ジャーナリストの須田慎一郎が10月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。10月20日に召集された臨時国会について解説した。
臨時国会召集、23日に岸田総理大臣が所信表明演説
臨時国会が10月20日に召集された。会期は12月13日までの55日間。政府・与党は新たな経済対策の裏付けとなる今年度の補正予算案を成立させたい考えで、岸田総理は23日に所信表明演説を行う。
上振れした税収がどのような形で国民に還元されるか ~税制調査会での検討を指示
飯田)9月の内閣改造後、初めての国会になります。
須田)本来であれば召集日、初日の20日に所信表明を行うべきですが、昨日(22日)の衆参の補欠選挙があったために野党が「花火を打ち上げられると変な影響を及ぼすのではないか」と危惧して抵抗し、本日にずれ込んだわけです。なぜそういう状況になったのかと言うと、中身の問題なのです。
飯田)所信表明の。
須田)注目すべきは「どのような形で国民に対する還元が行われるか」ということです。税収の上振れに対する還元がどのような形で盛り込まれるのか。いくつかのメディアが先行する形で「減税」という言葉を用いて報道しましたが、所信表明の原案を見ると、まだ「減税」という具体的な書き方にはなっていません。
飯田)その辺りはまだ「調整中」という感じですか?
須田)「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党税制調査会における早急の検討を指示する」という形になっています。税制調査会で検討する以上、これは減税なのだろうと考えられますけれど。
(※編集部注:2023年10月23日 午前6時50分時点の情報)
税制調査会で検討するということは、早くても年明けの通常国会での議論になる
飯田)先日、公明党の山口代表と与党の会談が行われたとき、山口さんのぶら下がり取材で「税に関しては税調(税制調査会)で検討する」という話をしていました。減税も税調で行うとなると、年末になってしまいます。
須田)減税するには、減税に関する法律を成立させなければいけないのです。
飯田)税に関しては法律で決まっているから、それを変える必要がある。
須田)いきなり「臨時国会でその法律が提出できるのですか?」となると、スケジュール上、作業上から考えても、とてもではないけれど無理です。本来なら税調で議論し、年末の税制大綱に反映させて、「来年度予算のなかで減税を実施する」というのがいちばんスムーズでスピーディなやり方だと思います。
飯田)来年度予算のなかで。
須田)臨時国会のなかで減税をめぐる議論が交わされ、場合によっては決まって、近々に「減税という名の恩恵があるのかな」と思っている人も、なかにはいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、そんなことはありません。どんなに早くても年明けの通常国会に、議論の本番は先送りされるのだと思います。
飯田)国会で話題には出るかも知れませんが、実行性のあるものはもっと先になる。
須田)「まだ税制調査会で議論中です」というような言い方になりますからね。
飯田)政府側、答弁する側はそう言っておけば、とりあえずこの国会は乗り切れる。
減税が具体的にならなければテーマ設定できず、この臨時国会での解散は限りなくゼロに近い
須田)この臨時国会におけるもう1つの焦点で、確率としてはゼロではないにしても、「あるのか、ないのか」と言われている解散はどうなのでしょう?
飯田)解散総選挙。
須田)それがあるのかどうかですが、現状のなかで解散して、本当に大丈夫なのか。減税を焦点に解散することになっても、具体的な話になっていないのだから、テーマ設定ができないわけですよ。
飯田)減税については。
須田)そう考えると、この臨時国会での解散は、限りなくゼロに近い形になるのではないでしょうか。
議論すべきは減税額の規模 ~「何兆円行うのか」という議論が出てきていない
飯田)実は経済対策のパッケージも、5本柱の部分は総理が会見のなかで発表していますが、具体的な中身に関しては、まだ発表もされていません。
須田)10月中に経済対策・景気対策がまとめられ、それを受けて財源の裏付けとなる補正予算を編成していく。全容が出てくるのは、おそらく月明けになると思います。
飯田)11月になってから。
須田)11月初旬~中旬にかけてになるでしょうね。ここで注目しておかなければならないのは、先程の話に戻りますが、減税についてはきちんと議論すべきなのです。よく新聞などがミスリードしているのですが、「定率なのか定額なのか」は意味がありません。
飯田)意味がない。
須田)本当に意味があるのは、減税額の規模なのです。「一体いくらやるのか? 何兆円やるのか?」ということです。それが具体化しておらず、議論が出てきていません。
飯田)確かに。
須田)そちらの方に焦点が当たらないよう、「定率・定額」という内容を財務省が言って回っているような気がしてならないのです。
飯田)本来であれば、全体の規模が「何兆円になるのか」などの話が出てこなければいけないのに、そういうものはないですね。
須田)「マクロ的な経済・景気としていくら必要なのか」という議論からスタートしていくということです。
飯田)「需要がいくら足りないのか」などを考えなければいけない。
須田)そうです。
景気を回復させるために、14~15兆円ある需給ギャップをどう埋めるか
飯田)本来であれば、どのようなプロセスを辿ればいいですか?
