戦略科学者の中川コージが10月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。衆議院本会議で始まった各党の代表質問について解説した。
国会で各党の代表質問スタート
岸田総理大臣の所信表明演説に対する各党の代表質問が、10月24日に衆議院本会議で始まった。
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立憲民主党・泉代表)経済対策の策定を指示したのは9月26日。あまりに遅すぎませんか?
岸田総理)国民への還元に向けた具体的な指示は、10月26日の政府与党政策懇談会で行う予定です。与党で正式な議論も開始されていない段階で、具体化の方向性について所信表明演説で、政府の考えとして述べることは控えなければならないと考えた次第ですが、いずれにせよ、国民への還元については、所得税減税を含め早急に検討を進めてまいります。
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飯田)具体的な指示はまだ先だということですが、新聞を見ると具体的な金額まで載っているのですよね。
中川)「与党で議論していない段階で述べることは控える」という話ですが、「いまから検討」ということではなく、これまでも検討された上で、「出すタイミングはいつか」ということなのでしょう。「遅い」というよりも、内容自体に不満が出ているところはあります。実際、「総額でどれぐらいなのか」が見えにくい。
飯田)朝日新聞と読売新聞が1面トップで掲載していますが、所得税減税1人4万円強を、国民1人当たり4万円で計算すると3兆5000億円ぐらいになるので、最終的な規模を考えると「GDPの1%にも満たない」という話になります。
中川)「給付なのか減税なのか」についても、「減税自体に即効性がないから給付で」というようなところもあります。
増税メガネと揶揄され、急に「減税」と言い出した岸田総理 ~国民が声を上げるときちんと聞く政権である
中川)ネット上で岸田総理が「増税メガネ」と揶揄されています。それに対して、総理が急に「やはり減税で」と言い出したではないですか。そう考えると、「国民の世論が高まると動く政権である」ところが若干見えてきた。ネットであろうがマスメディアであろうが、「我々が声を上げるときちんと聞くのだろうな」という観測はできましたよね。
飯田)確かにそうですね。岸田政権が発足したときに「話を聞く政権だ」と言っていましたが、「その通りだな」と思うところはあります。
中川)きちんとした批判や世論形成ができてくると、聞く政権だというところは理解できたので、「我々が声を上げることで、政権をコントロールできるのかも知れない」と考えれば若干、光が見えてきたのではないでしょうか。ただ、対応の遅さなどは「検討士」と揶揄されたこともありましたが。
飯田)最初はそうでしたよね。
中川)国民が声を上げれば、「一応は減税も考える」というところが見えてきた気がします。
いまの選挙制度のなかで政策で選挙結果が決まることは現実的には難しい
飯田)声の上げ方として、もちろんネットもそうだし、メディアを通じたやり方もあると思います。いちばん大事なのは選挙です。投票行動によって伝える。国会召集の直前で衆参の補選がありました。加えて、地方によっては県議選や市長選もあった。そのような選挙結果で動く部分もあるのでしょうか?
中川)選挙結果や政策議論というよりも、特に世襲の方が多い場合は「地盤があるかどうか」で決まってしまいます。例えば今回も補選があり、あえてどちらとは言いませんが、結果は政策で決まったわけではないというところが、リアルな話としてあると思います。
飯田)政策議論ではなく。
中川)それが政策に反映されていくような気はしません。本来は民主主義として選挙結果、もしくは候補者の演説に対し、信を問う形で政策決定されていくのがあるべき姿なのですが。
飯田)本来は。
中川)しかし、現実的にはそうなっていません。小選挙区比例代表並立制のなかでは仕方ないのかも知れません。全国的な世論形成でなければ難しい気がします。
ネットでの世論形成によって総理の政策決定を変えることができる ~新たな時代に
飯田)いろいろなタイミングで声を出す、あるいは支持率が上がらないことの方がプレッシャーになっている。
中川)今回、特に注意を引いたのが、「ネットでの世論形成をきちんと見ているのだな」ということです。「増税メガネ」という言葉は、いままでのマスコミならつけていないと思います。ネットで盛り上がったことに対して政権が反応するというのは、新時代の動きです。
飯田)ネットで盛り上がっていたのは、もう2~3ヵ月前でしょうか。
中川)それを聞いて、総理が答えたわけです。そういう意味では時代の流れを感じます。残念ながら現在の選挙制度において、なかなか政策は反映されにくい。一方で、ネットでの世論形成によって日本国の総理自体の政策決定が変わっていくのは新しいと思います。いままでの自民党のトップに、そんな動きはなかった気がします。
ネットでの世論形成が党派を超えて盛り上がり、政権もその意見を聞かざるを得なくなる ~国民の新たなツールに
飯田)ネット上で言われ出した「増税メガネ」という言葉から、総理の方針などが変わっていく。
中川)これは新しい現象です。例えば安倍元総理の時代には「森友・加計問題」などがありました。あれは与野党対立だから盛り上がったのだと思いますが、今回は党派を超えた形で「増税メガネ」と揶揄され、それが盛り上がったので、政権も聞かざるを得なくなったのです。こういうケースは、これまであまり観測されていないと思います。
飯田)そうですね。
中川)党派対立ではなく、無党派・野党・与党の支持者も含めて「こうなのだ」と盛り上がっていく。それが効いてくると考えると、我々は「新たなツールを持ったな」という気がします。
ネットによって、世論が直接政権に届くということは、大きな構造変化
飯田)かつて加藤紘一さんが黎明期のネット世論において、「私にはここに支持がある」と打って出たら、意外とそうでもなかったことがありました。その後、保守あるいは左派の方もネットから出てきて、「これは盛り上がっている」と思っても、議席は1~2議席という状態でした。「ネット世論はそれほど糾合できないのか」などと言われていましたが、「方法を変えれば」という感じでしょうか?
