2024年注目の科学トピックは?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第353回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2024年に注目すべき科学トピックについて---

小型月着陸実証機「SLIM」実機(JAXA提供)

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2024年、元日には石川県志賀町で最大震度7を観測する地震がありました。私は元日は深夜まで気象庁に詰め、取材にあたりました。石川県で震度7を観測するのは初めてだということです。寒いなか、不自由を強いられている方々も多いと思います。少しでも早く元の生活に戻られることを祈っています。

私は普段は防災の他、科学技術、自動車、経済・政治とさまざまな分野を担当しています。このうち、科学技術分野は今年(2024年)、どんなニュースが世間をにぎわすのでしょうか。今回の小欄は科学ジャーナリストの茜灯里(あかね・あかり)さんと、2024年注目の科学トピックについて語り合います。

茜さんとは、科学関係の取材現場でよくご一緒しますが、東京大学大学院の博士課程卒業です。専攻は地球惑星科学。朝日新聞の記者を経て、科学ジャーナリスト、しかも獣医師でもあるという多才な方です。

最近は『ビジネス教養としての最新科学トピックス』という本を出版。そのきっかけについて、茜さんは次のように話していました。

「もともと私は一般向けの科学教養の本を書きたいと思っていた。NewsweekのWeb版で科学コラムを連載していて、そちらを本にまとめる機会をいただいた」

科学のニュースを考えるときの「虎の巻」的な本と言えます。

そんな茜さんが考える今年注目・期待すべき科学の話題、今回は3つ挙げてもらいました。とは言いましても、選抜には大いに悩んだようです。数多のなかから茜さんは宇宙開発、医学、エネルギーの分野を1つずつ挙げてくれました。

(1)日本初の月面着陸なるか?

(畑中)JAXAの月着陸機「SLIM」……やはりこれですね。順調にいけば1月20日に着陸予定と。

(茜さん)去年(2023年)の9月7日にロケットで発射されましたので、意外と時間がかかるんですよね。長旅を経てぜひ世界で5番目、日本初の月面着陸を成功させて欲しいですね。

(畑中)いま、このSLIMはまさに月の近くまで来ているんですよね?

(茜さん)去年の12月25日に月の軌道に乗ったというニュースがありまして、あとはここで調整をしながら降りるだけという状態になっていますね。

(畑中)早ければ今月(1月)20日にもということなんですけれど、やっぱりこれ、着陸するときというのは、大変難しいけれど通らなくてはいけない道ですよね?

(茜さん)しかも、月面着陸は成功すれば世界で5番目ですが、日本はいままで他の国が成し遂げなかった誤差100m以内というピンポイント着陸を狙っているので、この成功というのもとてもすごいチャレンジですよね。このピンポイント着陸が成功できると、その狙った場所の地質調査ですとか、月は極地方に水資源が埋まっているんではないかという話もあり、そういった調査というのも「狙って」できますので、世界に先駆けて日本の技術力を見せられると思います。

(畑中)アメリカ主導によるアルテミス計画がありますが、去年の暮れですか、日本人の宇宙飛行士が月面着陸する方向でいま調整中だというニュースが飛び込んできました。

(茜さん)朗報でしたよね。

(畑中)今回のSLIMが成功するかどうかは、日本人が月に降り立てるという意味でのはずみになっていくのでは?

(茜さん)昨年はロケット関係で、あまりよくないニュースも続いてしまったのですけれど、これで成功するとまた、さらなるはずみがついて。H3ロケット2号機も2月に発射するというようなニュースも飛び込んできましたので、ぜひぜひここではずみをつけて宇宙開発、成功への道筋をさらに発展させていけたらと思いますね。

(畑中)期待いっぱいで待ちたいと思います。

科学ジャーナリスト・茜灯里さん

科学ジャーナリスト・茜灯里さん

(2)両親がオスのマウスから赤ちゃんマウスが誕生

(畑中)これ、びっくりしました。

(茜さん)これは私もびっくりしました。イギリスの学会でまず発表されたのですが、イギリスのガーディアン紙とか、イギリスメディアが飛びついて、そのあとに著名な科学雑誌ネイチャーでも本当に大きく取り上げられていました。

(畑中)これ、日本の大学がやったんですよね?

(茜さん)はい、大阪大学の林克彦教授らの研究チームが成し遂げました。

(畑中)具体的にはどういう技術になりますか?

(茜さん)オスは精子を持っているんですが、オスの皮膚の細胞からiPS細胞……山中伸弥先生が開発してノーベル賞をとった技術ですが、iPS細胞にして、どんな細胞にもなれるような状態にして、オスの皮膚の細胞から卵子をつくりました。そして、その卵子を別のオスの精子に受精させ、受精卵をつくるというようなことをしました。

(畑中)今後、特に今年以降はどんな展開が予想されますか?

(茜さん)いちばんに利用できると思えるのが、絶滅危惧種の動物に対する利用です。今回の成功で、オスだけしか残っていない絶滅危惧種というのも子孫を残せる可能性が高まってきました。

(畑中)ヒトへの応用もこれから……。

(茜さん)マウスというのは割とヒトとよく似ている。だからモデル動物に使われていますので、マウスの成功からヒトにこれから応用していくのは十分に考えられると思います。

(畑中)ただ、出産ということに応用されるとなると、人間の生と死に関わることであり、倫理的な問題は避けられないですよね?

