ジャーナリストの佐々木俊尚が8月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2か月連続で下回った有効求人倍率について解説した。
6月の有効求人倍率1.30倍 ~2ヵ月連続で前月下回る
厚生労働省によると、仕事を求める人1人に対して何人分の求人があるかを示す有効求人倍率は、6月の全国平均で1.30倍となり、前の月を0.01ポイント下回った。2か月連続で前の月を下回り、厚生労働省は物価高の影響で生活を維持するため求職活動をする人が増えた影響が見られるとした。
飯田)一方で、総務省統計局が発表した6月の完全失業率は2.5%。前月よりも0.1ポイント改善しました。
求人は増えているが、求職する人がそれを上回っている ~物価高基調で大手企業の初任給は増加
佐々木)求人倍率が下がっていると、求人が減ったように見えるのですが、求人は増えているのです。それを上回る速度で求職する人も増えているという状況です。
飯田)求職する人が求人を上回っている。
佐々木)物価が上がってきていますが、もともとアベノミクスの時代からずっと狙ってきたリフレ政策がありました。結果的にウクライナ侵攻やエネルギー危機などが引き金となり、功を奏したと言っていいかはわかりませんが、物価高基調になってきている。
飯田)物価高に。
佐々木)それが賃金上昇につながることをみんな期待しており、新卒などは一気に初任給が上がっているので、確かに功を奏しているのです。
飯田)大手では上がっていますね。
佐々木)ただ、現在は途中段階です。全体の賃金をどこまで上げられるかとなると、いまのところ大企業を中心に初任給が上がっていますが、中小企業はそこまで上げられていません。
65歳~69歳の有業率が過半数を超える ~物価高で年金だけでは生活できない
佐々木)一方、物価が上がったせいで生活できない人も出てきています。厚生労働省によると、年金生活の人が物価高に対応するため、仕事を求める傾向にある。数日前の統計では、65歳~69歳の有業率がついに過半数を超えたという話です。普通は65歳ぐらいから年金を貰い始めて……。
飯田)リタイアする。
佐々木)リタイアするのですが、年金だけでは生活できないので、みんな仕事をするようになってきている。
飯田)その年代の方が。
佐々木)60代後半はまだ元気なので、お金のためだけではなく、仕事をして充実したいという人もいると思いますが、とにかく仕事を求める人が増えています。
時給1500円でスタートして1800円まで自動的に昇給するコストコの高時給求人 ~日本の中小もこれに倣うしかないのでは
佐々木)私の友人でも、飲食・旅館・ホテル経営をしている人などのFacebookを見ていると、みんな「募集してもまったく人が来ない」と悲鳴を上げています。
飯田)人が来ない。
佐々木)完全に人手が足りないのです。もちろん、ものすごく給料を上げれば来るのでしょうけれど、そこまで上げられない。外資系の大型スーパー「COSTCO(コストコ)」では、時給1500円からスタートして、基本的には1800円まで自動的に昇給するシステムになっています。
飯田)コストコでは。
佐々木)群馬のコストコ周辺で、地元経営者が「そんな時給は出せない」と悲鳴を上げているというニュースがありました。
飯田)地元の経営者が。
佐々木)しかし、これで「コストコけしからん」となってしまうと時給は安いままです。最低賃金が1000円を超えるという話ですが、1000円でいいのかどうか。(賃金が低いままだと)デフレ時代に逆戻りしかねないので、グローバル基準の1500円~1800円に食いついていくしかないと思います。
飯田)あとは、いままでだったら「8時間」で募集していたのを、もっと短い時間でいろいろな人に来てもらうなど、工夫が必要なのですかね。
佐々木)でも、短い時間だけ都合よく来てくれる人がいるのかという問題もあります。
人を入れて客を待たせないよう徹底的に回す大規模チェーン店と、客に待ってもらう小規模店に両極化する
佐々木)カレー店「エリックサウス」を営む有名料理人の稲田俊輔さんが先日、SNSで説明していて「なるほど」と思ったのですが、夫婦2人でやっているような小さなお店がありますよね。オフィス街にあるような飲食店。
飯田)ありますね。
佐々木)ランチタイムになるとすごく混んでいて、2人だと回し切れていないのです。「お昼だけでもアルバイトを雇ったらいいのに」などと怒る人がいるけれど、「そんなに都合よく人は来ない」と言っていました。「昼11時~13時の間だけ時給1000円で働いてください」と募集しても、そんな人はいないそうです。
飯田)そんなに都合よくはいかないと。
佐々木)徹底的に人を当てて店を回し、客を待たせない大規模チェーン店。一方では「2人でやっているのだから仕方がない。お客さんには待っていただく」という個人店。この2つに両極化していくのではないかと稲田さんが説明していて、「なるほどな」と思いました。
1000円に値上げして「現金のみ」にしたら会計が混まずに上手く回るケースも
飯田)省力化しようとしてQRコード決済などを取り入れるよりも、お釣りが出ないよう1000円に値上げし、現金のみで対応した方がよっぽど回るようになったという記事もありました。
佐々木)980円に設定していて、お釣りを返したり、QRコードを見せたりするのに時間が掛かって会計が滞っていたけれど、1000円に値上げして「現金のみ」にしたらスムーズに回るようになったという。意外に値上げした方が上手く回るケースもあるということです。
飯田)その分早く出てきたり、回転がよくなったりしてサービスが向上するという考え方もできるわけですよね。
佐々木)とにかく全体の賃金が上がらないと、デフレマインドからいつまでも脱却できません。「コストコけしからん。給料を出し過ぎだ」と言っていないで、とにかく上げていくということだと思いますよ。
求職活動する人が増えれば、当面の間、実質賃金は下がる ~「求職」「求人」「賃金」の3つのバランスを見なければならない
飯田)求職活動する人が増えると、当面の間ですが、実質賃金は下がるかも知れないですね。
佐々木)そういうことになります。実質賃金は働いている人全員で割るので、安い給料で働く人が増えれば減ります。いままで働いていない人が働き始めれば、安い給料でスタートするので、賃金全体が下がります。
飯田)そういうことですね。
佐々木)アベノミクスの効果で賃金が上がり始めたとき、実質賃金が下がったので、「賃金が下がり続けている!」と怒る人がたくさんいました。当時は「実質賃金についてわかっていないだろう」と反論されていたけれど、未だにそういうことを言う人はいます。「求職」「求人」「賃金」の3つのバランスがどうなっているか、常にきちんと見ていくことが大事だと思います。
専業主婦がパートに出れば世帯収入は増える
飯田)例えば、いままで専業主婦だった方がパートに出ると、世帯収入は増えるわけですよね。
佐々木)そうですね。
飯田)その部分を見なければいけないけれど、実質賃金を見ると下がっているから「政策が悪い」と考える人がいる。そうなると本末転倒です。
佐々木)そうなのですよね。全体のバランスを見ることが大事なのだと思います。
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