NSBTシニア・ストラテジストの長島純が8月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。気候変動が与えるさまざまな影響について解説した。
7月の世界平均気温
欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は8月8日、7月の世界平均気温が16.95度となり、1940年からの観測史上、月平均で最高になったと発表した。気温は1991年~2020年の7月の平均より0.72度高く、平均海面水温も平年より0.51度上昇した。
飯田)長島さんは以前、安全保障の世界でも気候変動の影響がいろいろ出てくると言っていましたが、数字でも出てきましたね。
長島)気候変動によって生じる経済的な損失は、2030年までの20年間で約2.5倍になるという統計が出ています。さらに2050年までには、環境変化によってその土地に住めなくなり、他国へ移住する環境移民が約2億人になると言われています。
我々はアクセルを踏んだまま気候地獄へのハイウェイを走っている
長島)特に私が驚いたのは、2022年11月の気候変動サミット「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)」で、グテーレス国連事務総長が「我々はアクセルを踏んだまま気候地獄へのハイウェイを走っている」と表現したことです。
飯田)気候地獄。
長島)気候地獄です。これは彼の思いつきではなく、2021年の国連による「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」でも、報告書のなかで「気候変動は人為的なものである」としています。
飯田)人間がつくり出すものだと。
長島)さらに不可逆的であり、元に戻るのは難しい。単に気候の問題ではなく、安全保障上でも人類の存続を賭けた大きな戦いになると思うので、私は注目しているところです。
CO2削減などで温暖化を遅くする一方、変化する環境に適応しなければならない
飯田)不可逆的、戻らないということは、徐々にこの気候に適応していく必要があるのですか?
長島)1つは、緩和です。二酸化炭素を出さず、気候の温暖化をなるべく遅くする。
飯田)緩和。
長島)もう1つは、この環境に適応する。我々としても適応していかなくてはいけません。例えば電解水を飲んだりですとか。
飯田)電解水を飲む。
長島)日中は歩かないようにするなど、「自分たちの身は自分たちで守る」と考えないと、なかなか適応できないと思います。一過性のものとして捉えたり、「今年も異常気象」という言葉で済ますことはできないと、個人的には思います。
海中の塩分濃度の変化で船のエンジンが損失する ~軍事基地が海面上昇によって一部水没してしまう
飯田)具体的な安全保障の部分になると、部隊行動も相当変わってきますか?
長島)30キロの装備品を持った隊員が、50度のなかで勤務しなくてはならない。それだけではなく、例えば海中の塩分濃度が変わると、船のエンジンがやられてしまうのです。
飯田)エンジンが。
長島)また、砂漠化すると、ヘリコプターを運用するときに、砂を吸い込んで飛べなくなってしまう。
飯田)砂塵を吸い込むとエンジンがやられてしまう。
長島)装備品そのものにも影響があります。もう1つは、温暖化での海面上昇です。アメリカのノーフォーク基地では、徐々に水位が上がってきて、基地の一部が水没しているのです。
飯田)そうなのですか。
長島)軍にとっても、当事者意識を持って対応しなければいけない問題だと思います。
地政学的な状況が気候変動によって変わってくる ~適応できない国は落ちていく
飯田)シーパワー、ランドパワーという話は昔からありますが、これまでと同じようにはいかなくなると、本当に世界秩序が変わってしまうことにもなりかねないですか?
長島)北極海の氷の話がよく言われますが、同じような状況がいろいろなところで起きてくると思います。
飯田)いろいろなところに。
長島)地政学的な状況が気候変動によって変わってくる。それに対して適応できる国は生き残れますが、適応できない国は落ちていくという図式になるかも知れません。
航空燃料の課題 ~化石燃料を使わない、または燃費効率をよくする
飯田)空の世界も変わりますか?
長島)空に関して最も課題になっているのは、燃料です。戦闘機も輸送機も化石燃料をたくさん使いますので、どうやって使わないようにするか。
飯田)化石燃料を使わないようにする。
長島)例えばバイオ燃料を使ったり、もしくは小型化・軽量化して燃費効率をよくする。または人間を乗せず、AIを乗せて無人化する。そういうことで多少は対応できると思います。
飯田)確かにバイオ燃料、持続可能な航空燃料(SAF)などは、民間でも取り合いになるという話です。
長島)そうですね。
気候変動がその部隊にどのくらいの影響があるかを毎年評価して対応を考える ~NATO首脳会合
飯田)気候変動が今後の安全保障上、肝になる場合もありますか?
長島)既にそういう状況になってきています。アメリカもそうですし、NATOも先日の首脳会合で気候変動について、評価書を首脳たちで合意しています。気候変動がどのくらいその部隊に影響があるのか、毎年評価して対応を考えるということです。同じことが防衛省・自衛隊でも始まっていますので、いい流れだと思います。
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