(茜さん)実は受精卵までつくることができても、それを育てるには、オス同士のマウスではいわゆる借り腹、メスの子宮を使わなくてはいけない。受精ゼロ日目から出産までをずっと育んでくれる子宮というのは開発できていないんですね。なので、両親がオスだとしても、どうしてもやはりメスの子宮が必要で、「偉大だな、女の人は」というような話にもつながります。なので、ヒトにも応用するとなると、女の人の協力、子宮の協力が必要です。さらに倫理的な障壁というのがありますけれども、やはりまず、技術ができたというニュースから(始まり)、ヒトに応用できるのが10年後だとしたら、10年間ゆっくりとそういう倫理的な問題も話し合って、必要に応じて使えるようにできればと思っています。

(3)次世代エネルギー、核融合発電なるか?

(畑中)「核」という言葉が出てくると、何となくおっかなびっくりという感じですが……。

(茜さん)核とつくと、原発とか、核分裂、原爆などをイメージして、また暴走してしまったら事故で人がひどい目に合うのではないかと心配される方もいらっしゃるんですけれど、核融合というのは安全性には定評があります。いわゆる普通の原発は、核分裂を使っていて、放っておいてもどんどん核分裂が進みそうになるのを、制御棒を使って、いわばブレーキを使いながら制御しているという感じです。それに対して、核融合発電というのは、重水素と三重水素という2種類の水素を使ってヘリウムにするという、実際に太陽の内部でできているような反応で、放っておけばすぐに止まってしまうような反応なんですね。なので、人工的に高い温度などをつくらないと進まないので、暴走するような心配はないということになります。2つ目には、核融合発電に使う材料、重水素と三重水素は原料がリチウムになるんですが、リチウムは海水中に豊富にあります。日本は石油ですとか、ウランですとか、輸入に頼っていましたが、輸入に頼らなくてもいいという利点があります。3つ目は、この核融合発電ではヘリウムと中性子だけが発生しますので、温室効果ガスは発生しません。ですからクリーンエネルギーと言えます。

(畑中)私、経済関係も取材しているんですが、経団連の十倉雅和会長がことあるごとに、この核融合発電の重要性を説いています。将来性はどうですか?

(茜さん)核融合発電の象徴的なものが、フランスに建設中の核融合実験炉の「ITER(イーター)」というものです。これは本当に世界の先進国全部が協力しているようなもので、日本、アメリカ、EU、ロシア、中国、韓国、インドが協力して、2.5兆円かけてつくっています。ただし、こちらが成功しても、世界中で核融合発電が人々の生活に役立つようになるには、さらにそこから数十年かかるということで、道のりは決して短くないんですね。

(畑中)われわれが生きている間にはちょっと……。

(茜さん)いま、がんばって2050年までとか、2035年までには小型の核融合炉をつくって発動させたいとか、いろいろな話があるんですが、ちょっと道のりは正直言って長いです。ただし、このプロセスというのが、とても財産になるんですね。例えば、核融合炉の発展のためにつくっていた超電導コイルの開発ですとか、プラズマの発電に耐えうるような材質の開発というのは、他のものにも応用できる技術ですし、将来的に科学技術の担い手となるような人たちにもつながっていきますので、とても意義のある試みだと思います。日本というのは、ちょっとITの世界で、世界から乗り遅れてしまった感があるので、今度こそはやっぱり、核融合の世界では乗り遅れるどころではなく、リードするような働きが世界に示せたらということで、政府もがんばっているのではないかなと思います。

(畑中)日本は希望を持てそうですか?

(茜さん)実はいま、日本の核融合炉に関する技術というのは、すでに日本のベンチャー企業が欧米に技術提供をしていたりします。以前は日本というのは、数年後ぐらいに回収できるような技術にしか企業家もお金を出さないなどと言われていましたが、いま核融合炉のスタートアップ企業には、100億というような多額の金額が、資本として投入されていたりします。

(畑中)となると、今後やっぱり、もっとお金を出すというような機運が盛り上がらないと……。

(茜さん)そうですね。特に日本政府がそこにお金を出すとなると国民の目も厳しいですから、ぜひともこれは日本だけでなく世界にとっても、エネルギー問題を開発するような技術ですし、そこで日本も勝ち残っていかなければならないということを、ぜひ皆さんに知ってもらって、じゃあ、そこに政府はお金を使ってもいいのではないかみたいな機運が高まればいいなと思います。

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「月面着陸」「両親がオスの出産技術」「核融合発電」、今回はこの3点をお伝えしました。科学分野のニュースは私たちの生活を便利で豊かにしてくれます。一方、科学は未知との戦いと言いますか、知らないことをどう理解していくか、その戦いとも思います。知識欲をもって立ち向かうことで、便利で豊かな社会、未知との戦いの橋渡しの役目を担えればと思っています。(了)

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