確実に技術を進める北朝鮮「核ミサイル」 手遅れになる前に「核オプション」の検討を

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日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が12月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイルについて解説した。

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲18」型の発射訓練。朝鮮中央通信が19日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 朝鮮通信/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲18」型の発射訓練。朝鮮中央通信が19日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 朝鮮通信/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

北朝鮮のミサイル、射程距離1万5000キロメートル超えか

防衛省は、北朝鮮が12月18日午前8時24分ごろ、平壌近郊から北東方向に大陸間弾道ミサイル(ICBM)級1発を発射したと発表した。弾頭の重量によっては、射程はアメリカ全土を収める1万5000キロメートルを超えるとみられる。北朝鮮は17日にも短距離弾道ミサイルとみられる1発を発射しており、日本政府は2日連続の発射に警戒を強めている。

アメリカ本土に打ち込むことができる核ミサイルを完成寸前まで進めている北朝鮮

飯田)ICBM級の可能性がある弾道ミサイルは、今年(2023年)7月12日以来、15回目の発射となります。

秋田)もはや政治的な挑発ではなく、計画通り、「アメリカ本土に打ち込むことができる核ミサイルを完成寸前まで進めている」ということです。ここまできたら、必ず完成させることを目指していると思います。

飯田)技術的には相当なところまできている。

秋田)今回はっきりしたのは、アメリカ本土全体をカバーできる飛距離だということです。また、技術はあるかも知れないけれど証明できていないのは、核弾頭を防護する耐熱技術があるかどうか。アメリカ本土へ打ち込むには大気圏を出て、再び弧を描き大気圏に入るのですが、そのときにものすごい熱を帯びます。

飯田)摩擦がすごいと言われています。

秋田)燃え尽きてしまうのですね。そうならないように、核弾頭を防護する耐熱技術があるかどうか。耐熱防護シールドのようなものをつけて突入し、そのあとはそれが外れて爆発しなければいけません。逆に言うと、その部分さえあればアメリカ全体が核ミサイルの射程に入る。証明できていないだけで、既に技術はあるかも知れません。

北朝鮮が米本土まで届くミサイルを開発すれば、日本や韓国が核の傘に守られているとは言い切れなくなってしまう

飯田)今後、アメリカの抑止の仕方も変わってくる可能性がありますか?

秋田)いまもそうですが、日本や韓国に対して北朝鮮が核攻撃した場合、アメリカは核で報復することを原則にしているわけです。そのため、北朝鮮はいま日本や韓国に核攻撃ができない状態になっています。

飯田)現状では。

秋田)ところが米本土まで届くとなれば、「もし北朝鮮に核ミサイルを発射したら、こちらもニューヨークやワシントンに届くミサイルがあるけれど、いいのか?」と言えるようになるのです。いままではハッタリに過ぎなかったけれど、ここまでくると本当に技術を持ってしまうかも知れない。そうすると、日本や韓国が核の傘に守られているとは言い切れなくなってしまう。そういう問題がかねてから言われていたのですが、いよいよ現実的になってきました。

日本も「アメリカの核の傘が綻びたときに、どのように補うか」を議論するべき

飯田)同盟国の不安が高まりますね。

秋田)韓国では、既に世論調査で7~8割の人が独自の核、もしくはアメリカの核ミサイル配備を求めている状態です。日本に置き換えると、大変多くの人が「核がないと不安」と思っているわけです。日本は広島・長崎の体験があるので、核に対するアレルギーが強いし、被爆国として非核を訴えてきたわけですが、逆に言うと核の脅威に最も敏感であるべき国だと思います。核問題をタブー視せず、「アメリカの核の傘が綻びたとき、どのように補うか」を議論しなければなりません。綻びてから走り出すのがいちばん危ないので、議論しておくべきだと思います。

飯田)亡くなった安倍元総理は、アメリカとの核共有なども含めて問題提起をしていました。

「いざとなったら日本にも配備する」のがいちばん簡単な「核のオプション」

秋田)私は、一気に日本が独自の核を持つというのは急ぎすぎだと思います。核のオプションは主に3つあり、1つはいま禁止されている核の持ち込みです。

飯田)非核三原則は「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」ですね。

秋田)そのうちの「持ち込ませる」という部分を、冷戦中の西ドイツのように「いざとなったら認める」と変える。ドイツはアメリカの核を常備していましたが、いざとなったら日本にも配備できる状態にするのが、いちばん簡単なオプションです。

飯田)そのように政策を変更する。

秋田)2つ目は、実際に動けるよう日頃から演習する。3つ目はイギリスがやっているように、アメリカと共同で核システム・核ミサイルを持つ。いちばん難易度が高いと思うのは、フランスのように独自の核を持つことです。いくつかのオプションがありますが、日本はどれもやっていません。まずは検討から始めるということですね。

お互いの可能なことを机の上に並べていく協議に変化していく「拡大抑止協議」

飯田)当局者間だと、例えば拡大抑止協議などは行われているわけですよね?

