いじめを受けている子は「信頼できる近しい人」に相談することはできない 佐々木俊尚が文部科学省のメッセージについて指摘

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ジャーナリストの佐々木俊尚が8月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。文部科学省が夏休み明けに悩みや不安を抱える児童生徒等に向けて公表したメッセージについて解説した。

いじめを受けている子は「信頼できる近しい人」に相談することはできない 佐々木俊尚が文部科学省のメッセージについて指摘

※画像はイメージです

文部科学省が夏休み明けを前に悩みや不安を抱える児童らへメッセージ

子どもの精神状態が不安定になりやすい夏休み明けを前に、永岡文部科学大臣は悩みや不安を抱える児童や学生に向けて、家族や先生など信頼できる人に相談するよう呼びかけるメッセージを出した。文部科学省によると、長期の休みが終わり学校などが再開する夏休み明けの時期には、児童や学生の精神状態が不安定になり自殺者数が増加する傾向にあるという。

飯田)以前から言われていることではありますが。

いじめを受けていることを「恥ずかしい」と感じる ~恥ずかしいことを近しい人に知られたくないから相談できない

佐々木)メッセージのなかに「家族や先生など信頼できる人に相談しましょう」とありますが、まず、家族や先生を信頼できるのかどうかです。

飯田)信頼できていたら、「そこまで追い込まれることはないのでは」というところですね。

佐々木)もう1つ、「近しい人には相談しにくい」という問題があります。例えば昔、「2ちゃんねる」で人生相談する人がよくいたではないですか。

飯田)いましたね。

佐々木)なぜ2ちゃんねるがいいのかと言うと、自分も相手も匿名だから、気楽に悩みを言えるのです。

飯田)知らない人だから。

佐々木)子どもの心理としては、いじめを受けることを恥ずかしいと思ってしまう。自分にとって恥ずかしいものを、家族や先生には知られたくないですよね。近しいからこそ逆に言いにくい場合があります。

「2ちゃんねる」や「いじめ対策に取り組むNPO」など知らない人の方が相談しやすい ~NPOの存在がもう1つの逃げ道に

佐々木)「信頼できる人に相談する」という言葉はわかりやすくていいですが、「信頼できる近しい人」である必要はないのではないでしょうか。

飯田)相談相手は。

佐々木)若い女性の友人が中学時代にいじめにあったのですが、誰にも相談できなかったそうです。彼女は長野県に住んでいたのだけれど、当時まだインターネットが普及していなかったので、どこに相談していいかわからなかった。しかし、探していたら隣町にいじめ対策に取り組むNPOがあったのです。

飯田)いじめ対策のNPOが。

佐々木)週末、日曜日に電車に乗って、1人でいじめ対策のNPOに相談しに行ったそうです。そのNPOの人たちは当然、知らない人ではないですか。まったく知らない人たちにいじめを受けていることを相談したら、それで気が楽になったと言うのです。

飯田)知らない人に相談することで。

佐々木)いじめが解決したわけではないのだけれど、「逃げ道があるのだ」ということに気付いて、そこから対応できるようになったそうです。その話を聞いて、「知らない人に相談する方が実はいいのではないか」と思いました。

子どもが苦しむのは人間関係が学校のなかという閉鎖的環境のため

佐々木)子どもがなぜ苦しむかと言うと、人間関係が学校のなかだけにあり、閉鎖的だからです。ブラック企業も同じで、「自分の世界は会社だけ」となってしまうことがあるではないですか。

飯田)1日、あるいは1週間がそれで埋め尽くされてしまう。

佐々木)すべてが会社のなかで終わってしまう。学校も同じで、自分の人生すべてが中学校のクラス、小学校のクラスのなかに入ってしまうと、殻から出られなくなってしまう。しかし、隣町のNPOや2ちゃんねるのような、知らないところへポンと風穴が開くと、意外と気が楽になるのです。

閉鎖空間では、必ずいじめが起こる ~「皆さん仲よくしましょう」と言うこともいじめにつながる可能性が

飯田)私も中学時代、吹奏楽部のなかで人間関係のトラブルがあったとき、同時期に生徒会にもいたので「生徒会の活動がある」と言って、部活に出ないで生徒会に入り浸ったことがありました。パラレルにいろいろな場をつくることは大事ですよね。

