インドでは「民主主義の根幹である選挙」が正しくできていないのではないか? 専門家が指摘

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戦略科学者の中川コージが3月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月19日から各州で順次投票が始まるインド総選挙について解説した。

第18回東アジア首脳会議=2023年9月7日 EPA=時事 写真提供:時事通信

第18回東アジア首脳会議=2023年9月7日 EPA=時事 写真提供:時事通信

インド、総選挙を目前に野党の指導者が汚職で逮捕

4月に総選挙を控えたインドで3月21日、野党の指導者が汚職に関与したとして逮捕された。野党側は「総選挙を前にした弾圧だ」と激しく非難。モディ首相が3選を目指すインド総選挙は4月19日から各州で順次投票が始まり、6月4日に一斉開票となる。

飯田)野党の指導者が汚職に関与したようですが、どういうことでしょうか?

中川)日本で例えれば、岸田首相・自民党総裁の権限下において、東京都知事などの重要な都市の首長をパージするような話です。

飯田)「維新の会が我々を脅かすかも」と言って、吉村知事を外してしまうような。

中川)総選挙のない時期であれば、実際に汚職が起きた可能性もあるのでしょうが、総選挙の直前ですからね。(逮捕されたのは)野党の中核になるような人ですし。なおかつ、総選挙は全国の選挙管理委員会が取り仕切るのですが、委員長1人と委員2人という重要なポストです。そもそもその1人が欠員だったことも問題ですが、直前の3月10日に突然、そのうちの1人が理由なく辞めてしまったのです。モディ政権から何か言われ、「支えきれなくなって辞めたのではないか」という噂が立っているくらいです。

飯田)きな臭いですね。

インドでは、民主主義の根幹である選挙が正しくできているのか?

中川)日本でも政治とカネの問題が出ていますが、インドには「選挙債」というシステムがあり、誰に献金したかわからないようになっていました。それが野党側や最高裁判所の追及によって、ようやく選挙前に出てきたのですが、インド人民党(BJP)にたくさん裏金が流れていたという話がありました。正当性の面からも「きちんと選挙ができているのか」が問題になっています。

飯田)そうですよね。

中川)なぜ我々がインドを信用できるかと言うと、最終的には「民主主義だから」というところがあります。しかし、そもそも民主主義の根幹である「選挙ができているのか?」というところに、いろいろな意味で疑義が生じています。

与野党ともに「癒着」を攻撃

飯田)そもそも選挙債というのは、国債のようなものですか?

中川)銀行が幹事のような会社で発行しています。最高裁判所は、そこに開示請求をしていたのです。

飯田)そのような債権が売れるのですね。

中川)与野党ともに癒着に関して攻撃が始まっている状況です。

インドでは約67%が専制政治を認めている

中川)ピュー・リサーチ・センターというアメリカのシンクタンクが、2024年2月に出した新しいデータがあります。「インド人は民主主義に対してどのような感覚を持っているのか?」という内容です。専制政治に関して、「首相が議会の承認を得ずに何でもやってしまうことをどう思いますか?」と聞くと、アメリカではそれをOKとするのは約26%です。ほとんどの人が「専制政治はよくない」と答えている。また、日本では約33%の人がOKとしており、低い数字ですよね。

飯田)少数ですね。

中川)ところがインドでは、約67%の人が賛同しているのです。調べたなかではダントツに高い。過半数を超える人が「専制政治がいい」と言ってしまっている状態で、それはどうなのでしょうか。

飯田)とにかく「お上が決めてくれ」と。

官僚が仕切るテクノクラシーも認めるインド国民

中川)また官僚制についても、「公選を経ない官僚が仕切るテクノクラシーをどう思いますか?」と質問すると、アメリカでは約48%がOKだったのに対し、インドでは約82%がOKという結果が出ています。おそらく植民地時代の感覚があるのだと思います。官僚に対してリスペクトがありつつ、信奉してしまっているような。

飯田)決めるのは彼らの仕事で、自分たちは実行するだけだという。

軍が仕切ることもインド国民はOK

中川)「軍が仕切るのはどうですか?」という質問に対しては、アメリカでは賛成が約15%で、ほとんどダメですよね。日本でも賛成は約17%なので、ほとんどダメです。インドではどれくらいだと思いますか?

飯田)いまの流れだと、7~8割がOKという結果になりそうです。

中川)約72%がOKなのです。「軍でも官僚によってでもいい。また、専制政治もいい」と言っている。これは「完全に民主主義を望んでいないのではないか?」と思いますよね。

しかし、「デモクラシーは上手く動いている」と思うインドの国民

中川)しかし、「デモクラシーは上手く動いていると思いますか?」という最終的な質問に対しては、アメリカだと約33%が動いていると思っており、日本でも約35%が動いていると思っている。つまり、「デモクラシーが動いている」と思っているのは3分の1の人しかいないのですが、インドでは約72%が「動いている」と言っているのです。謎の自信がある。専制主義がいい、軍による仕切りもいい、テクノクラートによる政治もいい、公選を経なくてもいいと思っているにも関わらず、デモクラシーについては72%が「上手く動いている」と思っている。

飯田)普通は「捻れている」と思うけれど、インドの人たちは一気通貫している思いがあるのですね。

我々が持つ民主主義に対する考え方とは違う

中川)まさにインド人のマインドをピュー・リサーチ・センターのデータは表していると思うのですが、このマインドの違いが「民主主義に対する感覚とは違う」と思います。我々からすると矛盾ですよね。

飯田)「公正な選挙をやったらこうはならないだろう」と思うけれど、選挙は公正だと思っている。

中川)官僚が仕切れば、日本だと「社会主義ではないか」と言われます。公選を経ないことに関しても「いい」と言ってしまっているのに、「デモクラシーは動いている」と言う。

飯田)選挙で選ばれた政治家がしっかりコントロールしているから「官僚制がいい」と言っているわけでもないのですよね?

中川)このリサーチを見ると、そうでもないようです。我々の認識する民主主義とは違うし、彼らが自分たちを「民主主義の母である」と自負しているのも不思議です。首長をパージしてしまったり、選管の要職が突然辞めてしまったり、さらには選挙債の話などもあります。先日も、カナダで放映されたカリスタン運動がYouTubeで流れているから「禁止してくれ」という情報統制をインド側が言うなど、「日本人の考えることとは違うな」ということだけは理解できます。

「ポスト・モディ問題」をどうするか

飯田)この週末には野党が「大規模なデモをやろう」と呼びかけているそうですが、聞けば聞くほどすごいですね。

中川)独裁とは言いませんが、それを是認しながらも「デモクラシーは動いている」と思える国民性がよくわかりません。

飯田)かつて「民主主義は期間限定の独裁だ」と言って物議を醸したニュースがありましたが、ある意味でそれを実践している国なのでしょうか?

中川)もともと国民会議派という左派政権が長過ぎて、世襲で腐敗していました。そこからモディさんが「反世襲、反腐敗」を掲げ、開発独裁的に経済発展を進めたので、そこに賞賛が集まるのはわかります。ただ、やはりナショナリズムなので、極めて強権的に少数派とは与しない政治をやってきたので、経済発展も落ちてしまい、なおかつインド人民党の世襲も広がれば、「マイナス・マイナス・プラス」だったものが「マイナス・マイナス・マイナス」になってしまいます。そのとき「ポスト・モディ問題」はどうなるのでしょうか。

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