双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が7月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。欧州中央銀行が決定した0.25%の政策金利の引き上げについて解説した。
欧州中央銀行が0.25%の追加利上げ
欧州中央銀行(ECB)は7月27日、金融政策を議論する定例理事会を開き、政策金利を0.25%引き上げると決めた。利上げは2022年7月から9会合連続。ラガルド総裁は理事会後の会見で「物価上昇率は低下し続けているが、まだ高すぎる水準が長く続くと予想される」と述べ、引き締めの効果を慎重に見極める意向を示した。
飯田)ヨーロッパはやむにやまれずの利上げでしょうか?
吉崎)アメリカはあと1回あるかないかという感じですが、ヨーロッパは9月にも上げてくるでしょう。なかなかインフレが止まらない状況ですので、アメリカはそろそろ気を抜き始めたけれど、ヨーロッパはまだまだ気が抜けない。そして日本はと言うと、「まだ緩めていて大丈夫なのか?」という感じです。
飯田)三者三様ですね。ヨーロッパの物価上昇は、ブレーキを踏んでも踏んでも止まらない傾向ですか?
吉崎)止まらない感じです。もっと酷いのはイギリスで、年末ぐらいまで利上げが続く可能性もあります。
飯田)そんなにですか?
吉崎)やはりブレグジットが失敗だったのではないでしょうか。労働者が外から入ってきてくれないので、値上がりが止まらないのです。
飯田)人が集まらないから賃金を上げなくてはならない。それが価格に影響してくる。
コロナ禍前の労働者が戻らず、世界的に賃上げに
吉崎)いまは世界的な賃上げ傾向ですよね。本来ならコロナ禍前に働いていた人たちが、もっと労働市場に戻ってきて欲しいけれど、そうはなっていないという問題があります。
飯田)戻らない。
吉崎)日本でもよく聞くところでは、タクシー運転手さんも昔の人たちが戻ってきてくれないから、どうしても人繰りが大変だという話です。
飯田)別の業種に就いてしまった、あるいは引退してしまったということですか?
吉崎)家族が反対するそうです。本人はもう少しやってもいいかなと思っているけれど、「おじいちゃん、もういいでしょう」と言われると、気が引けてそのまま辞めてしまう。
飯田)なるほど。
吉崎)いろいろなケースがあると思います。コロナ禍が明けて4年ぶりに普通の夏が戻ってきたけれど、「では昔のようになれるか」と言うと、「すぐには変われない」というのが世界の現状だと思います。
働き手が集まらず、手荷物検査前で待つ人が渋滞するアメリカの空港
飯田)アメリカは雇用の流動性があるから、何かあったときでも人がたくさん集まると言われていましたが、同じように人手不足になっているのですね。
吉崎)今年(2023)の2月に1週間だけ、アメリカの様子を見に行ってきたのです。そのときに驚いたのは空港の混雑です。空港のセキュリティチェック前が、ミニマム40分の行列でした。
飯田)手荷物検査をするところですね。
吉崎)「米国運輸保安局(TSA)」と言うのですが、要は手荷物検査を行うところで渋滞するのです。ワシントンの空港でしたが、そこに「TSAであなたのキャリアを始めませんか?」という大きい看板がありました。
飯田)求人広告ですか?
吉崎)求人広告です。確かにTSAと言うと、少しパブリックな感じもあるから、最初のジョブとして聞こえは悪くない。ただ、それでも全然、人が集まっていないのです。
飯田)人がいないから、人を捌けなくなっているのですね。
吉崎)一方、コロナが明けたので旅行に行きたい人はたくさんいる。私もとにかくコロナが明けて、ひと目でいいからアメリカを見てこようと思って行ったわけですから、このギャップの激しさですよね。その渋滞を見て、やはりデータではなく、実際に体験した方がはるかによくわかるなと思いました。
賃金を上げても集まらない
飯田)賃金を上げても、そもそも人がいないから集まらないということですか?
吉崎)いま、日本でもそういうところはありますよね。地方に行くとタクシーがいない。ホテルの前に1台もいない場合もあります。
飯田)日本も価格に転嫁できるようになってきたと言えば、なってきたのですが、やはりここまでいってしまうと少しまずい。
「利上げはもう1回あるが、いつになるかはわからない」パウエル米FRB議長
飯田)アメリカに関しては、うまいこと着地できるようになってきましたか?
吉崎)それが、昨日(27日)の連邦公開市場委員会(FOMC)を見ると、マーケットは「これで利上げは終わりだろう? 本当はそうではないのか?」と睨むのだけれど、パウエルさんは「いやいや、まだあと1回はあるのだ」と。しかし、「それがいつになるかはまだわからない」という、お互いのせめぎ合いなのです。
飯田)せめぎ合い。
吉崎)マーケットの方としては、「これはいい展開だな。買っておいてよかった」という感じですよね。
飯田)記者会見を見ていても、「言わせよう言わせよう」という記者に対して、「いやいや、まだデータを見てやります」というような感じで。
吉崎)記者の方も攻め方がうまくて、「テイラー・スウィフトのコンサートがすごい人出ですけれど」などと言うのですよ。
飯田)「なんだその話か」と油断させておいて。
吉崎)確かにそうなのですよね。見かけは「景気がいいな」という印象なので、明るいです。
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