無差別な“報復攻撃”で「イスラエル非難」の流れになるアラブ諸国

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軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が10月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエルとハマスの戦闘について解説した。

無差別な“報復攻撃”で「イスラエル非難」の流れになるアラブ諸国

イスラエル軍の空爆を受けるパレスチナ自治区ガザ(パレスチナ自治区)=2023年10月9日  AFP=時事 写真提供:時事通信

イスラエル、南部制圧 ~双方の死者1700人以上

イスラエルと、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとの戦闘は10月10日も続き、イスラエル軍はハマス戦闘員の侵入を許していた同国南部を奪回し、ガザを包囲したと発表した。死者数はイスラエルで900人以上、ガザで830人が確認され、双方で1700人を超えた。

前回の戦闘から2年でこれだけの戦力をつくったハマス

飯田)まずは一連の攻撃について、どうご覧になりますか?

黒井)ハマスはこれまでもイスラエルを攻撃していますので、攻撃したこと自体は予想外ではありませんが、「少し早いな」と思いました。前回は2年前に大規模な戦闘がありましたが、その際、かなりの戦力を破壊されました。小さいものを除くと、その前の大きな戦闘は、さらに7年前になります。ですから、この2年でこれだけの戦力をつくったことは意外でした。

飯田)2年前に起きたときも、黒井さんはさまざま論考を出されていましたが、バックにイランもついているので「またいつか起こるだろう」とおっしゃっていました。ただ、2年というスパンは短いですか?

黒井)数千発のロケット弾をつくり、さらに射出のためには、かなり大きなトンネルを地下につくらなければなりません。そういうことも含めると、「少し早いな」と思います。

壁を壊して部隊が入ってくることをイスラエル側は予想していなかった ~油断していたために大きな被害につながった

飯田)今回、ロケット弾のみならず、並行して地上に相当数の戦闘員が入りました。このような戦い方は、いままでとは違いますか?

黒井)これは初めての動きです。いままでと違う新たな作戦でしたので、イスラエル側はまったく予想していなかった。パラグライダーで飛んできましたが、それ自体は大きな戦力ではなく、大きかったのは壁を壊して部隊が入ってきたことです。ある種のアイデアですね。

飯田)こういうアイデアは、いままでの発想にはなかったのですか?

黒井)いままではまったくありませんでした。だから油断していたのです。イスラエル側がある程度わかっていれば、簡単に防げるぐらいの規模の攻撃です。

飯田)誰かがヒントを与えたのですか?

黒井)それはわかりません。ただ、9.11やオウム真理教のサリン事件などを大きくテロと括れば、これまで考えなかったことを誰かが考えて実行すると、今回のような大きな被害が起こるのです。

ハマスのバックにイランがいることは確か ~今回の作戦をイランが指導したかはまだわからない

飯田)2年前に黒井さんは論考のなかで、イランの関与によって訓練もされていたと指摘していました。今回、そういう跡は見受けられますか?

黒井)ハマスの軍事的な支援は、ほとんどイランの工作機関からきています。ハマスがこれだけの戦力をつくったバックにイランがいることは間違いありません。

飯田)イランの工作機関から。

黒井)ただ、今回の作戦をイランが指導したのかどうかは、まだエビデンスがありません。可能性はありますが、まだはっきりわからない状況です。あってもおかしくはないと思います。

ガザの地下にあるハマスの武器工場 ~部品や技術はイランの工作機関が提供

飯田)数千発のロケット弾をどこでつくったのか。あるいは、調達したものなのでしょうか?

黒井)基本的にはガザの地下に武器工場がありますので、そこで組み立てていると思いますが、部品や技術については、イランの工作機関が提供しているということです。

飯田)イランとの間にはいくつか国が挟まりますが、どのように輸送しているのですか?

