ゼレンスキー大統領が「ロシア国内への攻撃増加」を示唆する「背景」
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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が8月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ・ゼレンスキー大統領がロシア国内への攻撃増加を示唆した動画での声明について解説した。
ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア国内への攻撃増加を示唆
ウクライナのゼレンスキー大統領は、7月30日の動画による声明で「戦争は徐々にロシアの領土に戻りつつある」と述べ、ロシア国内への攻撃が今後増えることを示唆した。
飯田)モスクワでも金融街にドローンでの攻撃があるなど、さまざま報道されています。これまではロシアに対する攻撃を止めていたと思うのですが、いかがでしょうか?
兼原)ウクライナのなかだけで戦うというのは、ウクライナにとっては可哀想ですよね。しかし、ロシアに踏み込んでいくと、核を使うなどいろいろな話が出てきますので、アメリカが怖がってさせてくれませんでした。これもシンボリックな攻撃です。
飯田)シンボリック。
兼原)先の戦争で日本が真珠湾攻撃をしたあと、直後に「ドーリットル空襲」がありました。首都を攻撃され、日本軍は腰を抜かしたのです。敵の首都の真ん中への攻撃は心理的な効果があります。
飯田)心理的な。
兼原)しかし、それだけでは戦争は終わりませんので、現場で勝たなければなりません。
膠着する地上戦を突破するにはクラスター弾やF16戦闘機などの飛び道具が必要 ~勝負に出て失敗できないので「どこでやるか」が問題
飯田)ウクライナの反転攻勢ですが、徐々に、特に南部戦線は打開してきていると報じられていますね。
兼原)陸上での戦闘は、向かい合うと5センチも動きません。塹壕を掘り、地雷を広範囲に撒き、道路にはセメントの塊をたくさん置くので、お互い1センチも動けなくなってしまいます。ラグビーのスクラムや、相撲の水入りのような感じです。どこかで上手投げなどの決め技を仕掛けなければなりません。それをどこでやるかです。ここでクラスター弾やF16戦闘機の出番なのです。
飯田)飛び道具ですね。
兼原)しかし、勝負をかけて失敗したら終わりですので、どこでやるかだと思います。
南を攻め、クリミアまで行きたいウクライナ軍 ~阻止するために北側に兵力を集めるロシア
飯田)タイミングや攻撃しやすい場所などを探っているところでしょうか?
兼原)南に降りてクリミアまで行ってしまうとロシアは困りますので、いま、ロシアは北側に兵力を何十万人も集めていると言われています。北側に集めると南に降りられなくなるでしょう。
飯田)そうですね。
兼原)ウクライナ軍としては、南に一気に降りていきたいと思うのです。そこでのせめぎ合いがあるのだと思います。
大統領選挙までにウクライナを勝利させたいバイデン大統領
飯田)こうなると、膠着状態がかなり長く続くと考えた方がいいのでしょうか?
兼原)放って置くと長く続くと思いますので、どこかで勝負するのでしょう。バイデン大統領は来年(2024年)、ウクライナが負けて選挙に入るわけにはいきません。
飯田)大統領選挙に。
兼原)そのためにも勝たせた形にしておかなければいけない。そう考えると、今年か来年で終わるのではないでしょうか。
飯田)アメリカや西側各国も。
兼原)ただ、ウクライナは何回も勝負できませんので、1回大勝負をかけて失敗したらおしまいです。そこはよく考えて実行するのだと思いますが。
クリミアだけは死守したいプーチン大統領
飯田)プーチン氏はどのように考えているのでしょうか? 組み合っていれば、力で押せると考えているのですか?
