ASEANに対しては、「日本は日本である」という姿勢を見せるべき
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戦略科学者の中川コージが10月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。上川外務大臣と東南アジア諸国連合(ASEAN)のカオ・キムホン事務局長の会談について解説した。
上川外相、ASEAN事務局長と会談
上川外務大臣は、日本を訪れている東南アジア諸国連合(ASEAN)のカオ・キムホン事務局長と会談し、12月に東京で開かれる日本とASEANの特別首脳会議に向けて緊密に連携していくことを確認した。
飯田)日本とASEANの友好協力関係が今年(2023年)で50年となり、12月16~18日には特別首脳会議が開催される予定です。
中川)米中対立という文脈で見たときに、つい、ASEANが「アメリカ側なのか中国側なのか」と踏み絵を踏ませるような考え方になりますが、ロジックとしては「両国になるべく踏み絵を踏ませない形で引き寄せよう」という前提があります。
ASEANに対しては、アメリカ側ということではなく、「日本は日本である」という部分を見せた方がいい
中川)そのなかで「日本は当然、アメリカ側だ」というような議論もあると思います。もちろん、それはその通りで、対中国という軸で動いていくのですが、ASEANのなかでは「アメリカ側」というよりも、「日本は日本である」という形で見られた方がいいのです。
飯田)日本は日本であると。
中川)ASEANのなかで、日本の最近の動きは比較的、安倍首相の時代からよくなってきています。引き続き、経済的な意味での投資も続けながら、安全保障レベルで言えば「軍事的なつながりも連携できるといい」という流れなので、今回の話はプラスに捉えています。
ASEAN各国の最大貿易相手国は中国 ~日本が優勢ではない
飯田)ASEANと言いながら、各国それぞれ思惑が違う部分がありますし、政治体制も違います。「民主主義かどうか」ではなく、踏み絵を踏ませずに付き合っていくことに関して、日本は包み込むような外交が得意なのでしょうか?
中川)そこはアメリカもやっていれば、中国もやっていることです。そのなかで日本がどれくらい強いのかと言うと、決して「日本は強い」などと言える状況ではありません。日本国内のニュースを見ていると、中国がどのようにASEANと接触しているのか、あまり情報が入ってきません。しかし、ほとんどのASEAN各国の最大貿易相手国は中国なのです。
飯田)当然、貿易額も大きい。
中川)中国との間で何か問題が起これば、それぞれの国の経済が立ち行かないような話になってしまう。生殺与奪を中国に握られているところがあるわけです。
日本からの経済投資が広がる方がASEANにとってもいい ~日本は歓迎され、ハレーションを起こしにくい国
中川)その背景のなかで、日本がどれぐらい入り込めるのか。決して優勢ではありません。それでも、アメリカでも中国でもない日本の役割を、彼らが欲しているところはあります。いくら中国が彼らにとって最大の貿易相手国であっても、日本からの経済投資が広がってくれた方が、彼らのポートフォリオとしてはいいのです。
飯田)日本からの経済投資が広がった方が。
中川)日本は歓迎される国ですし、いろいろな意味で「ハレーションを起こしにくい国」です。今回、上川外務大臣がカオ・キムホン事務局長と会談を行い、多国間連携で動いています。もう1つは今後、各国ごとの動きが出てきて、より親密になって欲しいという期待があります。
貿易関係でインドが入ってくることで、ASEANの力学も変わってくる可能性がある
飯田)ASEANとインドの関係はどうですか?
中川)インドと中国は、ASEAN各国に対して異質のジャイアニズムを持っています。中国はイデオロギー上で気持ち悪く、インドは謎自信で嫌だ、というような感じです。
飯田)お互いに押し付けてきて、嫌だというような。
中川)我々はどうしても「いい国、悪い国」で見がちですが、大国になればなるほどジャイアニズムが出てきます。それはアメリカもそうだし、中国やインドもそうです。そのなかで、いままでもインドは周辺国に対して謎自信を示してきたのに、今後より大国化してくると、さらに自信を強めるかも知れない。おそらくハレーションも増えていくと思います。
飯田)インドがより大国化すれば。
中川)貿易に関しても、いまは中国が最大の相手ですが、インドの割合も増えてくるかも知れません。そう考えると、貿易関係でインドが入ってくることで、ASEANの力学も変わってくる可能性があります。我々は、そのような細かい経済指標を見ながら、どの国が入ってきているのかを見る必要があります。
ASEANとの貿易が増えれば、日本の経済圏も増える ~地理的に近く、ASEANとの貿易を増やすことが中国への牽制にもなる
中川)一方でASEANとの貿易が増えれば、我々の経済圏が増えることになりますし、ASEANからもそれを求められている。米中印のようなジャイアニズムがない日本は好まれますので、我々としては積極的に見ていった方がいいと思います。
飯田)ASEANとの貿易を。
中川)しかも、アフリカや南米などより地理的に近いので、貿易上のメリットがあります。日本が軸足を置いてもいい国々がASEANにはあるし、それによって間接的に中国を牽制することができるのです。
ヘルスケアなど、日本の得意分野で投資を広げていく必要がある
飯田)変数が多くなってきているからこそ、「日本が何をやりたいのか」が問われてくるのですか?
中川)日本に対応可能なのはどの分野なのか、どの領域なのかという部分はあります。日本にはいろいろな法規制があって、軍事的なところでは積極的に動きづらい。
飯田)そうですね。
中川)そこはアップグレードしなければなりませんが、日本は経済的に強かったところがあるので、今後、日本が「どれぐらいできるのか」は我々の国内経済にもよると思います。日本の白物家電や自動車産業がコアだったように、いろいろな強かった領域が削がれているなかで、日本がASEANに対して積極的になれるのはどの領域なのか……。それをいま見出すのは難しいですが、ヘルスケア分野や省エネ分野など、強い分野はあるので、きちんと積極投資を広げていく必要があると思います。
飯田)CO2を出さない火力発電なども、「プラントが高いからうちは入れられない」と東南アジアなどでは言われます。であるならば、現地でそれをつくる技術移転を進めていけば、Win-Winになるかも知れないですね。
中川)もちろん、大型のインフラ投資なども間違いなく重要ですが、そのような技術を持つ中小企業が現地法人をセットアップすることは難しい。そういう場合に政治的なバックアップがあると、小中規模レベルの企業が進出しやすいのです。
飯田)なるほど。
中川)逆に、向こうの企業が日本にも進出しやすい状況をつくれるのは、政治的なバックアップがあってこそだと思います。今回、外相が会談したこともありますけれど、その辺りをつくっていくと中規模・小規模の企業が連携できて、かなり綿密な形になると思います。
飯田)そういうものは、TPPのアップグレードなどで動けるところもあるかも知れませんね。
中川)多国間の貿易連携もありますが、あの辺りは貿易的なところがあるので、直接投資や細かい政治的なバックアップがあれば、2国間でアグリーメントをつくれると思います。
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