黒井)もともとはスーダンに船で降ろし、そこからエジプトに回って運ぶのが最も多いルートでした。ただ現在、エジプトがそのルートを遮断しようとしており、ルートがどこまで生きているかは謎です。

飯田)エジプトルートは。

黒井)何年か前に密輸ルートの話が報道されたことがありました。そのときは地中海に船で流して、そこから潮流に乗って運び、船で回収するというやり方が指摘されています。ただ、現在どうなのかはわかりません。

空爆だけで「ハマスの戦力を残したまま引き揚げる」ということは許さない ~徹底的に攻撃するイスラエル

飯田)今回のハマスの攻撃は、継続性があるのでしょうか?

黒井)ある程度、勝負はつきましたので、隠れたところからロケット弾を撃つ可能性は多少ありますが、もうハマス側の攻撃能力はさほど大きくないと見ていいと思います。

飯田)イスラエルは今後、地上から攻めることになるわけですか?

黒井)最初は空爆して、そのあとは地上戦という流れだと思います。ただ、それが「いつ、どのぐらいのスパンで」行われるかはまだわかりません。

飯田)いまのところは。

黒井)人質もいますので、様子を見ながら動くことになると思います。地上から入っていき、ハマスの主力部隊、特に戦闘部隊は「殲滅するぐらいの勢いで攻撃する」ということは、イスラエル国民の総論のようになっています。

飯田)そうすると、ガザのなかに入っていき、市街戦を行うことになるのですか?

黒井)最終的にはそうなると思います。例えば空爆だけで、「ハマスの戦力を残したまま引き揚げる」ということは許さないでしょう。今回、兵士も含めてイスラエル国民に1000人近い被害が出ていますので、イスラエルとしては徹底的に攻撃することになると思います。

飯田)民間人の犠牲がまた増える可能性がありますか?

黒井)いちばんの懸念点はそこです。既にこれまでにないような規模の空爆が行われており、一般市民の被害が増えています。ここ数日は「ハマス側の不法行為」に対して非難の声が上がっていましたが、今後はイスラエル側の無差別攻撃による死者が増えていくと思います。

イスラエルと戦うことで存在意義を保つハマス ~それがイスラエルの報復を呼び、一般住民が被害を受ける

飯田)日本人として理解が難しいところは、それがわかっているにも関わらず、なぜハマスがこのようなテロ攻撃を行ったかというところです。何か明確な解があるのでしょうか?

黒井)ハマスはもともとイスラエルと戦うことを掲げている組織ですから、それ自体がハマスの存在意義なのです。そのため、戦力が確立すれば、これまでもこういうことを起こしていました。

飯田)戦力が確立すれば。

黒井)彼等から見れば、それ自体が「ジハード(聖戦)」という捉え方になるのです。ただ、それによってイスラエルの報復を呼びますから、一般住民が被害を受けることはわかっています。これに関して、ガザ地区に住んでいる方々には、いろいろな思いがあるのではないでしょうか。

イスラエルに抵抗することが正義

飯田)一方で組織として見ると、このようなテロ攻撃で目立てば、アラブ世界に対して存在感を高められるのでしょうか?

黒井)そのような外向けのアピールというより、「自分たちの大義」のようなものが大きいのでしょう。彼らは「イスラエルに抵抗することが正義である」と信じているところがあると思います。

イスラエルの報復攻撃によって民間人に被害を与えることになれば国際的な反応も変わってくる

飯田)あとは周りのアラブ諸国ですが、最近はイスラエルなどとの関係改善を図ってきました。その流れは変わりますか?

黒井)「これで吹き飛んだ」と言っていいと思います。ハマスの行動だけならまだしも、このあとイスラエル側による人道的にも許されない攻撃が始まると思います。アラブ諸国としては、「パレスチナの大義を守る」ということが建前としてありますので、明確に「イスラエル非難」の流れになるでしょう。

飯田)人道的な問題が出てくると、これまで人道を掲げてきた、例えばヨーロッパ諸国などはどうするのでしょうか?

黒井)現状、ハマスのテロがあったので、西側はイスラエルを支持してきました。EU各国もこれまでにないぐらいイスラエルを支持しています。

飯田)そうですね。

黒井)ただ、繰り返しになりますが、国際人道法には「民間人に被害を与えてはならない」という原則があります。今後、イスラエルがそれを無視するような20~30倍返しの攻撃をすれば、国際的な反応も変わってくると思います。

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