
元プロレスラー”ミスターデンジャー”が経営するステーキハウス
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12月に入って、何かと慌ただしい季節。つい食事を疎かにしがちですが、そんな時こそ、分厚いステーキ、いかがでしょうか。今回は、引退してなお戦い続ける元プロレスラーのステーキハウスのお話です。

派手な看板と装飾が目を引く「ミスターデンジャー」
それぞれの朝はそれぞれの物語を連れてやってきます。
東京の下町を走る東武亀戸線。曳舟駅から亀戸駅までの3.4キロを、2両編成の電車が往復し、"都心にいちばん近いローカル線"として親しまれています。たった5駅だけの短い路線ですが、ちょうど真ん中、「東あずま駅」で降り3分ほど歩くと、派手な看板と、独特の飾り付けが目を引くステーキハウス『ミスターデンジャー』が見えてきます。プロレスファンなら、その名前でピンとくるはず……。ここは元プロレスラーの松永光弘さんのお店です。
松永さんは1966年生まれ。来年還暦、60歳を迎えますが、今もジムで鍛えて、分厚い胸板、太い腕、がっしりした足腰は健在です。その名が知られたのは、大仁田厚選手との日本初"有刺鉄線デスマッチ"。その後も、誰もやったことのないデスマッチファイターとして名を広め、後楽園ホールの2階のバルコニーから、6メートル下にいる対戦相手へ飛び降りる史上初・前代未聞の大技"バルコニーダイブ"に観客は大熱狂! これで松永さんは"ミスターデンジャー"と呼ばれるようになりました。
強敵を相手に壮絶なデスマッチを繰り広げる松永さん! 今なお語り草になっているのが"五寸釘デスマッチ"です。リング下には、五寸釘を打ちつけたボードが、ずらりと並べられました。かつてアントニオ猪木と上田馬之助がこのルールで闘いましたが、2人が五寸釘へ落ちることはなく、勝負はリング上で決着。「どうせ今回も落ちないんだろ」と囁かれ、チケットの売れ行きは今一つ。そこで松永さんは、思い切ってルールを変更します。「相手を五寸釘ボードに落としたら勝ち」。するとチケットは即完売! 迎えた当日、会場は超満員。観客が固唾を飲んで見守る中、五寸釘に落ちたのは……松永さんでした。地獄のような痛みに耐えながら「お客さんに喜んでもらえてよかった」と、ほっとしたと言います。

「ミスターデンジャー」松永光弘さんがお出迎え
"電流爆破デスマッチ"、"ピラニアデスマッチ"、"ワニデスマッチ"、"サソリ&サボテンデスマッチ"など、誰もやったことのない試合を続け、名実ともに「デスマッチ王」となった松永光弘さん。しかし、生きるか死ぬかの闘いを続ける中、ふと頭によぎったのは、「このままでは人生が大変なことになる」、プロレス以外でも食える道を……。そこで松永さんはステーキ店で修業を積み、1996年にお店を開きます。試合を終えると、すぐに店に戻り、厨房に立つ、まさに"二刀流"の日々。開業当初、「こんな場所で成功するはずがない」と笑われたほど、飲食店に不向きな立地でしたが、地元の皆さんに愛されて支えられ、さらにプロレスファンからも「ミスターデンジャーに会える」と口コミが広がり、行列が絶えない人気店となります。
ステーキハウスは「儲かる商売」と言われましたが、2000年に入ると、狂牛病騒動、そして輸入牛肉の高騰が続き、経営は厳しくなります。体を壊す前に、43歳という若さでプロレスラーを引退した松永さんですが、その体に変調が現れます。踵に激痛が走り、厨房に立つことも困難に。診断の結果、「足底腱膜炎」という病気でした。肉を柔らかくする仕込み作業や、熱い鉄板の前で何時間も立ち続けますが、足の痛みに耐えきれず、ギブアップ寸前だったと、松永さんは振り返ります。

食事をするとサイン入りカードがもらえる特典付き
「衝撃波治療」という手術をせずに患部の痛みを和らげる治療法に出会い、徐々に痛みは収まっていきますが、次に待っていたのは、コロナ禍でした。「不要不急」「ソーシャルディスタンス」「ロックダウン」でお店が開けない。松永さんは従業員に給料が払えるうちにと、閉店を決断します。すると従業員から「僕たちの給料を削ってでも店を続けて下さい」と励まされ、家族のような絆で結ばれていたことに松永さんは気づきます。「狂牛病」「自身の病気」「コロナ禍」を乗り越えた松永さんですが、この後も"デスマッチ"は続きます。この不景気と物価高、さらに「令和の米騒動」がお店を直撃しました。
「パンにしたら? と言われることがありますが、ステーキには、やっぱりライスなんですよ。それも国産のお米と一緒に食べるステーキが一番うまい。結局、値上げしかありませんでした」
来年還暦を迎える松永さん。お店は30周年を迎えます。しかし節目となる来年、外食産業にとって、大きな転換期になると、松永さんは不安視しています。
その思いから、12月9日、西葛西出版より、『令和のステーキ店経営デスマッチ』を出版します。

12月9日発売の『令和のステーキ店経営デスマッチ』(西葛西出版)
「飲食業界は、来年から本格的にデスマッチの時代に入ると思うんです。飲食店の現実を知ってほしいし、同業者と一緒に闘っていきたい。そんな熱い思いを込めて、この本を書きました。トランプ関税、消費税減税、そして今の政権についても、私の正直な気持ちを書いたので、ぜひ読んでほしい」ミスターデンジャー・松永光弘さんのデスマッチは、まだまだ続きます。
東京都墨田区立花3-2-12 田中ビル1F
03-3614-8929
営業日:月、火、木~日 17:00~22:30
定休日:水
https://nishikasaibooks.jp
https://shop.nishikasaibooks.jp/





