イスラエルとパレスチナの戦闘が続くなか、「胸をなでおろす」中国
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戦略科学者の中川コージが10月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国外務省が主張するイスラエルとパレスチナ国家との「2国家共存」について解説した。
中国外務省がイスラエルとパレスチナ国家との「2国家共存」を主張
中国外務省は10月8日、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとの戦闘について、「即時停戦と事態のさらなる悪化を避けるよう呼びかける」との報道官談話を発表した。ハマスへの直接の批判は避け、根本解決のためにはパレスチナ国家を認める「2つの国家の共存」が必要だとした。
飯田)今年(2023年)6月に習近平国家主席は、訪中したパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談したことが報じられていました。一連のイスラエルの話に関して、中国のアプローチをどうご覧になりますか?
中川)中国は基本的に「2国家解決」を言っているのですが、パレスチナに関して言えば、パレスチナ国家の樹立を支持するというのが基本的な立場です。
飯田)基本的な立場は。
中川)2018年の国連の副代表の方が、その辺りの発言を明確にしています。王毅さんもその発言を受けながら「2国家解決が大事だ」と言っています。
ウクライナ・ロシア戦争が起こり、「100年目標」達成のため、ハイリスク案件である中東にもコミットし出した中国
中川)いまパレスチナの問題が起きていますが、簡単に言うと、中国側からすれば「ふう、危ない」というような状況だと思います。
飯田)「危ない」と。
中川)ウクライナ・ロシア戦争が起こり、ロシアのプレゼンスが落ち、欧州でも安全保障上のコストが上がる。アメリカもそちらに目を向けなければならない。そんななか、ある意味ではミスリードのような形で、中国に対して他国が「中露連携だ」と言いながら、実はそのような動きはしておらず、中東や中央アジア、ロシアの庭に入り、アフリカやラテンアメリカにも入ってきているのです。
飯田)中国が。
中川)そういう意味では、ローリスク案件だったアフリカやASEANはいいのですが、ハイリスク案件だった中東にも、2021~22年くらいから強くコミットし始めたわけです。
飯田)中東にも。
中川)中東について、自分たちにはハイリスクだとわかっているけれど、「100年目標」である、建国100年を迎える2049年までにアメリカを超えて超大国となるためには、中東にも行かなくてはいけない。
飯田)100年目標を達成するためには。
中川)ウクライナ・ロシア戦争が起こったので「いまだ」と、ハイリスク関係に入り込んだわけです。
飯田)だから去年(2022年)、サウジアラビアとイランの仲介に入ったわけですか?
中川)仲介もしましたし、湾岸サミットがあり、習近平氏の中東訪問などもありました。ここ数年の動きは、超大国になるために「そろそろ中東にも行かなくてはいけない」ということで踏み出したわけです。
もし、7月にネタニヤフ首相が訪中して深入りしていたら、中国が批判を受けていた
中川)そして今回、イスラエルとハマスの戦闘が起きた。6月にはパレスチナ自治政府のアッバス議長が訪中しています。ただ、ネタニヤフ氏も7月に訪中すると環球時報が伝えたにも関わらず、来なかった。それは「事前に話しながら失敗した」ということではないでしょうか。
飯田)環球時報はある意味、オフィシャルな報道紙に近いところがありますからね。
中川)中国としては2国家解決を示しているので、両方にきちんとコミットする。アメリカのように片方のイスラエルだけではなく、「両方にコミットする」というのが彼らの戦略なのです。
飯田)両方にコミットすることが。
中川)しかし、片方だけと話すのはよくないので「イスラエル側も」と思ったら、イスラエル側が来なかった。その辺りについて、中国が「なかなか難しいな」と思っていたところで、今回のことが起こった。中国側からすれば、本当に「危ないところだった」という状況だと思います。(ネタニヤフ氏が訪中して)もっと深入りしていたら、中国が批判を受けていたでしょう。
飯田)自分たちが……。
中川)アメリカがいま批判を受けていますが、「自分たちも批判されていただろう」ということで、中国としては「なかなか大変だ」と感じた、というのが全体的な流れだと思います。それでも中国が超大国を目指すためには、力をつけなければいけないというトレンドは変わらないと思いますが、いま感じているのは「ふう、危ない」という思いでしょう。
パレスチナとの「戦略的パートナーシップ」と、イスラエルとの「革新的・包括的パートナーシップ」の違い
飯田)中東に関して、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を主張していますが、この辺りは様子を見ながら、いままでのラインを崩さずという感じなのでしょうか?
