東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が3月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3月4日から始まった米韓合同軍事演習について解説した。
米韓の大規模演習「フリーダムシールド」開始
米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」が3月4~14日までの日程で始まった。今回の野外機動訓練は、2023年春の2倍以上となる48回を予定。北朝鮮による巡航ミサイル発射を想定した探知、迎撃、爆撃などの訓練が行われる。
北朝鮮に対して「妙なことを考えるな」というメッセージ効果も含んだ演習
飯田)「自由の盾」という名前の大規模合同演習です。北朝鮮がさまざまなミサイルを撃っていることへの対応でもあるのでしょうか?
小泉)ミサイルの多様化・高性能化で見つけにくくなっていますし、数も増えています。米韓連合軍からすれば、有事にどうやって北のミサイルを無力化するかは当然、大きな課題です。北朝鮮がどこまで本気かわかりませんが、金正恩政権としては、平和的な「南北統一路線」を放棄しました。「韓国は主敵」と言い始めていますので、政治的レトリックのレベルでは緊張が上がっています。まだ軍事的な状況そのものの緊張には至っていませんが、緊張するなかでの演習ですので、メッセージ効果も含んでいると思います。「妙なことを考えるなよ」という意味で。
飯田)なるほど。
小泉)毎回、北朝鮮は米韓連合軍の大規模演習に対して、政治的な牽制や技術開発の訓練なども兼ねているのでしょうけれど、演習期間の前後にミサイル発射などを行います。今年(2024年)はどんなことを行うのかも注目されます。
北朝鮮からロシアへ弾を運んでいる貨物船の動きが「見られなくなっている」という説も
飯田)他方、ロシアに対しては相当、武器を供与しているなかで、北朝鮮には在庫があるのでしょうか?
小泉)北朝鮮の砲弾の生産能力に関しては、年間200万発という説から600万発という説まであるのです。
飯田)かなり幅があるのですね。
小泉)ロシアの年間の生産能力は平時で約200万発と言われているので、あの小さな北朝鮮が1年に200万発を生産するだけでも驚きますし、600万発つくれるなら脅威的です。ただ、少なくとも約300万発をロシアへ供与したと言われていますが、今年1月に入り、北朝鮮からロシアへ弾を運ぶ貨物船の動きが見られなくなったという話もあります。弾が切れたのか、それともロシアから思ったほどの見返りがなかったので止めたのかはわかりませんが、北朝鮮がロシアへ弾を流しているという話には新展開があるようです。
飯田)蜜月のイメージがありましたが、蜜月一辺倒ではないのですね。
中露関係、露朝関係は映画『仁義なき戦い』と同じと見ておく方がいい
小泉)以前から東大の学生に向けて、あるいは講演会などでは「映画『仁義なき戦い』を観ましょう」と言っています。ロシアと中国、ロシアと北朝鮮の関係を、NATOや日米同盟のように考えてはいけないのです。あれはヤクザ同士の合従連衡であり、場合によっては兄弟盃も交わしますが、うまくいかなければ「ちいと筋が通っとらんのと違うかのう?」となるわけです。そう考えないと、彼らの動きにいちいち振り回されてしまいます。
飯田)少し距離を置くというか……。「なんじゃったら盃叩き割ってやるぜ」と。
小泉)そのような話になりかねませんし、実際、今回のロシアと北朝鮮のように関係が短期間で変転します。一挙手一投足をよく見る必要はありますが、惑わされないようにしないといけません。
尹政権の間にいろいろなものを制度としてつくり、残すべき
飯田)我々は距離を置いて見つつ、仲間内はしっかり連携しなくてはならないのでしょうか?
小泉)仲間を増やした方がいいわけです。韓国が日米との協力に前向きである尹政権のうちに、なるべくいろいろなものを制度として残しておく。また、オーストラリアなども含めた他国間の連携など、できるだけのことをやっておくべきだと思います。
飯田)韓国のように政権ごとに対応が変わってしまう場合、仕組みで変わらせないようにすることが大事ですね。
小泉)しかも、韓国だけのリスクではありません。アメリカですらわからないことです。
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