2022年度の税収「前年度比4兆円の増加」は「消費税を2%」上げたのと同じ税収増加

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ジャーナリストの佐々木俊尚が9月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。過去最大となった令和6年度の概算要求について解説した。

2022年度の税収「前年度比4兆円の増加」は「消費税を2%」上げたのと同じ税収増加

※画像はイメージです

令和6年度の概算要求、一般会計総額が過去最大114兆3000億円余りに

財務省は8月末に締め切られた各省庁からの来年度=令和6年度の概算要求が、一般会計の総額で114兆3000億円余りと過去最大になったと発表した。予算の概算要求の総額が110兆円を超えるのは3年連続で、これまでで最も多かった2年前の111兆円を上回り、過去最大となった。

飯田)「過去最大」と大きく報じるメディアもありました。

佐々木)メディアの報道を一通り見ると、「このような放漫財政でいいのか」という論調が多くあります。ただ今回、1つは防衛費の増額があります。国内総生産(GDP)比で2%まで上げると約束したわけですし、当然の方向だと思います。

今後の成長に向けての投資財政政策なので拡大するのは当然 ~経済成長し、その結果、税収が増えることが期待できる

佐々木)それ以外では少子化対策や、こども家庭庁もつくりました。あとは賃上げや経済対策、グリーン投資などです。

飯田)少子化対策も含めて。

佐々木)いずれも今後の成長に向けた投資財政政策なので、拡大するのは当然だと思います。それによって今後の税収が増える。つまり経済成長が期待でき、その結果として税収が増えるかも知れないと考えれば、そんなに増えたことを騒ぐほどではないのかなと思います。

2022年度の税収は70兆円を超え、前年度から約4兆円の増加 ~消費税を2%上げたのと同じ税収増加

佐々木)実際に去年(2022年)の税収は、70兆円を初めて超えたのですよね。

飯田)そうですね。

佐々木)前年度より約4兆円増えたのですから、すごいです。普通、消費税を1%上げると約2兆円増えると言われているので、消費税を2%上げたのと同じぐらい税収が増加しています。増税してはいないのに。

「経済を拡大することによって税収を増やしていく」ことが証明された ~「増税せよ」という論理は破綻する

佐々木)コロナ禍が明けるなど、いろいろな流れで経済がよくなり、それで税収が増えただけです。まさに王道である「経済を拡大することによって税収を増やしていく」ということが証明されているわけです。「増税せよ」と言う一部の向きもありますが、その論理はこれで破綻するのではないかと思います。

飯田)経済を回すことによって経済規模が拡大すれば、その分、額面では税収も比例して増えていくという話ですよね。

佐々木)今回、物価が上がったことによって消費税が増え、その結果、税収が増えてしまったという厳しいところもありますが、とは言え法人税や所得税も増えているわけです。

飯田)円安の恩恵で企業の収益が上がっているようです。

これだけ法人に収入が増えたのだから賃上げはもっとあっていいはず

佐々木)必ずしも物価高で苦しくなっているだけではありません。いまの問題は、法人の収入が増えて法人税も増え、税収は増えているのですが、一方で企業の儲けがあまり賃金に回っていないことです。

飯田)企業の儲けが賃金に反映されていない。

佐々木)今年(2023年)の春闘では4%近い賃上げがあったのですが、これだけ法人の収入が増えているとなると、もっと上げてもいいのではないかと思います。

飯田)これだけ収入が増えていれば。

企業人生の大半をデフレ時代で過ごした現在の経営者には賃金を上げる発想がないのかも知れない

佐々木)企業側から見ると、この30年はデフレ経済のなかで経営しており、苦しい状況が続いている。いまの経営者でも60歳の社長だとすると、30年前は30歳です。

飯田)昭和の終わりごろ。

佐々木)企業人生の大半をデフレ時代で過ごしているから、そもそも賃金を上げるという発想がないのかも知れません。買い叩くことしかやっていませんからね。

雇用の流動性がない日本では社員を辞めさせることができない ~一方では正社員になれない非正規雇用の人たちも

佐々木)しかも日本の場合、雇用が流動化しないので、なかなか社員を辞めさせられない問題があります。これが「いいのか悪いのか」ということは、議論として難しいところがあります。

飯田)一旦なかに入ってしまえば居心地はいいのでしょうが、就職氷河期の方々など、そこに入れなかったタイミングの人たちもいる。

佐々木)そうですね。一方で(雇用の流動化がないため)社会の安定をもたらしているのは間違いないのですが、そこに入れない非正規雇用や団塊ジュニア、ロストジェネレーションの方々などが正社員になれない問題が起きている。

2022年度の税収「前年度比4兆円の増加」は「消費税を2%」上げたのと同じ税収増加

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アメリカの場合は雇用が流動化しているので、新たに雇う際には給料を上げざるを得ない

佐々木)もう1つの問題として、経営者側は「会社を辞めないだろう」と思うから、給料を上げなくなります。アメリカと日本を比べて、日本の方が悪いと言うつもりはないのですが、比較するとアメリカの場合はどんどん辞めていき、また辞めさせることもできる。辞めた人たちは新しい会社にすぐに就職でき、転職が自由なので雇用が流動化しているのです。

飯田)アメリカの場合は。

佐々木)そうすると賃金が上がりやすいのですよね。要するに、みんな辞めていくので、新しく雇う際はもう少し高給にしないとならない。いまの給料では来てもらえないので、上げざるを得ないのです。