中川)中国のなかで、2023年6月にアッバス議長が訪中した際、「戦略的パートナーシップ」を結んだという話がニュースで出ていました。
飯田)「戦略的パートナーシップ」。
中川)中国の外交関係の場合、「国交を樹立している」ことにプラスして、「戦略的パートナーシップ」や、日本であれば「戦略的互恵関係」など、外交関係に「プラス」することがあるのです。
飯田)プラスする。
中川)それがないのが普通の外交関係ですが、プラスして「アドオン」の部分がある。パレスチナに関しては6月14日に「戦略的パートナーシップ」を結び、イスラエルに関しては2017年3月に「革新的・包括的パートナーシップ」を結んでいます。
飯田)戦略的と革新的と……。
中川)わからないですよね。
飯田)どっちがどっちか……。
中川)ここに表がありますが、中国が「アドオン」する外交関係のレベルを一覧にしておかないと、わからないのです。例えば、パレスチナとの「戦略的パートナーシップ」と、イスラエルとの「革新的・包括的パートナーシップ」はどちらが上かと言うと、「戦略的パートナーシップ」の方が上なのです。
いちばん上は北朝鮮との相互防衛に関する条約
中川)いちばん上なのが、北朝鮮との相互防衛に関する条約です。2番目は「全天候型戦略的パートナーシップ」です。
飯田)全天候型ですか。
中川)例えば、「(革新的・)包括的パートナーシップ」と「全天候型戦略的パートナーシップ」のどちらが上かはわからないのですが、パキスタンやベラルーシとの関係で「全天候型戦略的パートナーシップ」の方が上だということになっています。
飯田)そうなのですか。
中川)ニュースで見ると言葉が流れていってしまいますが、パレスチナとイスラエルに関して言えば、6月にあったことは「パレスチナをイスラエルよりも上に持ってきた」というところがニュースなのです。
飯田)1個上に持ってきたのですね。
中川)1個上に乗せた。イスラエルとしては芳しくないでしょうから、中国がまた呼んで、さらにまた上に乗せると。
飯田)イスラエルの首相も中国へ来てもらえばいいと。
中川)訪中していれば、もしかしたら同じレベルの「戦略的パートナーシップ」を結べたかも知れませんが、来なかったので、バランスが崩れてしまいました。中国としても「危ないところだった」という感じだと思います。
飯田)バランスが崩れているので、いまどちらかにコミットすることもできないのですか?
中川)できないですね。中国としては、他者と調整している微妙なときに、微妙なことが起きたというような状況です。中国の通常の外交関係にプラスしたパートナーシップの名前や序列を見ると、かなり解像度が上がります。
インドとの「発展パートナー」、アメリカとの「新型大国関係」、日本との「戦略的互恵関係」はかなり下
飯田)日本との間の「戦略的互恵関係」はどうなのでしょうか?
中川)明確に中国の外交部が言っているわけではありませんが、識者の間で言われているのは、日本との「戦略的互恵関係」はかなり下の方で、通常よりも「プラス0.01%」くらいだということです。
飯田)そんなものですか?
中川)とても低いです。逆に、日本よりも「アドオン」が低いところはないのですよ。だから通常に「若干プラスしてくれている」という感じです。
飯田)鼻差で前に出ているくらいですか。
中川)それより1つ上が、アメリカとの「新型大国関係」です。でも、この「新型大国関係」と「戦略的パートナーシップ」のどちらが上かは、普通わかりませんよね。
飯田)「新型大国関係」の方が、何だか大きいような気がしますね。
中川)「新型大国関係」の少し上に、インドとの「発展パートナー」があります。
飯田)インドもアメリカも日本も下なのですね。
中川)「発展パートナー」のインド、「新型大国関係」のアメリカ、「戦略的互恵関係」の日本という形です。「戦略的協調関係」よりずっと下という感じです。
飯田)かなり下。
中川)この辺りがわからないと、中国語を日本語に訳しただけでは「何かを結んだのだな」という話になってしまうと思います。中国は序列が大好きな国ですので、その辺りは暗黙の了解として、このような序列があるのです。
飯田)これは外交的な序列ですよね。安全保障的なものになると、また変わってくるのでしょうか?
中川)かなりイコールです。最高レベルである北朝鮮との相互防衛に関する条約があり、「鉄の結束」など……。
飯田)血の同盟のようですね。
中川)もちろん蹴り合っていますが、そういう関係です。逆に日本は、蹴り合ってはいないけれど「これくらいに留めておかないとマズイ」という話にもなるわけです。
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