宇宙領域の安全保障 脅威が発生したとき、日本はどうすればいいのか

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NSBTシニア・ストラテジストの長島純が8月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。宇宙領域の安全保障について解説した。

宇宙領域の安全保障 脅威が発生したとき、日本はどうすればいいのか

航空自衛隊内に発足した宇宙防衛部隊「宇宙作戦隊」に授与された隊旗=2020年5月18日午後、東京都新宿区の防衛省 写真提供:産経新聞社

なぜ宇宙領域の安全保障が重視されるのか

ロシアのウクライナ侵略などで国際情勢が激変するなか、日本の防衛省は2024年度予算案の概算要求に、過去最大の7兆円台の防衛費を計上する見通し。陸海空の防衛力強化に加え、宇宙領域の安全保障が重視される。

偽情報も攻撃の手段として考える

飯田)電磁波も含め、サイバーや宇宙について「宇・サ・電」などと言い、防衛白書には毎年載るようになっています。特に宇宙に関しては、航空自衛隊が航空宇宙自衛隊になるという話もありますが、どのように関わっているのでしょうか?

長島)「宇・サ・電」とおっしゃいましたが、これに偽情報も入ってきています。SNSなどでは相手への誹謗中傷などを流すことで、相手国の国民や軍部が行動を変えてしまうことがある。ですので、これも1つの攻撃手段として考えられているわけです。

飯田)偽情報も。

長島)「新領域」と言われているところは、我々が考えるような従来の国防とは違い、領域があるわけではないし、領空があるわけでもない。誰でも自由にアクセスでき、自由に利用できる公共財的な部分なのです。

宇宙空間のなかで「宇宙戦艦ヤマト」のような戦艦で戦うわけではない

長島)我々はここで対処するときに、例えば宇宙で戦争をしたり、サイバー領域で戦争するという概念ではなく、どちらかと言うと、みんなが自由に使えるような空間として保つことが大事なのです。

飯田)みんなが自由に使える空間として。

長島)ですので、それをさせまいとする国があれば、その試みを取り除くことがポイントです。宇宙領域での防衛となると、宇宙に行って「宇宙戦艦ヤマトのような戦艦で戦う」というイメージを持ちますが、そうではありません。

米ハリス副大統領が衛星攻撃兵器(ASAT)実験の禁止を表明 ~スペースデブリを発生させないため

飯田)映画『スター・ウォーズ』のように、宇宙で撃ち合うという概念ではない。

長島)そうですね。できないことはないのですが、多くの衛星が破壊されて宇宙のごみになります。そのごみが高速で回り出し、機能している衛星に当たると、それで機能できなくなるのです。宇宙空間が汚染された状態になってしまう。

飯田)2000年代の終わりぐらいに、中国がミサイルを打ち上げて、衛星の破壊実験を行っていましたね。

長島)2007年に実施しています。彼らが行った実験によるデブリが、まだ多く残っているのです。

飯田)残骸が。

長島)デブリが発生することで、宇宙空間は危険な状態になります。その反省から、アメリカのハリス副大統領は直接上昇式の衛星攻撃兵器(通称ASAT)の発射実験を実施しないと発表しました。

宇宙状況把握(SSA) ~スペースデブリの脅威から人工衛星や宇宙飛行士たちを守るため、デブリの軌道を正確に把握する

飯田)衛星同士がぶつかって危ないなどの断片的な知識はありますが、日本がそういう技術を持つことはないのですか?

長島)攻める側と守る側の技術は正反対なのですが、基本的に日本はそういうことはしません。大事なのは、「宇宙でどういう状況が起きているのか」をアメリカや他の同盟国と共有し、衛星にデブリが当たりそうになったら、そこから指令を出して衛星の軌道を変える。それが最初のミッションになります。

飯田)ある意味、宇宙を管制するようなことですか?

長島)そうですね。「宇宙状況把握(SSA)」という言葉を使っています。

ウクライナなどへの情報のやり取りなどは民間の商用衛星に任せるアメリカ ~アメリカ軍はその先の月や火星などを視野に置いている

飯田)一方でスターリンク衛星の話などを見ると、ロシアによるウクライナ侵略において、情報のやり取りでは衛星の役割が大きい気がします。この辺りの整備はどうしていますか?

長島)これは今後、我々が「この脅威をどう捉えるか」ということに掛かってくると思います。アメリカがいまやろうとしているのは、低軌道です。いわゆるスターリンクや、上からウクライナの状況を見る商用衛星です。

飯田)商用衛星。

長島)これをある程度、民間に任せる。アメリカ軍はどこに行くかと言うと、月に向かい、さらには火星なども視野に置いて考えています。

脅威が発生したときには同盟国と情報を共有しながら、それぞれの国が対応する

長島)我々もすべて自分たちで対応するのではなく、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパの国々と協力しながら、「システム全体として共有する」という形が合理的だと思います。

飯田)何かあったときは、作戦も含めて行うということですか?

長島)サイバーではどこから攻撃が来るかわかりませんし、偽情報もヨーロッパから来るかも知れない。

飯田)そうですね。

長島)脅威が発生したときは横の連携を取り、情報を共有しながらそれぞれの国が対応する。そこは若干、我々の考える伝統的な国防とは違うところだと思います。

共通の価値観を持つ国と人材交流もし、ネットワークを保つことが重要

飯田)情報共有の部分は、お互いに信頼がなければできませんよね?

長島)そこは価値観の問題になってきます。「宇宙を独占させない」と考える国々は、同じように協力できます。そのためには、お互いに人員を交換することも……。

飯田)人材交流ですか?

長島)そうです。ネットワークをしっかり保つことが大事だと思います。

今後は民間も含めて人材を集める

飯田)そのための人員は、民間も含めて広く集めるのでしょうか?

長島)アメリカの場合、民間衛星への影響もあるので、軍のオペレーションのなかには、ある程度、民間の人たちも入っています。

飯田)軍のオペレーションのなかには。

長島)まだ自衛隊はそこまでいっていないはずです。今後は民間の衛星運用会社などと一体になり、宇宙状況の監視や、衛星にデブリがぶつからないよう調整する必要があります。

飯田)宇宙スタートアップのような企業ということですか?

長島)宇宙と言っても打ち上げだけではなく、例えば月の空間でものをつくるなど、いろいろな分野があります。今後は、これまで宇宙と関係がなかった企業も参入してくると思います。

「合成開口レーダ」からの情報を今後、どのように活用していくか

飯田)これまでのイメージでは、宇宙分野と言うと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がありました。どちらかと言うと研究開発の部分で、文部科学省の予算が多くありましたが、ここと安全保障は、いままで食い合わせが悪かったではないですか。この辺りはどう連携したらいいですか?

長島)いまその垣根はなくなりつつあります。大地や地形の状況、また海洋の状態を見る「合成開口レーダ(SAR)」があります。

飯田)気象の部分など。

長島)気象の部分もありますが、表面の状況がわかるので、軍事的にも利用できるのです。新たに軍事衛星を上げなくても、そういうものを利用しながら情報共有することで、ある程度、地面や海面の状況がわかります。我々としては今後、そういうところと「どのように協力関係を進めていくか」が鍵になると思います。

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