日本の場合は辞める人が少ないので「給料を上げる」というインセンティブが経営者側にない ~「雇用が流動化しない」ことで賃金が上がりにくいという方向に

佐々木)日本の場合は「辞めさせない、新しく来ない」という世界だから、既に会社にいて、なおかつ辞める予想があまり立たない人たち……「たぶん辞めないだろう」と予測できる人たちに対し、「給料を上げる」というインセンティブが経営者側にないという問題があります。

飯田)「いまのままでは辞められてしまう」となれば、逃げられないように給料をもう少し積み増しするけれど、生活できるギリギリのところで逃げないのであれば、それでもいいだろうと。

佐々木)「雇用が流動化しない」、「社員の立場が守られている」というのは、よくも悪くも両方の面がある。今回は悪い面の方が出てしまい、賃金が上がりにくくなっているのかも知れません。だからと言って突然、正社員制度を廃止して首切り自由にするのがいいかと言うと、それはまた別の議論になるので難しいのですが。

儲かっても内部留保が積み上がるだけの日本企業 ~先行投資して「巻き返す」という方向にはいかないものか

飯田)かつて経済が成長していた時期は、「上がった収益を税金で持っていかれるぐらいであれば、働いている人たちに賃金として還元する。費用で控除されるからいいのだ」という話もありましたが、結局は法人税減税が……。

佐々木)法人税がかなり低く抑えられているので、税金で持っていかれるわけでもなく、結局は内部留保が積み上がるだけになってしまいます。「もっと投資や開発に回せばいいのではないか」と思うけれど、日本企業は突破口を見出せないでいる。特に半導体や電機、エレクトロニクスなどもそうですが、守りに徹してしまい、アメリカや台湾などに先を越されている。

飯田)アメリカや台湾の企業に。

佐々木)AIなどいろいろな新しい技術が出てきているから、そこに先行投資して、もう1度巻き返す方向に行けばいいと思うのですが。

積み上がっている家計の金融資産も使われずに貯まるだけ ~インフレによって預貯金の価値は目減りしていく

佐々木)お金は、実はいろいろなところに貯まっています。企業の内部留保としても貯まっているし、海外投資もこの30年ほど活発に行ってきたので、投資大国のようになっているところがある。

飯田)日本が。

佐々木)家計の金融資産も積み上がっているのです。ところが、その金は使われずに貯まっているだけです。逆に言うと、金融資産で1000万円の貯金を持っていた場合、インフレで毎年の物価が4~5%上がっていくと、現預金の価値自体は目減りしていきます。

飯田)買えるものが少なくなってしまいますよね。

佐々木)そうなのです。であれば、それを投資に回して、株を買ったりしなければいけない。昭和の時代はそもそも金利が高かったので、現預金で持っていても年間4%の金利がありました。

飯田)かつては。

佐々木)1000万円預けたら40万円。1億円預ければ400万円。1億円を貯めていれば、いまの「FIRE」(Financial Independence, Retire Early)ではないけれど、年間400万円ぐらいが単なる銀行預金でも収入として入ってくる。それでも食べていける時代でした。

飯田)金利だけでも。

佐々木)しかし、いまはマイナス金利の時代なので、逆に現預金で持っていると、どんどん目減りするだけです。だからお金をどこかで使わなければならない。

事業を評価する能力がなく、投資をしない日本の銀行

佐々木)以前、地方銀行を取材したことがあります。地銀にも地方の高齢者の豊かな金融資産が大量に貯まっているのだけれど、銀行はいわゆる間接金融という融資しかせず、直接金融である投資はあまりしてこなかった。

飯田)銀行は。

佐々木)「投資はしないのですか?」と信用金庫の人などに聞くと、事業を評価する能力がないと言うのです。土地などの財産を担保に、融資でお金を貸すというやり方を行ってきた。

飯田)なるほど。

佐々木)そうすると、お金を持っていないような20代の優秀なスタートアップ経営者が出てきて、「うちに投資してください。1000万円あるいは1億円。10年後には絶対に倍になります」と素晴らしいビジネスモデルを持ってきても、それを評価するスキルがない。

飯田)結局「土地は持っているのか?」と。

佐々木)「担保はありますか?」というようなことになる。仕方がないから経営者に個人保証させたりすると、その会社がうまくいかずに失敗した瞬間、多額の負債が若く優秀なスタートアップ経営者にいってしまい、二度と再チャレンジできなくなってしまう……。このように「いい事業投資ができない」という構図が、日本全国にまん延してしまっているのです。

結局、国債に集中してしまう

飯田)それで国債を買うしかないという方向になる。

佐々木)結局、そこに集中してしまいます。もしくは海外にお金が逃げていく。いまの若い人は投資を一生懸命しているけれど、話を聞くと大体の人が「S&P500」など……。

飯田)アメリカの指標で。

佐々木)テック企業などが中心のインデックス投資に走ってしまっている。今回、ウォーレン・バフェット氏などが日本の総合商社株を買ったので、「日本株のポテンシャルが高い」と、日本国内回帰のようになっています。

飯田)日本株のポテンシャルは高いと。

佐々木)日本も「株式を買いましょう」という流れになっているのはいいのですが、ただ株を買うだけでなく、買われた側が新規事業や新技術に投資していく流れをつくらないと、投資だけでは単なる金融ゲームですので国は回っていきません。その先の一歩が欲しいなと思いますね。

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