字で800ページあります。当時の若手の気鋭の方々、いまで言うと大御所のような先生方がここに入っています。
飯田)このなかにSF作家の小松左京さんがいらっしゃったのですよね。
松井)建築家の黒川紀章さんや、山崎正和先生、公文先生、佐藤誠三郎先生など、いろいろな方が関わっておられます。
飯田)そうなのですね。
松井)単に抽象的な絵空事ではなく、全部が政策に落とし込まれていくような種をつくって、現にいくつかは実を結び花開いているのです。しかし、結果として報告の大部分を受け取ったのは、大平首相のあとの伊東正義官房長官(当時)などが代理で受け取っています。結局、大平首相自身は……。
飯田)成果物を見ることはできず。
松井)全体は見られずに亡くなってしまったのですが、そのあとの人たちが受け継いでいる。だから岸田総理には、そういうものをいまやって欲しいのです。
野党につくって欲しいもの
松井)逆に言うと野党は、今後20年を見通して「我々の政権になったら、こういうことをやろうではないか」と考えて欲しい。例えば、人口減少社会のなかで、日本がどう国を開くのかなど。
飯田)野党には。
松井)おそらく保守の人たちは、なかなか国は開けない。それに対して、国を開いたときに「どうやって日本は日本を保つのか」というような議論をして欲しいですね。なし崩しに国が開かれ、日本が日本でなくなるということは、絶対に避けなければいけません。
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