意外と「合理的な政策」のアルゼンチン次期大統領 「面白い流れ」と高橋洋一が解説

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数量政策学者の高橋洋一が11月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。大統領選挙の決選投票で勝利したアルゼンチン次期大統領について解説した。

アルゼンチン大統領選の決選投票に勝利し、ブエノスアイレスで演説するハビエル・ミレイ氏(アルゼンチン・ブエノスアイレス)=2023年11月19日 EPA=時事 写真提供:時事通信

アルゼンチン大統領選の決選投票に勝利し、ブエノスアイレスで演説するハビエル・ミレイ氏(アルゼンチン・ブエノスアイレス)=2023年11月19日 EPA=時事 写真提供:時事通信

岸田総理、アルゼンチン次期大統領に祝辞を送る

急激なインフレなど経済の混乱が続く南米アルゼンチンで、11月19日に大統領選挙の決選投票が行われた。当選したハビエル・ミレイ氏に対し、岸田総理大臣が21日に祝辞を送った。総理は「戦略的パートナーのアルゼンチンと、伝統的かつ良好な両国関係をさらに発展させるため、ともに取り組んでいきたい」と伝えた。

飯田)ハビエル・ミレイ氏はもともと経済学者で、右派の下院議員を務めていました。過激な主張などから「アルゼンチンのトランプ」と言われています。中央銀行廃止など、いろいろ過激なことを言っていますが。

中央銀行の資産としてドルを持ち、それに見合った自国通貨を発行する ~自国通貨だが実質上、ドルと一緒

高橋)中央銀行の廃止は、それほど過激な発想ではありません。中央銀行が信頼できないので、他国の通貨を使った方が「まだ、まともではないか」という話です。

飯田)そうなのですか?

高橋)中央銀行は廃止しないと思いますが、事実上の機能をなくすのです。お札を発行するわけですが、中央銀行のバランスシートから見ると、お札というのは実は負債なのですよ。資産と見合ってお札を発行するのですが、一般的には、資産はその国の国債です。しかし、国債ではなく米国のドル債をたくさん持ってきて、ドル債を中央銀行の資産にする。そして、それに見合った形でお札を発行する。そうすると基本的にドルと一緒になるのです。たぶん、そういうやり方をするのだと思います。

飯田)ドル債を中央銀行の資産にして。

高橋)これは、ダラーライゼーション(ドル化)と言います。中央銀行が信頼できないときは、中央銀行の資産としてドルを持ち、それに見合った自国通貨を発行する。自国通貨ですが実質上、ドルと一緒なのです。そういうやり方だと思います。

ドル化すれば為替とインフレは収まる

飯田)そうすると、米国債の分しか発行できない。

高橋)だから、ある意味でインフレを修正できるのです。為替変動もほとんどドルと一緒になるので、なくなるのですよ。

飯田)事実上、ドルと紐付くというか。

高橋)完璧に紐付きます。

飯田)ペッグする形になるのですか?

高橋)年率140%の高インフレだと、もちろん供給力が低くなっていることもあるだろうけれど、お札を刷りすぎているのだと思います。そこは修正できますね。

飯田)ある種の引き締めのようになるのですか?

高橋)引き締めと言えば引き締めです。いまは出しすぎているから、どうやって修正するかという話です。いままで出しすぎた人に「直せ」と言っても無理です。それなら、「いま持っているドル債に応じて出せ」という言い方になる。そうすると、為替とインフレは収まります。

年率140%のハイパーインフレを修正するにはドル化が有効

飯田)金融政策を放棄することにはならないのですか?

高橋)ほとんど放棄の状態になります。ドル債と一緒だから、ドル債の上限を増やしたり減らしたりするぐらいしかできない。でも、ある意味では為替政策と一緒に金融政策を行うことになるから、為替を一定させることになり、金融政策放棄になります。

飯田)なるほど。

高橋)でも、何もせずに年率140%の高インフレを続けるくらいなら、これくらいやれば、すぐ10%程度になりますよ。

飯田)いままでのアルゼンチン政権は、いわゆるバラマキ的なことをやろうとして、お札を次々に刷り、それがインフレの要因になったと言われています。

高橋)たぶん、そうですよ。年率140%はハイパーインフレのレベルです。それを直すには、ドル化がいちばん簡単ですよ。

意外と合理的な考え方の次期大統領

飯田)ある意味、政治に影響されないような形で、しっかり経済政策を行いたいのでしょうか?

高橋)これはそんなに変な政策ではありません。また、移民をなくすと言っていますが、お隣がブラジルではないですか。ブラジルは左派政権だから、ブラジルの方に移民が行きますよね。合理的と言えば合理的です。左派政権の移民受け入れはいいのですが、そうでなくてもアルゼンチンからブラジルに移民が行きます。ブラジルは大変ですけれどね。

飯田)アルゼンチンはかなりの農業大国でもあります。人手が足りなくなる可能性はないのですか?

高橋)人手不足になるかも知れませんが、一方で移民が入ってくることに関し、社会不安のマイナス要素を考慮しているのではないでしょうか。

飯田)「省庁も全部廃止する」などの主張を聞いていると、「過激だな」と感じますが。

高橋)過激だと思うけれど、案外、合理的なところもあるかも知れません。

飯田)これで年率140%というインフレが落ち着き、経済が上向けば、「意外としっかりした政策をしているではないか」となる。

高橋)ドル化すると、インフレ率は年率一桁くらいに落ちる可能性があります。それはそれで悪くないような気がします。

戦後、先進国から後進国に落ちたアルゼンチン

飯田)もともと第二次世界大戦の前は、先進国の一角を占めていた豊かな国だったのですよね。

高橋)先進国から後進国に落ちた珍しい国です。

飯田)工業化の遅れのようなものが、未だに尾を引いているのでしょうか?

高橋)尾を引いていますね。クズネッツによる「世界には4つの国しかない。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンである」という有名な言葉があります。

飯田)上がった国もありますが。

高橋)下がるのは珍しいですけれどね。「夢をもう一度」とアルゼンチンは思っているのかも知れません。

飯田)そう聞くと、どういう経路をたどるのか見てみたいですね。

高橋)上手くいかない可能性もありますが。

飯田)劇薬であることは間違いないけれど、どうなっていくかは読めない。

高橋)BRICSに新規加盟する話もありましたが、共産圏は嫌だと思っているので、辞退する方針も示唆されているようです。1つの流れとしては面白いです。

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