ジャーナリストの佐々木俊尚が12月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。前年同月比で2.3%上昇した東京都区部の消費者物価指数について解説した。
東京都区部の11月の消費者物価指数、前年同月比で2.3%上昇
総務省によると、東京23区の生鮮食品を除いた消費者物価指数は、11月中旬時点の速報値で、2020年の平均を100として2022年11月の103.6から106.0となり、2.3%上昇した。10月の2.7%から0.4ポイント下がり、4ヵ月連続で2%台となった。食料品の上昇率が落ち着いてきたことや、電気代、都市ガス代の下落幅が拡大したことなどが主な要因。
飯田)全国の数字の先行指数として出てきました。
佐々木)10月が2.7%、11月が2.3%で、少し落ち着いてきたところです。いわゆるコストプッシュインフレだったけれど、エネルギーと食料品が少し落ち着き、コストが下がってきたので落ち着いたのでしょう。いいことだと思います。一方で、ずっと物価が上がり続けている。この1年半ぐらい、日銀目標である2%の物価上昇率を上回っています。
物価が上げり続けて消費マインドが冷え込むと「デフレマインドによるデフレ」に戻りかねない
佐々木)その代わり賃金も上がっているけれど、追いつかないから実質賃金は下がっている状況です。ニュースを見ても、「物価が上がって悲鳴が」という話ばかりです。そうすると何が起きるかと言うと、消費マインドが冷え込んでしまうのです。
飯田)消費マインドが。
佐々木)物価が高くて買えないから、買わないで我慢しようとする。これが行き過ぎると、今度は企業側も「みんなが買わないから、やはり値下げしなければ」という圧力になっていく。物価が下がってしまえば、もはやコストプッシュインフレではなく、いわゆるデフレマインドによるデフレに戻りかねません。物価が下がったからと言って、「必ずしも喜ばしいわけではない」というのが難しいところです。
景気をよくするには「物価上昇率を超える賃金の上昇」しかない
飯田)物価が上がっても、「この先はもっと上がるだろう」と思えば、「いま買わなければ」というマインドになります。しかし、「これからもっと下がるかも」という予想も出てしまっているのでしょうか?
佐々木)「物価が下がってよかった」などと言っていると、「まだ下がるかも」という期待値になってしまうので、メディアはあまり「物価が下がった」と言わない方がいいと思います。理想的なスタイルは、「物価上昇率を超える賃金の上昇」しかありません。来年(2024年)の春闘で「ドカン」と今年の春のように賃金が上がってくれれば、下がり続けた実質賃金が上昇し、もしくは同率ぐらいに追いついて、少し落ち着くかなと思います。賃金も物価も上がり、いわゆる好景気の循環に入っていくでしょう。しかし、物価だけが下がって賃金が上がらないと、失われた30年の暗い日々にまた戻ってしまう感じもします。
危ういバランスの上に成り立っているマクロ経済を回すことは容易ではない
飯田)物流の2024年問題など、いろいろなところで現場の企業経営者に取材する機会が多いのですが、「人手不足もあるし、賃金も上げたいけれど、お得意先が払ってくれないと上げられるものも上げられない。大企業なら上げられるだろうけれど」と言います。
佐々木)コロナ禍では「K字回復」と言われました。V字ではなく、Kの右上と右下、両方あるから分断が広がるのです。実際、物流などの分野では給料は上げられない。しかも働き方改革で、1人当たりの労働時間を減らさなければいけません。結果的に給料も下がるという問題が起きています。
飯田)手取りが下がっている。
佐々木)だからと言って、猛烈に働いて人並みの給料がもらえる状態がいいのかどうか。「ブラック労働もやめなければいけない。給料も上げ、経済も回さなければいけない」という問題に同時にすべて対応するのは、茨の道だと思います。マクロ経済は本当に危ういバランスの上に成り立っているので、これをうまく回すことは、政治だろうが経済だろうが容易ではないと思います。
岸田総理「コストカット経済からの脱却」は正しい ~問題は「どうやるか」が足りないこと
飯田)あまり大きく報じられていませんが、公正取引委員会が中小企業との間の契約において、人件費の上昇分を適切に転嫁するためのガイドラインを出しました。効くのでしょうか?
佐々木)大企業側が「部品や流通を値上げしてもいいからやる」という度量を示せるのか、そこにかかってくると思います。期待できるかどうかは本当にマインド次第なので。
飯田)一方で大企業側も、株主から見ると「こちらに利益を還元せずに何をやっているのだ」と言われてしまう可能性もある。世の中全体の空気が関わってくるのでしょうか?
佐々木)「コストを下げなければ」という意識が強いですからね。
飯田)ここ30年、それでやってきたところがある。
佐々木)岸田首相は「コストカット経済からの脱却」と言っていましたが、その理念は正しいと思います。
飯田)あとはどうやるのか。
佐々木)岸田首相には「どうやるか」という部分が足りないので、みんな怒っているのではないかと思います。
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