秋田)拡大抑止協議は、日本のオプションを考えるものではありません。これまでは、アメリカの核がどのように運用されているかについて、「信頼しろ」という感じでした。中身を見なくても「アメリカの核はしっかりと日本を守っているから」だけで終わっていたのです。

飯田)信用しろと。

秋田)しかし、北朝鮮が核開発を始めたので、日本は不安になり「しっかりと見せて説明して欲しい」と言い出した。そのため、オバマ政権時代から1年に1回、アメリカの核の運用がどうなっているか説明するようになったのが拡大抑止協議です。今後、米韓が先に「どういうオプションがあり得るのか」などの議論に進むのだと思いますが、そのような協議が徐々に始まるかも知れません。やるということではなく、何が可能なのか。

飯田)まずはお互いに可能なことを机の上に並べてみる。

秋田)私は、日本が一足飛びに核を持つことに対しては疑問を持っています。現段階では何もしていないわけですから、あまりいいオプションではないと思います。冷戦中は密約があって核を持ち込んでいたことがわかっているので、その問題をより透明化し、非核三原則の「持ち込ませず」から「いざという場合は持ち込むことを可能にするべきか」という議論から始めるのがいいと思います。

ロシアに100万発の砲弾を提供したと言われる北朝鮮

飯田)北のミサイル技術に関してですが、今年(2023年)、金正恩氏がロシアを訪れ、宇宙基地を訪問しました。あの辺りでいろいろな技術が入ったのではないかと言われていますが、いかがですか?

秋田)北朝鮮はロシアに100万発の砲弾を提供したと言われています。私がゼレンスキー大統領にインタビューした際も、「100万発」と言っていました。年間の数字だとは思いますが。これがどういう数かと言うと、欧州連合(EU)27ヵ国が協力してウクライナに砲弾を提供する目標が100万発です。ところが、現状では生産能力が追いつかず、約30万発しか提供できていません。

見返りに原子力潜水艦と水中発射型の核ミサイル技術の提供を受けた可能性

秋田)それに対して、北朝鮮1ヵ国で100万発を提供している。もちろん、ロシアはタダでもらえるわけがないので、北朝鮮に何の見返りがあったのか……。おそらくエネルギーや食料ではないと思います。アメリカの元高官に話を聞くと、最も北が欲しいと考え、もらっているであろう危険な技術は、原子力潜水艦の技術と、それに積む潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、水中発射型の核ミサイル技術です。

飯田)原子力潜水艦と水中発射型の核ミサイル技術が。

秋田)何回やっても失敗しているので、それをロシアが提供するのではないかと思います。あとは、いま核爆弾をたくさんつくっているわけですが、原材料になるプルトニウムが十分ではありません。大量生産するにはまだ足りないので、プルトニウムを提供しているのではないかと言っていました。ロシアと北朝鮮の協力は、ウクライナにとってもマイナスになる部分が大きいわけですが、実はその見返りで日本や韓国への脅威も高まっているのです。

潜水艦から発射する核搭載のSLBMミサイルの技術を確立すれば米本土まで近付いて撃つことも可能

秋田)ロシアは本当に砲弾を必要としていますが、北朝鮮はタダではあげないでしょう。潜水艦から発射する核搭載のSLBMミサイル技術を確立したら、もはや探知できないですよね。アメリカまで近付いて撃つことも可能になってしまうので、ゲームチェンジになる危険があります。

飯田)北朝鮮がアメリカを抑止する時代が来てしまう。

秋田)技術を確立したら、そうなります。日本やアメリカなどが、もっと真剣に北朝鮮の潜水艦をハントする体制をつくらなければいけなくなる。潜水艦を発見するには潜水艦がいちばん効率がいいので、常に北朝鮮の潜水艦をウォッチする潜水艦を、こちら側も割り当てなければいけません。

飯田)いまは対中国が中心ですが。

秋田)対中国とロシアですね。

飯田)そうすると、太平洋などがオペレーションの中心になるけれど、日本海も加わるようなことになる。

秋田)太平洋に出てしまったら、大海原なので見つけるのは難しい。そのためには、オホーツク海などの海峡を重点的に警備する必要があります。

飯田)樺太との間の間宮海峡や、青函の津軽海峡など。

秋田)日本と韓国は日本海に潜水艦がいて、そこから核ミサイルを発射できるので、非常に脅威なのです。

北朝鮮が核を持つことを「いいかな」と思い始めている中国

飯田)他方、中国の王毅共産党政治局員兼外相が、北朝鮮の外務次官と会ったという話がありました。中国から見ると、核ミサイルを持つ北の動きはどうなのでしょうか?

秋田)内心、快くは思っていないけれど、「まあいいかな」と思い始めているかも知れません。中国にとってのワーストシナリオは北朝鮮が崩壊して、在韓米軍がいる韓国の国境が中朝国境まで来てしまうことです。そうならないために、北朝鮮には強く安定していて欲しいわけです。そう考えると、核を排除して軍事的に脆弱になった北朝鮮と、核を持っていて手出しができない北朝鮮のどちらがいいかと言えば、後者になるのだと思います。真剣に核を放棄させようとはしていないですよね。

飯田)なるほど。

秋田)国連安保理でも、北朝鮮への制裁について、ロシアと中国はみんな反対しています。本気で廃棄させようと思ったら、そうはならないと思います。

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