長期金利の上限を0.5%から事実上1%に引き上げた植田日銀総裁の「今後の狙い」

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが8月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカの7月の雇用統計について解説した。

長期金利の上限を0.5%から事実上1%に引き上げた植田日銀総裁の「今後の狙い」

金融政策決定会合に関して、会見する日本銀行の植田和男総裁=2023年7月28日午後、東京都中央区 写真提供:産経新聞社

米7月の雇用統計が前月より増加 ~利上げしながら雇用が伸びているのは堅調さを証明

飯田)8月4日に米労働省が7月の雇用統計を発表しました。市場の事前予測を少し下回ったと言われていますが、この先のアメリカ経済の動向をどう見たらいいでしょうか?

クラフト)いまのところ、大方の予想に反して堅調ではあります。これだけ利上げを行いながらも雇用が伸びているのは、堅調さを証明しているということです。

飯田)堅調である。

クラフト)今回の雇用統計が、9月の金融政策決定会合にどんな影響を及ぼすかが最大の焦点なのですが、市場は雇用数が予想よりも減ったことで、「打ち止めになるのではないか」という予測を立てています。

平均時給が高止まり、下がらない ~雇用だけではなく、賃金にも注目する必要がある

クラフト)ただ、私はそう簡単ではないと思います。金融政策にとって、より大事なのは賃金なのです。

飯田)賃金。

クラフト)今回の雇用統計の平均時給は、予想よりも上がっています。年率での平均時給の予想が4.2%だったのに対して、結果は4.4%でした。

飯田)0.2%上がった。

クラフト)この3~4ヵ月は平均時給が高止まりで、下がっていないのです。これを見ると、米当局はなかなか打ち止めできないのではないかと思います。さらに8月中のデータがいろいろ出ますので、まだここでは決定できませんが、ポイントは雇用だけでなく賃金にも注目する必要があるということです。

2024年3月には利下げを織り込む市場

飯田)米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、先日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で「あと2回行う」と発言しました。「この1回でおしまいではないか?」などと、記者にいろいろ聞かれていましたが。

クラフト)「データ次第」と言っていますからね。ただ、市場は楽観期待で「もう打ち止めにして欲しい」と。さらに言うと、私はおかしいと思うのですが、来年(2024年)の3月には利下げを織り込んでいるのです。

飯田)市場は。

クラフト)こんなに景気がよく「ノーランディング」と言われておきながら、利下げを織り込むのはあり得ない話です。相場はいいとこ取りしかしないところがありますね。

飯田)利下げの予測等々が出てくるのは、大統領選もあるからですか?

クラフト)大統領選もあるし、このまま利上げが続けば、景気も減速していくでしょうと。4月の時点で「今年(2023年)の夏には利下げするのではないか」という見通しがあったけれど、完全に払拭されて一時期、金利が上がりました。しかし、今度はまた利下げ観測が高まってきた。とにかく市場はいい方向、いい方向に期待しがちな部分がありますね。

日銀は長短金利操作の上限を0.5%から1%へ ~投機筋による過度な上昇は阻止する

飯田)先月(7月)末は中央銀行の意思決定会合ウィークでした。日本では長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化を決めましたが、どう見たらいいですか?

クラフト)柔軟化と言うよりも、事実上0.5%の上限を1%に上げました。ただ、今回違うのは、いままで0.5%にしか「指し値オペ」介入しなかったのですが、これからは情勢を見て1%以下、0.6%でも0.7%でも行われる可能性はあります。現にそうしているのですけれどね。

飯田)急激に動いたあと、3000億円くらい突っ込みましたね。

クラフト)植田総裁が会見で言っていたのは、景気のファンダメンタルズ(基礎的条件)を反映した長期金利の上昇はいいけれど、投機筋による過度な上昇は阻止するということです。見極めは大変なのですが、その都度、急激な金利上昇を抑えていく方針なのだと思います。

黒田前総裁の異次元緩和から従来型の緩和に移行する最初のステップ ~自由に相場が決めていくような体制で、中央銀行が長期金利の動きを操作しないような方向に持っていくのが理想

飯田)先日の発表のあと、週が明けたところでいきなり0.6%を超えてきたのは、いくら何でも早すぎるのではないかという見方だったのでしょうか?

クラフト)決定直後は、あまり相場が荒れるとよくないので、おそらく保険的な指し値オペを入れたのでしょう。今回の日銀の動きは、4月の時点から4月、6月といろいろなシグナルを出していて、大きなサプライズではありません。しかし、これを一括りでまとめると、黒田前総裁の異次元緩和から従来型の緩和に移行するための、最初のステップだと思います。

飯田)最初のステップ。

クラフト)積極的にマイナスからゼロ、ゼロから0.25%、0.5%と上げていくのではなく、異次元緩和、マイナス金利やYCC、ETFの購入などを少しずつ手仕舞いする。そして従来型の緩和にとりあえず持っていくというのが、植田総裁の目的ではないかと思います。

飯田)金利操作をするのではなく、量の部分で進めていく。

クラフト)将来的には、自由に相場が決めていくような体制で、中央銀行が長期金利の動きを操作しないような方向に持っていくのが理想だと思います。

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