佐々木)小中高ではいじめがあるけれど、大学になると体育会系の部活動は別にして、いじめが少なくなりますよね。なぜかと言うと、クラスがないからです。

飯田)授業ごとに単位を取るので。

佐々木)大人になったから、いじめがなくなるわけではないのです。実際、体育会系の部活ではいじめが起きることがあります。体育会系だとチーム内の強い同調圧力が働くからです。

飯田)ブラック企業もある意味、いじめの構図ですよね。

佐々木)閉鎖空間では必ずいじめが起こります。いじめ事件などが起こると、よく校長先生があいさつして「皆さん、仲よくしましょう」と言うではないですか。もちろん仲よくするのは悪いことではないですよ。

飯田)仲よくすること自体は。

佐々木)でも「仲よくしましょう」と言うことすら同調圧力につながってしまうのです。「先生、飯田君は仲よくしないからいけないと思います」と。それで飯田君がいじめに遭うようなことが起きるわけです。

飯田)1人で絵を描いたり、文章を書くことが自分としては楽しいのに、「飯田くんは1人で文章を書いてばかりで仲よくしません」などと言われてしまう。かえっていじめのきっかけになる可能性があります。

「相談できる場所をつくりましょう」と言った方が「家族や先生など信頼できる人に相談するように」というメッセージよりいいのでは

佐々木)だから「仲よくしなくていいですよ。みんな自分の好きなことをやってください」と言った方が、いじめが起きにくいのかも知れません。

飯田)その風穴をどうやって開けるか。

佐々木)「家族や先生など信頼できる人に相談するように」というメッセージより、「どこかに風穴を開けて、自分が相談できる場所をつくりましょう」と言った方がいいのではないかと思います。

チャットボットは人生相談の相手になれるのか

飯田)この文章には続きがあって、「もし何をどこにどうやって話せばいいかわからなかったら、下のチャットボットを使ってみてください」と。その下にURLとQRコードが載っているようですが、チャットボットを相手にするというのはどうなのでしょうか?

佐々木)ChatGPTくらい性能がよくなっていれば多少、相手になるかも知れませんが、現状のチャットボットだと性能が低いですね。

飯田)テンプレートで「こう聞かれたら、こう答える」というプログラミングがされている。

佐々木)ECサイトなどで、カスタマーサポートがチャットボットになっているところがあるけれど、イレギュラーなことを聞くと答えられず、肝心なことを教えてくれない。公式回答しか言ってこないので、使えないことが多いではないですか。

飯田)コールセンターがつながらないからチャットボットを使っているのに、結局は問い合わせの電話番号が出てくるというような。

佐々木)だから、あまりあてになりません。今後、ChatGPTのように進化して、人間のように相手してくれれば、いじめ問題の1つの風穴になる可能性は期待できると思いますが。

飯田)「逃げたりサボってもいいんだよ」と。

とても強い同調圧力の殻

佐々木)無理して学校に行かなくてもいいし、もっと好きなように生きればいいと思うのだけれど、学校が自分の世界のすべてになってしまうと、そこから出ることをイメージできない。私は12年間、毎日新聞社で働きましたが、新聞社は強固な同調圧力の世界なのです。

飯田)あれだけの人数をシステムで動かすというと。

佐々木)そこから外に出るイメージがまったく描けませんでした。辞めるときは、大げさに言うと「世界が終わるのではないか」ぐらいの気持ちでした。

飯田)新聞社を退職するときは。

佐々木)でも、辞めてすぐ気付いたのは、「新聞社ではない世界もあるのだ」ということです。当たり前のことなのですが、30代の終わりにもなって初めて気付いた。それだけ同調圧力の殻は強いのだなと感じました。

飯田)隣町の行ったことのないところを「ブラッ」と歩いてみるだけでも違うのかも知れませんね。

佐々木)自分の知らない世界には人がたくさんいて、「そこにも優しい人がいるのだ」というメッセージが大事だと思います。

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