自動車市場、中国で何が起きているのか?(前編)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第333回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、中国の自動車市場で起きていることについて---

BYDの電気自動車「シール」(2023年1月 東京オートサロンで撮影)

画像を見る(全3枚) BYDの電気自動車「シール」(2023年1月 東京オートサロンで撮影)

暑中お見舞い申し上げます。特に今年(2023年)は日本のみならず、世界的な猛暑となっているようです。地球上では何かが変わりつつあるのでしょうか? 熱中症にはお気をつけ下さい。

さて、今回のテーマは自動車です。財務省から発表された2023年6月の貿易統計によりますと、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は430億円の黒字となりました。実に1年11ヵ月ぶりの黒字です。一因としては、半導体不足が一服し、自動車を中心に輸出が伸びたことが挙げられます。

また、春先に発表された国内自動車7社の年度決算では、売上高は全社増収となりました。原材料価格の高騰が依然響いていますが、円安が利益に寄与しているようです。

こうした数字を見ていますと、日本の自動車業界は新型コロナ以降、さまざまな出来事から一服、業績は堅調なように見えます。

一方で、こうした業績とは別に、ちょっと気になる動きもありました。それは中国の動向です。決算発表では自動車各社が一様に危機感を示していました。

「上海モーターショーに行ったときに、正直驚きを隠せない部分がたくさんあった。特にバッテリーEV等の電動化が進んでいるということの競争よりも、それがある意味当たり前になった上での差別化の要素として、知能化といった部分の競争が非常に活発に行われているという印象を持った」(トヨタ自動車・中嶋祐樹副社長)

「中国を訪れた際に、現在起きている変化のスピードは、私たちの想定をはるかに上回っていることを肌で感じた。これまでのプロセスや手法から脱却し、機動性ある事業構造に転換していく必要がある」(日産自動車・内田誠社長)

「非常に厳しい戦いだった。私たちの想定以上に新エネルギー車、NEVへのシフトが進んだ。内燃機関の価格競争も進んできた」(マツダ・青山裕大専務)

さらに、先月(7月)の第1四半期の決算発表で、三菱自動車の加藤隆雄社長からこんな声が挙がりました。

「確かに厳しい状況。EVが中国全土で見た場合、生産台数がかなり過剰になってきている。あらゆるところで値引き合戦がかなり広がってきている。ビジネス環境としてはよくない」

はたして中国から見ると、日本の自動車市場、世界の自動車産業はどのように見えるのでしょうか……今回はこうした視点で掘り下げていきます。中国情勢に詳しいジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰さんに聞きますと、なるほど、そこからは日本国内とは全く違う景色が見えてきます。

「これまでもEVになったら中国メーカーが強いということが言われていたが、いよいよそれが数字に出てきた。上海モーターショーもブースを見ると、圧倒的にBYDのブースに人が集まった。日本勢の存在感がすごく薄まっている」

「全体に走っている車のなかではEVが目立っているわけではないが、新規の売り上げのなかでも半分以上がEV 。圧倒的だ。(中国製の)最新型はデザイン性も含めて、欧米の自動車メーカーも危機感を持っている。特に値段、(高級車ではなく)身近な車のところで今回、BYDが出してきたのは競争力がある」

トヨタ自動車年度決算発表(2023年5月10日撮影)

トヨタ自動車年度決算発表(2023年5月10日撮影)

中国ではEV=電気自動車のみならず、PHEV=プラグインハイブリッドも人気。EVやPHEVは、中国では「NEV=新エネルギー車」と呼ばれますが、それらを支えるインフラや自動運転技術も長足の進歩を遂げているようです。

「充電のスピードがどんどん上がってきている。太陽光パネルが敷いてある高速道路がある。速度は落とすが、走りながら充電もできる。駐車場では停めているだけで充電できることが標準的になっている。電気がなくなって走れなくなることは、よほど田舎に行かなければ起きないという状況。加速度的に電気自動車が増えていく……」

「知能化についても、完全自動運転化と言えるかは別にして、実際に運転手のいないタクシーが走っている。いまの段階では実験的で、商業ベースに乗っているかと言うとちょっと難しいが……スマホと連動しており、(タクシーを)呼ぶと番号が送られてくる。乗るところの取っ手に番号を入力する場所があり、番号を入力すると扉が開く。決済もできる」

富坂さんは4月に中国を訪れた際、多くの人が買い物に手ぶらで来て、顔認証で出てくる姿を見て驚いたと言います。こうした現象は、自動車メーカー幹部の発言とぴったり符合しているのです。なぜ、ここまでの発展を遂げているのでしょうか。

「飛躍の理由は2つ。過当競争になって勝ち残った猛者が中国のEV市場をつくっている。もう1つは、中国政府が音頭を取ってこれを育てている。ガソリンエンジンではもう何十年経っても日本に勝てないという見極めを、1990年ぐらいにしている。次に電気自動車が来るかはわからないが、来るなら電気自動車で巻き返していこうという戦略があった」

さらに欧州メーカーとのタッグも強みだと、富坂さんは分析します。

「欧州が環境に対して厳しい目を持ち、中国市場に新しい競争を仕掛けた。それがいわゆるEV化。このEV化の波と中国の利害が一致した」

外資との合弁ではない、国内のメーカーが力をつけ、政策面では新エネルギー車への補助金も寄与します。一方、原料の調達でも、中国は先手を打っていることがうかがえます。

「もう少し“川上”に上っていくと、電池に必要な金属、発電に必要な金属、レアアースは有名だが、圧倒的に強い。ものすごく早くからEV化を見越して南米に出て行ったり、アフリカに出て行ったり、国内でも開発したり……鉱物を使った実験もいろいろやっている。そういう研究がいろいろなメーカーに下りていっているという部分もある」(富坂さん)

いわゆる「権益」の部分でも、中国がすでにがっちり押さえていると言うのです。

富士経済の最新調査では、EVの乗用車の世界販売は2022年の705万台から、2035年には8.2倍の5774万台に増加すると予測しています。その36%、2061万台は、中国が占めるとされています。

こうしてみますと、違う景色というより、日本からは肝心なことが見えていないのではないか……そのようにも感じます。その理由、中国から見た日本市場、今後の自動車市場などについては次回に譲ります。(了)

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