兼原)ロシアはザポリージャとヘルソンを獲り返されてしまうかも知れません。あとはクリミアとドンバスが残ります。クリミアは孤立する可能性があるので、これを獲られたらプーチン氏は大恥をかくわけです。だから「絶対にクリミアは獲らせない」と思っているでしょうね。
飯田)クリミアは。
兼原)そのためダムを壊したり、ザポリージャ原発に爆弾を持ち込んだりして、「こっちに来るな」と示しているわけです。
「ウクライナ和平会議」 ~ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、サウジが和平についての国際会議を開催
飯田)サウジアラビアが主導する「ウクライナ和平会議」の開催が報道されています。西側諸国とウクライナも招待されるということですが、ここで何か変わることはあるのでしょうか?
兼原)誰が間に入るかだと思います。間に入れそうなのは、トルコのエルドアン大統領とフランスのマクロン大統領なのですが、彼らは北大西洋条約機構(NATO)の一員です。中国ではロシアに近すぎるので、サウジが手を挙げたのだと思います。
飯田)誰が間に入るか。
兼原)ロシアは世界の約3割の原油とガスを輸出する世界最大の資源国です。原油の世界ではサウジアラビアとアラブ首長国連邦が巨頭ですので、サウジアラビアが手を挙げるのはわからなくはないです。でも、うまくいくかと言うと、難しいのではないでしょうか。
飯田)この1回でうまくいくほど甘くはないということですね。
兼原)外交では「瓢箪から駒」が出る場合もあるので、わかりませんが。
「獲られたところを獲り返したら、和平」という考えのゼレンスキー大統領
兼原)ゼレンスキー大統領にすれば「勝負させてくれ」というところだと思います。勝負して失敗すれば、仕方ないので和平の方向へ進むと思いますが、いま「和平」と言っても、彼は受け付けないでしょう。自分の国が攻撃を受けているわけですから。
飯田)領土を獲られていますからね。
兼原)押し返して、「獲られたところを獲り返したら、和平」という考えだと思います。
ロシアがアフリカの首脳などを集めて開催した「ロシア・アフリカ首脳会議」 ~ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意からロシアが離脱したことに対する不満も
飯田)「ウクライナ和平会議」はグローバルサウスを集めて行われます。どちらに引き込むかというところですが、ロシアはロシアでアフリカの首脳が参加する国際会議を開きました。しかし、アフリカ側はロシアに対して冷たかったようですね。
兼原)これだけのことをしてしまうと、「あなたと一緒にしないでくれ」とみんな思いますよね。
飯田)ロシアは「君たちの穀物のために戦っているのだ」と言ったけれど、「あなたが穀物を止めているのだろう」と言い返されたようですね。
兼原)周りの貧しい国がウクライナの小麦を買っているわけです。マグレブや、アフリカの人たちです。
飯田)地中海沿岸の人たちなど。
兼原)あの辺りの方々にとっては、「止められてみんな困っているだろう。アメリカのせいだ」と言われても、「いや、あなたのせいでしょう」とみんな思うわけです。
飯田)「どう考えても君らのせいだろう」と。
兼原)国際世論を味方につけないと戦争は勝てません。
ウクライナの最初の動きは成功 ~反転攻勢するも守りが固いロシア
飯田)その辺りを考えると、ウクライナの初動の動きはよかったということでしょうか?
兼原)ウクライナが「自分たちは民主主義になりたい」と叫んで西側に飛び込み、「助けてくれ」としたのは上手だったと思います。
飯田)そうですね。
兼原)「ここでウクライナを見捨てたら、西側の名折れだ」というような流れになってしまいましたから。それでバイデン氏が入ってきて、小出しに武器を出してきた。
飯田)武器供与を。
兼原)「ロシアがエスカレートしてしまわないように」ということですが、ロシアは、ダムは壊すし原発に爆弾を持ち込むし、核兵器を持ち込むなど、どんどんエスカレートしています。
飯田)そうですね。
兼原)西側が一方的に自制しても、ウクライナが可哀想なだけです。どこかで勝負させてあげないといけません。そこで負けてしまったら仕方ないのですが。
飯田)そのときが近いという感じでしょうか?
兼原)もう勝負に出ると思います。半分出ていますから。でもロシアの守りが固いので、なかなか前に出られないのです。
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