
今週、ニッポン放送の各番組では「防災」をテーマに様々な企画をお送りしています。『上柳昌彦 あさぼらけ』では、水でもお湯でも炊き立てのご飯が味わえる「アルファ米」にスポットを当てます。皆さんは食べたことありますか?

尾西食品 広報室・森田慶子室長
それぞれの朝はそれぞれの物語を連れてやってきます。
登山やアウトドアを楽しむ方にはお馴染みの「アルファ米」。ジッパー付きの袋が容器になっていて、水なら60分、お湯なら15分で完成します。山に登る前に水を注いでおけば、山頂で炊き立てのご飯が味わえるんです。

創業者・尾西敏保氏(紫綬褒章受章、首相官邸にて)
そんな「アルファ米」が、いつ、誰によって開発したか、ご存じでしょうか。開発したのは、アルファ米のパイオニア、尾西食品の初代社長、尾西敏保さん。明治32年、鳥取県で生まれますが家が貧しく中学を中退後、蒸気機関車の助手として働き、第一次世界大戦の末期に、海兵隊に入隊しました。とても学業に優れていた尾西さんは、海軍機関学校で電気工学を学び、当時、最新兵器であった潜水艦の乗組員を目指して海軍潜水学校へ進学します。
やがて下士官として潜水艦に乗り込むようになりますが、酸素が貴重な潜水艦の中では火を使った調理ができません。尾西さんは潜水艦での食事を改善できないかと考え、保存食の構想を練り続けました。昭和7年に退役し、製薬会社に勤めた尾西さんは、貧困時代、おばあさんが染め物用の糊に砂糖を加えて水に練って食べていた姿を思い出します。これをヒントに、澱粉を「アルファ化」する加工技術を開発。昭和10年、尾西食品研究所を設立すると、火を使わず水を注ぐだけで、つきたてのお餅になる『餅の素』をつくり、海軍に納入すると評判となり、「前線でご飯を炊けば煙で敵に見つかる。火を使わずに食べられるご飯を開発してほしい」という要請が届きます。

人気商品「尾西のごはん」シリーズ
尾西さんはこれを受けて、洗わず、水を注ぐだけで食べられる『乾燥飯』(かんそうめし=現在のアルファ米)の開発と量産化に着手しました。大阪大学の二国二郎博士と共同開発に成功した「アルファ米」はジャングルでは煙を上げず、潜水艦では浮上せずに食べられると重宝され、およそ6千トンが納入されました。しかし、完成したのが昭和19年で、戦局は悪化の一途……。アルファ米が量産できても、輸送船は次々と沈められ、前線へ食糧を届けることが難しくなっていました。
そこで、軽くて保存性に優れたアルファ米をゴム袋に詰め、潜水艦の魚雷発射管から打ち出し、海流に乗せて島へ漂着させる――そんな無謀な作戦でも実際に漂着したアルファ米を食べたという兵士の証言が残っているそうです。
軍事食糧として開発された「アルファ米」でしたが、戦後、経済成長と共に〝飽食の時代〟を迎えると、その需要は、ぱたっと途絶えてしまいます。
再び注目を集めたのは、1995年1月17日の阪神淡路大震災です。長引く真冬の避難所生活で、普段の食事を求める声が多く上がりました。それまで非常食といえば乾パンでしたが、水だけで美味しいご飯が食べられるアルファ米が徐々に見直され、2011年の東日本大震災でも大いに活用され、今では非常食の主役になっています。
昨年1月1日に起きた能登半島地震では、農林水産省の要請を受け、尾西食品のアルファ米が30万食以上、被災地に届けられました。

握らずに作れるアルファ米の「携帯おにぎり」
尾西食品株式会社・広報室の室長、森田慶子さんに伺うと、被災者の方からは、こんな声が寄せられたそうです。
「レトルト食品は、高齢者には少し味が濃いんです。そんなときに届いた水だけで作れる『おにぎり』は美味しかった。やさしい味付けで、食べるとホッとした気持ちになりました」アルファ米の『携帯おにぎり』は、手を汚さず、水だけで三角のおにぎりが作れて、被災地でも大好評だったそうです。
また、緊急消防援助隊の隊員からは「お湯でも水でも手軽に作れて、味も量も十分でした。限界の空腹で食べた味は格別で、被災地で働く原動力になりました」との声も寄せられました。

防災食から宇宙食まで、豊富なラインアップ
尾西食品では、未来を担う子どもたちに向けて『防災教室』を開催しています。防災士・防災介助士、そして防災備蓄管理士の資格を持つ森田さんは「非常食をもっと身近な食べ物として取り入れてほしい」と話します。
「非常食は〝食べるもの〟ではなく〝備えておくもの〟という固定観念があって、食べたことがない方がとても多いんです。一度も食べたことがないと、いざというときに作り方が分からなかったり、好みの味でなかったりすることもあります。だからこそ非常食を時々普段の食事に取り入れて、子どものうちから慣れ親しんでほしいですね」
「防災週間」は9月5日まで。この機会に『アルファ米』を食べながら、もしものときの連絡方法や避難場所など、家族の約束ごとを話し合ってみませんか?