須田)所信表明にも書き込まれていますが、日本経済のいちばん大きな問題は需要と供給のギャップです。供給能力に対して需要が少ないから、デフレマインドになっている。デフレ基調になっていくということですよね。
飯田)そうですね。
須田)これが「ピークで50兆円」としっかり書き込まれているのです。そういった問題意識を持っているのですが、近年はアベノミクスをはじめ、さまざまな対策を講じてきたために縮まってきて、もう1歩のところに来ています。岸田首相の認識に間違いはありません。では、どうやって景気をいい方向に持っていくのかと言うと、まず実質的に需給ギャップは14~15兆円あると言われており、これをどう埋めるかなのです。
飯田)内閣府の発表によると、需給ギャップはほぼなくなったと言われていますが、そうであれば、もう少し明るいのではないかと思いますよね。
須田)失われた時代が三十数年続いて、しかもコロナショックが約3年あり、供給サイドがフル操業されていません。雇用も不完全で、生産ラインもフル操業できていないわけです。フル操業した場合には、やはり14~15兆円という試算が出てくる。
需給ギャップを埋めるための2つの方法 ~減税、あるいは20兆円の財政出動
須田)これをどう埋めるかがいちばん重要なポイントです。見方としては2つあります。1つは減税して、「その分お金を使ってください」という方向で経済効果をもたらす。
飯田)減税によって。
須田)もう1つは財政出動です。一緒のことなのですが、国が「これだけの金を使います」と示す。つまり民間がお金を使わないのであれば、公的セクターがお金を使うという埋め方があります。世耕参院幹事長が「最低でも15兆円、できれば20兆円」という数字を挙げたのには、きちんとした根拠があって、「それをやれば日本経済は成長していく」という状況になっているのです。ですから今臨時国会のポイントは、補正予算を組むときに真水ベースでどのくらいになるのか、国は一体金を使うのかというところです。
飯田)真水ベースでどのくらいの補正予算を組むのか。
須田)これについては先手を打つ形で、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が提言をまとめましたが、そこには「真水で20兆円を求める」と明記されています。これをやるのかやらないのか。低い数字になってしまうと、もと来た道に戻るような感じもします。
2022年の補正予算は基金として積まれ、結果的に使われなかった ~「穴を掘って埋めるだけ」でもいいから使うべき
飯田)規模の問題で言うと、去年(2022年)の補正予算もかなりの規模を出したではないかと言われる一方で、それが基金として積まれてしまい、ほとんど表に出てこなかったというような話があります。
須田)それについても、「財務省にやられてしまったな」という感じがします。使いにくくしたのです。基金というのは使おうとすると、それなりの手続きや審査が必要になってきます。基金にお金を積んで「いくらでも使ってください!」と言っても、使いにくくすることによって、結果的に出て行かない状態になるのです。
飯田)余った基金は、今回の補正予算にまた流用されたりするのですか?
須田)順繰りに先送りされ、結果的にお金が使われず、いつまで経っても景気が回復しない。お金を使うのであれば、どんどん使うべきです。穴を掘って埋めるぐらいでいいのですから。本当は「空からばら撒け」と言いたいのだけれど……。
飯田)ヘリコプターマネー。
須田)それではいかにも乱暴なので、最近は「穴を掘って埋めておけばいい」と申し上げています。
飯田)穴を掘って埋めるだけでも、いろいろな人の雇用が生まれたり、そこで稼いだ人たちが周りの飲食などで使って波及する。経済学者のケインズが「穴を掘って埋めるだけでも需要が出る」という話をしていました。
注目ポイントは「補正予算の規模が真水ベースでどのくらいなのか」、「どのくらい減税するのか」の2点
須田)注目ポイントは最優先で言えば、まず「補正予算の規模が真水ベースでどのぐらいになるのか」ということです。そして、それがきちんと使いやすいものなのか、使いにくいものなのかを見極める。
飯田)基金などではなく。
須田)2点目は、この臨時国会でも野党から質問が出るでしょうが、減税の規模です。「どのくらい減税するのか」ということです。定率・定額や1年間限定などの話はもういいのです。「いくら使う」という辺りをきちんと詰めて欲しいと思います。
飯田)最近言われている期限付き所得税減税も、所得税となると稼いでいる人はそれなりに恩恵があるかも知れませんが、あまり稼げていない人は税金を減免されても、そこまで恩恵は大きくないことになる。
須田)そこは給付金で出てくるのでしょうね。
飯田)なるほど。
須田)所信表明でも、低所得者層に対する配慮は盛り込まれています。
宮沢洋一税調会長が所得税減税を「1年間限定が常識」
飯田)一方で物価高、特にガソリンの影響は所得が低い人ほど大きく受けます。
須田)不思議なのは、宮沢洋一税調会長が所得税減税を「1年間限定(が極めて常識的)」と言っています。それは天に向かって唾を吐いているのと一緒です。なぜかと言うと、いちばん求められているのは消費税減税なのです。しかし、「一旦(消費税を)下げてしまうと上げにくくなる」と財務省や税調が言っていますが、所得税ができるのであれば、「消費税も期間限定でできるではないか」ということです。
所得税減税を期間限定でできるのであれば、消費税も期間限定で減税できるはず
飯田)確かに、所得税を期間限定で減税できるのであれば、理屈は一緒ですよね。
須田)法律で手当てすればいいのだから。このような議論を国会でやって欲しいですね。
飯田)オンの場で税調会長が発言したのだから、「税調会長がそう言っていますよね?」ということで突っ込んでいくと、「あれっ?」ということになりますよね。
須田)そうです。
飯田)確かに「期間限定で」という話は出るけれど、(消費税減税に関しては)「一旦下げると上げられなくなるから」という理屈がまことしやかに言われています。
須田)税調会長も「1年限定でできる」と言っているのだから。
飯田)「やれるではないか」と思いますね。
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