ジャーナリストの須田慎一郎が7月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。長期金利の変動幅を柔軟化した日銀の金利操作の運用について解説した。
日銀が長期金利の変動幅の運用を柔軟化、0.5%の上限超えを容認
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日本銀行は7月27日~28日の金融政策決定会合で金利操作の運用を見直し、これまで0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限について、市場の動向に応じて0.5%を一定程度超えても容認する運用を行うことを決めた。
異次元の金融緩和策の出口戦略 ~長期金利に関して、操作ができるものではない
飯田)運用の見直しが行われ、28日辺りは為替・株が振れました。為替は現在、足元1ドル=141円20銭付近ですが、28日の取引時間中は一時、137円台ぐらいまでの円高水準になりました。どういう狙いがあるのでしょうか?
須田)異次元の金融緩和策の出口戦略ですね。出口を探りつつあることが1点。
金融緩和策を徐々に止めていく
須田)もう1つは「長期金利に関して、何らかの操作ができるものではない」というのが植田日銀総裁のかねてからの持論なのです。コントロールできないのだから、やるべきではないという考え方なのでしょう。
飯田)やるべきではないと。
須田)いまは異常な状況にあるから、いきなり止めてしまうと大きな動揺や痛みを伴うので、徐々に止めていこうということです。
飯田)徐々に止めていく。
須田)そもそも国債などの債券は、償還までの期間が長いと金利が高くなり、償還までの期間が短いと金利が低くなります。そういうところで、連続的に綺麗な形でカーブを描いていくのですよ。
イールドカーブをコントロールしていくのがこれまでの政策 ~金利を上昇させていこうというのがここへきての動き
須田)きちんとした綺麗な形のカーブである方が、金融政策あるいは金融市場にとってはいい状況なのです。それが入り組んでいたり、大きく上下に振れたりすると金融市場が混乱するので、いかに綺麗な曲線を描くかが求められていた。金利全体を押し下げていくのと同時に、イールドカーブをコントロールしていくというのがこれまでの政策だったわけです。
飯田)これまでの政策。
須田)しかし、10年ものの国債を中心に、少しずつ他の利回りも念頭に置きながら立てていく。つまり「金利を上昇させていこう」というのが、ここにきての動きです。果たしてそれができるのかというところですね。
日本の場合、欧米と違い、供給能力より需要が少ないなかでの悪きインフレ ~その一方で日米金利差の拡大などで為替レートなどが振れるため、そこは金利調整する必要がある
飯田)欧米などは利上げを行い、日本も物価が徐々に上がってきている状況で、「緩和を続けているとそろそろ苦しくなってくる」という判断だったのですか?
須田)インフレと言っても欧米のインフレとは違い、供給能力よりも需要が少ないなかでのインフレ。つまり悪いインフレなのですよ。
飯田)日本の場合は。
須田)原材料価格やエネルギー価格の高騰が関係しています。欧米の場合、その部分もないわけではないけれど、概ね供給能力を需要が上回っている形の物価上昇。つまり、よいインフレなのです。景気がいいなかで物価上昇しているわけですから。
飯田)欧米の場合はよいインフレ。
須田)それを分けて考えないといけない。ただし、一方では日米金利差の拡大などで、やはり為替レートなどが振れたりしますから、そこは金利調整していく必要があると思います。
飯田)日銀もかねてから、日本のインフレ率は欧米とは違うという話もしていたし、見通しも出てきました。この先はエネルギー価格などが落ち着けば、物価上昇もマイルドになっていくという話をしていました。
須田)ただ、一方で供給能力と需要のギャップがどのくらいあるかと言うと、日銀の試算によれば、年間10兆円なのです。かつては30兆円~40兆円と、かなり大きなギャップがあったのですが、埋まりつつある。
需要が供給を上回った場合でもインフレを抑制するような体制づくりが必要
須田)そこはアベノミクスによって埋まりつつあるのだけれど、もう10兆円ですから、それを上回ってしまうと、欧米並みの需要超過による物価上昇に入っていってしまうのです。
飯田)そうなりますね。
須田)ですから、この辺りでいろいろと金利を調整し、言ってみれば需要が供給を上回った場合でも、インフレを抑制するような体制づくりが必要になってくると思います。
年間2%程度のマイルドな物価上昇が求められる ~3~4%の気配が出てきているので少しブレーキを掛けている
飯田)いままでは金利を低く抑えてきた。それによって、お金を借りやすくして設備投資を行うなど、経済を回すことに使えると言われてきましたが、ここで上限を超えることを容認する。結果的に、市中でも金利が少しずつ上がっていく形になりますよね。
須田)需要はいきなり落ちませんよ。落ちないけれども、需要が拡大するスピードに少しブレーキを掛けていかないと、一気に物価上昇になってしまう可能性もあります。それはまた経済にとって好ましくありませんから、年間2%程度のマイルドな物価上昇が求められているわけです。
飯田)年間2%程度の。
須田)3%~4%になるのは容認できないため、その気配が出てきているところで、少しブレーキを掛けているのだと思います。
アフターコロナになり、個人消費が拡大 ~一気に拡大しないように少し「利上げ」に入っていくか
飯田)実体経済への影響は出てきそうですか?
須田)いま、デフレ基調であることは間違いないわけです。
飯田)まだまだ。
須田)ただ、それは一気に突破していきます。どうしてかと言うと、一方では強制貯蓄、いわゆるコロナショックさえなければ本来使われていたお金が、数十兆円規模であるのです。これがアフターコロナにシフトした段階で消費に向かっています。個人消費が拡大しているではないですか。
飯田)そうですね。
須田)それが一気に拡大していかないよう、「少し利上げ」という段階に入っているのではないかと思いますね。
一気にインフレ率が上がらないよう少しずつブレーキを掛ける ~微妙なコントロールを求められる難しい局面
飯田)これから先はフェーズが変わり、インフレで今後は「賃金も上がる」という、いい循環になるための準備なのですか?
須田)いい循環に入ればいいのですが、インフレはなかなかコントロールできないではないですか。
飯田)アメリカを見ても、最盛期は9%上昇というような感じでした。
須田)一気にインフレ率が上がっていかないように、少しずつブレーキを掛けつつある状況でしょうね。
飯田)ただ、ブレーキを掛けすぎると、またデフレに戻ってしまいますよね?
須田)そうですね。微妙なコントロールが求められている、相当難しい局面だと思います。
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