中川)かつてと言うか、いまもそうですが、もともと「N国」と呼ばれていた党や「参政党」、「日本保守党」などはネットで1議席を伺い、約100~150万票を参院でも集めていきます。その数は政権与党の約1000~2000万票から見ても、かなり大きいものですよね。彼らは1議席ぐらいしかとらないから小さいように見えますが、それでも「0から1」というのは大きなことです。
飯田)新たな政党が1議席を獲得することは。
中川)選挙自体は制度不全を起こしているかも知れませんが、ネット世論が直接、政権に届くのです。我々の選挙は議院内閣制のもとに首相が選ばれるという構造を取っていて、つまりは途中にレイヤーが入ってしまっているわけですが、ある意味では大統領選のような形で、「直接的な意見が届く」というシステムを得た。それは新しい流れだと思います。
飯田)なるほど。
中川)日本のいまの政策決定の過程において、非常にエポックメイキングな出来事が起きたなと思います。確かに「減税・給付」などの細かい議論もありますが、「制度的な地殻変動を観測した」というのは、組織論的な形から言うと、大きな構造変化だと思います。
大統領選のように「ダイレクトに効いていく」というツールを我々が得たことは大きい
飯田)もやもやとした気持ちを、あのワーディングで見事に掬い取った。誰が最初に言い出したのかはわかりませんが。
中川)今後、防衛関係の予算が何十兆円と言われていますが、「何十兆円をこう使え」というようなムーブメントが起これば、またそれが政権に反映されていく可能性があるのです。選挙で地元議員に言うよりも、はるかに早いし、近いと思います。地元の選挙の候補者に言っても、その人は一介の議員でしかないし、その人の意見が与党内で広がるかと言うと、それは微妙だと思います。
飯田)党全体に広がることは。
中川)ネット上の世論が日本全体で盛り上がることで、大統領選のように「ダイレクトに効いていく」というツールを我々が得たのは大きいと思います。
怖いのはポピュリズム
飯田)世の中の空気をどう掬い取るかということと、「言葉選び」が大事になってきますね。
中川)怖いのはポピュリズムです。アメリカ大統領選でもスイングしてしまう傾向があります。ネット上の世論形成に関して、先ほどはポジティブな部分を言いましたが、当然ながら両面あります。
飯田)ネガティブな側面も。
中川)ネガティブな例では、どこかでデマゴーグ(扇動政治家)が出た際、そこに意見が集約されてしまい、しかも政権が無視できないような声になる場合があります。議院内閣制には「マイルドに進められて、ビビッドに動かない」というよさもあり、「そのよさが削られてしまう」という怖さもあるのです。でも民主主義は、「国民1人ひとりの手に権利がある」というところに改めて戻れるので、それはいいことなのではないかと、いまはポジティブに捉えています。
飯田)「ぶつかった上で修正する」ということを繰り返す。
防衛予算も国民の意思を届けることができる ~税と国防に対しての意見がまとめられる
中川)選挙制度不全がアナログではなく、デジタルによって変わっていく。税については本当にコアな話題であり、国政がよくやるのは徴税、税の使い方と、国防に関することですが、これまでは「国のことだから」と言われてきました。
飯田)いちばん小さな政府で削り込んでも、いわゆるガードマン国家、夜警国家と言われるように、国防と税金の話だけやっていればいいのだと。
中川)「このコアな2つのテーマに刺さる」とわかったのは大きい。防衛3文書が出ましたけれど、防衛予算がどう使われるかについても、こういったムーブメントを起こせれば変な方向に行かないかも知れません。自衛隊内でもどう使っていいかわからない場合、我々が政治意志をある意味であと押しすると、変な方向に行かずに使ってくれるのではないかと思います。
飯田)外からの工作にも使われる可能性がありますが、いかがですか?
中川)外からの影響力工作はあると思いますが、我々には日本語という言語障壁があるので、他国よりはやられにくいガードがあります。特に対中国に関しては、よかれ悪しかれ我々には「反中感情」がソフトウェアとしてインストールされているので、防御力はあると思います。
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