アメリカでの世論は「イスラエル支持」一択 米在住専門家がパレスチナ情勢を解説

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でスティムソン・センター東アジア共同部長の辰巳由紀氏が10月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。パレスチナ情勢について解説した。

アメリカでの世論は「イスラエル支持」一択 米在住専門家がパレスチナ情勢を解説

イスラエル中部テルアビブの空港に到着し、同国のネタニヤフ首相(左)に出迎えられるバイデン米大統領=2023年10月18日(ロイター=共同)

米バイデン大統領がイスラエルへの全面支援を約束

アメリカのバイデン大統領は10月18日、イスラエルのテルアビブに到着し、ネタニヤフ首相と会談した。バイデン大統領は会談後、「イスラエルは1人ではないことを伝えに来た」と述べて連帯を強調し、全面支援を約束。またパレスチナ自治区の人道支援に対し、アメリカ政府として1億ドル(約150億円)を拠出することも表明した。

米世論は「このタイミングでのバイデン大統領のイスラエル訪問は当然」 ~イスラエルの9.11である

飯田)一連のイスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突は、開始から既に10日以上が経っています。アメリカのイスラエル支援について、国内ではどう捉えられているのでしょうか?

辰巳)アメリカでは、「イスラエルの自国を防衛する権利を支援しなければならない」という方向で、全体的な世論としては、イスラエル支持に大きく傾いているような印象を受けます。

飯田)バイデン大統領がイスラエルを訪問したことは、どう評価されていますか?

辰巳)10日ほど前にイスラエルがハマスの攻撃に遭ったとき、「これはイスラエルの9.11だ」という報じ方をされていました。

飯田)イスラエルの9.11。

ハマスとイスラエルの関係では「イスラエル支持一択」

辰巳)アメリカ大統領としてイスラエルをサポートする気持ちを表すため、このタイミングでバイデン大統領がイスラエルを訪問するのは当然というような空気です。むしろイスラエルが攻撃された当初、バイデン大統領からの一声が遅かったことの方が批判の対象になっています。

飯田)アメリカとして調停しに行くべきだと言うよりは、「全面的にサポートするべきだ」という声の方が大きいわけですか?

辰巳)もちろん、ガザ地区に住んでいるパレスチナの民間人の方々に対する人道支援は、きちんとやらなければいけません。しかし、ハマスとイスラエルの関係だと、「イスラエル支持一択」という感じですね。

ユダヤ系アメリカ人のなかには、家族がイスラエルにいる人も多い

飯田)大統領選も近いですが、そこは関係ないのでしょうか?

辰巳)そこはあまり関係ないと思います。ハマスは、パレスチナのなかの武装勢力・テロリストとして見られていますので。第4次中東戦争から50年に当たるような日に、テロリスト勢力がイスラエル側に入っていったわけです。民間人が無残な方法で殺されている様子が、ネットなどを通じて大きく拡散されており、そちらに対する同情の方が大きいと思います。

飯田)ハマスによる残虐行為が拡散されて。

辰巳)アメリカにはユダヤ系アメリカ人が多いので、自分の家族がイスラエルにいるという人もかなりいます。そういう意味では、イスラエル支援に大きく傾いている印象を受けます。

ヨルダンを訪問できなかったことは話題にもならず

数量政策学者・高橋洋一)バイデン大統領は今回、ヨルダンを訪問できませんでしたが、それはどのように捉えられていますか?

辰巳)「ヨルダンを訪問できなかった」ということ自体が、ほとんど話題にもなっていません。テルアビブに行って帰ってくる。あるいはテルアビブにいながらエジプトのシシ大統領に電話し、「人道支援のために検問所を開ける」ことに同意してもらったことの方が、大きなニュースになっています。

ヨーロッパ各地では行われていても、アメリカでは「反イスラエル」のデモはない

政策アナリスト・石川和男)今回、イスラエルが最初にテロを受けたにもかかわらず、BBCニュースを見ていると、反イスラエル側のデモがヨーロッパ各都市で起きていると報じられています。アメリカでは反イスラエルのデモや、パレスチナの人がたくさん集まるような場面はありますか?

辰巳)アメリカでは、あまり反イスラエルという形のデモはありません。むしろ先日、ホワイトハウス前でユダヤ系アメリカ人のグループが、停戦ではなく「一刻も早く緊張緩和をしてくれ。エスカレーションを防いでくれ」というような抗議集会を行い、そちらの方が話題になっています。

石川)ヨーロッパの動きとは違うのですね。

辰巳)少し違うと思います。

アメリカが国連安保理での「戦闘一時停止」決議案を拒否した理由

飯田)アメリカは国連安保理で、「戦闘一時停止」決議案を拒否しました。アメリカとして、今回の事態を「どう収めていくか」というような動きはあるのでしょうか?

辰巳)アメリカが反対したのは、国連でロシアが提出した決議案に対してです。反対の大きな要因として、ロシア側が出した決議案によると、「最初に攻撃したのはハマスだ」ということに対する批判が明記されていなかったのです。

アメリカでの報道は「イスラエル対パレスチナ」ではなく、「イスラエル対武装勢力ハマス」

辰巳)ただ、アメリカとしてもイスラエルが地上軍をガザ地区に投入し、パレスチナ側の民間人が犠牲になるような事態は避けたいので、可能な限り人道支援については入れる。ガザ地区からのパレスチナの民間人退避については、イスラエル側に「妨害しないよう」要請することになると思います。

飯田)パレスチナの民間人の退避については。

辰巳)アメリカでは「イスラエル対パレスチナ」という構図ではなく、「イスラエル対武装勢力ハマス」という報じ方になっています。この構図に対する反応の方が大きいですね。

イランに対する一部の資産凍結解除の意向を発表したあとに攻撃が始まったことから、バイデン政権に対する批判も

飯田)武装勢力たるハマスの裏に「イランがいるのではないか」とも言われています。イランとの核合意や、資産の凍結を一部解除するという話もありましたが、この辺りのアプローチは変わってきますか?

辰巳)非常に難しくなってくると思います。この24時間、アメリカでいちばん話題になっていたのが、パレスチナ側、つまりハマス側が「一般病院がイスラエル側に攻撃され、多数の民間人の犠牲者が出た」と発信したことです。それに対してバイデン政権は、アメリカやイスラエルも含めた情報分析の結果、イスラエル側ではなく「テロ組織がロケット弾発射に失敗した」としています。こういう情報戦が既に展開されているのです。

飯田)情報戦が。

辰巳)また、バイデン政権がイランに対する一部の資産凍結解除の意向を発表してから、ほどなく攻撃が行われたため、「資金が流れたのではないか」とバイデン政権に対する批判も出ています。そういった意味では、今後の中東政策に関する舵取りは難しくなると思います。

中東政策について、軌道修正せざるを得ないバイデン政権

辰巳)もう1つバイデン政権としては、ネタニヤフ政権が発足してから、ガザ地区・西岸地区でのイスラエル側による入植地での活動について、あまりよく思っていなかったところがあり、ネタニヤフ政権との関係が若干緊張していたのです。

飯田)ネタニヤフ政権と。

辰巳)ただ、ここまでの状態になってしまうと、イスラエルを国としてサポートするしかない。「その一方で」という複雑な事情で、中東政策については軌道修正をせざるを得ないと思います。

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