あけの語りびと

誰もが本格ジャズを楽しめるコンサート『0才からのジャズコンサート』「“ジャズはアドリブ”と言いますが、人生も同じ」

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ジャズというと、場末のバーで、薄暗い照明の中、タバコをくゆらせながら、バーボンを片手にスウィングする……そんなイメージではないでしょうか。今回は、赤ちゃんから大人まで楽しめる、『0才からのジャズコンサート』のお話です。

クニ三上トリオ(ベース・林正男、ドラムス・横山和明)(写真提供オフィスヨコタ)

クニ三上トリオ(ベース・林正男、ドラムス・横山和明)(写真提供オフィスヨコタ)

それぞれの朝はそれぞれの物語を連れてやってきます。

10月5日(日)、千葉県市川市の「行徳文化ホールI&I」で『0才からのジャズコンサート』が開かれました。赤ちゃんから大人まで、誰もが本格ジャズを楽しめるコンサートですが、「0才から」と謳っているだけあって、会場には「ベビーカー置き場」や「おむつ替えコーナー」「授乳コーナー」があり、赤ちゃんを抱っこした若いご夫婦の姿が多く見られました。

授乳スペース・おむつ替えスペースも用意(写真提供オフィスヨコタ)

授乳スペース・おむつ替えスペースも用意(写真提供オフィスヨコタ)

開演前は、赤ちゃんが泣いたり、ぐずったり、また、小さなお子さんがコンサート会場を駆け回ったりして、「これで本格ジャズが聴けるかな?」と、少し心配になりましたが、ステージに登場した「クニ三上トリオ」がオープニングナンバー『A列車で行こう』を演奏し始めると、ぐずっていた赤ちゃんが、ピタっと泣き止むんですね。それでも元気に泣く赤ちゃんもいて、そんなときはママやパパが抱っこしてジャズに合わせてあやすと、泣いていた赤ちゃんが、すやすやと気持ちよく眠り込むんです。

鍋やフライパンを使って楽しい演奏も披露(写真提供オフィスヨコタ)

鍋やフライパンを使って楽しい演奏も披露(写真提供オフィスヨコタ)

ジャズを楽しみに聴きに来る方もいるので、「赤ちゃんが泣き止まなかったら一旦会場の外に出る」というルールが設けられています。また、客席の照明はつけたままにし、座席の間隔にも余裕を持たせるなど、さまざまな配慮がなされていました。

「行徳文化ホールI&I」は、10月1日に、リニューアルオープンしたばかり。その記念公演として開かれたのが、今回の『0才からのジャズコンサート』です。

ベビーカーを押す若い夫婦が目立つ(写真提供オフィスヨコタ)

ベビーカーを押す若い夫婦が目立つ(写真提供オフィスヨコタ)

このコンサートを主催する「クニ三上」さんは、1954年、東京のご出身です。子どもの頃からクラシックピアノを習っていましたが、中学に入ると、フォークソングブームで岡林信康を聴き、高校に入ると、ローリングストーンズに夢中になります。でも、フォークもロックも、クラシックピアノとはちょっと距離がある……。そんな時、ジャズのスタンダードナンバー『テイク・ファイヴ』を耳にして一気にジャズの世界に魅せられてしまいます。

「高校2年の時から、浅草のキャバレーでピアノを弾いていましたね。先輩のジャズミュージシャンに勧められて『お前、やってこい!』って。そこはタバコの煙がもうもうと立ち込めて、チークタイムにムードのある曲をピアノで弾くと、客とホステスが100人ほど抱き合って踊るんです。まるで映画のようでした……」

そんな学生時代を過ごしていた三上さんは、19歳で単身ニューヨークに渡り、ジャズピアノの巨匠、バリー・ハリスに師事します。言葉も通じず、ジャズ用語もわからない──苦労の連続でしたが、それでも、本場のジャズミュージシャンの演奏を目の前で聴けて、これほど刺激的なことはなかったと、三上さんは言います。その後、ビッグバンドの名門、ライオネル・ハンプトン楽団に入団し、あのデューク・エリントン楽団など、トップクラスのビッグバンドで演奏。全米及び世界各国で公演を重ねてきました。いまもマンハッタンに暮らす三上さんですが、20年前から春と秋に日本に帰り、定期的に『0才からのジャズコンサート』を開催しています。

赤ちゃんから大人まで本格ジャズが楽しめる(写真提供オフィスヨコタ)

赤ちゃんから大人まで本格ジャズが楽しめる(写真提供オフィスヨコタ)

「日本でジャズといえば、薄暗いバーで、汗を流しながら楽器を弾き、タバコや酒を飲みながら聴く、そんなイメージが今もあるんですよ。でも、昼間に聴くジャズがあってもいいし、ジャズは大人だけの音楽でもない。そこで、0才の赤ちゃんから大人まで、誰でもが楽しめる本格ジャズを聴いてほしいと、『0才からのジャズコンサート』を始めたんです」

赤ちゃんが突然泣き出して、気になることはありませんか、と伺うと、「全くありませんね、赤ん坊の泣き声も音楽だと思っています。それにライブは何が起こるかわかりません。演奏を間違えることもありますから。慌てずに演奏を続ける、行き当たりばったり、それがジャズなんです。“ジャズはアドリブ”と言いますが、人生も同じ。思うようにはいかない。だから僕は“人生もアドリブ”だと思って生きてきました。その時その時を気ままに楽しみながら、これからもやっていこうと思っています」

クニ三上さんのピアノは、軽やかで、心をハッピーにしてくれます。

次回、埼玉県坂戸市に続き、神奈川、千葉でも開催。(写真提供オフィスヨコタ)

次回、埼玉県坂戸市に続き、神奈川、千葉でも開催。(写真提供オフィスヨコタ)

■2025年 秋『0才からのジャズコンサート』日程
・10月19日(日) 埼玉県坂戸市・坂戸市文化施設オルモ
・10月22日(水) 神奈川県横浜市・フィリアホール
・10月25日(土) 千葉県東金市・東金文化会館
・11月10日(月) 神奈川県川崎市・ミューザ川崎シンフォニーホール

そのほかのライブ情報はホームページでご確認ください。
https://www.kunimikami.com/indexjp.html

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